Ⅶ_弟子
神様候補とか神様とかその他もろもろを説明する回。
モダと俺は神界に戻った。
人間界の治療院と違って、神界で治療を受ければ、どんな重症患者もほんの数時間で完治する。人間界だったら治るわけがない怪我も、治ることがある。シニガミがいない時、かつ十日以内で帰れる距離なら、俺も極力神界で治療をうけるようにはしていた。
「人間界の奴らは低知能だから、文明が遅れている」なんて揶揄する神界の住民もいるが。知能の問題じゃなくて、高度な技術を一つの国が独り占めしていれば格差が出るのも当たり前じゃないか? って、俺は思うんだけど。
俺は神界生まれ神界育ちのごく一般的な神様候補だが、神界の住民じゃなくても神様候補になれた例がある。人間界の人を、師匠となる神様が入門を許してくれたら、の話だけど。神様は何十人と弟子を抱えて、自分の神様としての力を広めながら、新たな神様を育てている。
そして神様候補として修行を積む者は、人間界のあらゆる場所で、師に与えられた任務を遂行する。
神使もやってることは似てるけど、モダたちは庶務管理やサポーターをする秘書のようなものだ。一方で、神様候補は神様の部下。神様の仕事の一部を担う者でもあり、手下でもある。
いや、どんな神様になりたいかによって、どんな経験を積むかは弟子それぞれなんだけどね。
ひたすら怪魔と戦いまくる俺見たいな奴もいれば、コミュニケーションを重視して人と人の間を取り持つ神様候補もいる。その辺りは恋のキューピッドや商売の福を呼ぶといった類のものかな。
俺は安定した幸福を与えるという神様・静神ガイウスを師匠としていた。ガイウス神の能力は肩書きの通り、?ものを静める?能力。安定した幸福を与える神様って、極端な言い方をすれば「平穏を守る神様」だ。
師匠のポリシーは、「起こりうる不幸は未然に防ぐ」。師匠の指示もあって、色んな怪魔との殺し合いに明け暮れてはいたけどさ。
正直、俺は面倒くさい仕事を押しつけられているようにしか思えなかった。
でも、まー、文句言えないし? シニガミが、信者の人や他の弟子や神様まで攻撃して、人の恨み作って、大迷惑かけてたから。
幸か不幸か。俺はガイウス神の弟子の中で一番戦闘力が高かった。
「能力は散々だが、決して使えないものではない。怪魔戦の腕も人柄も、神としての見込みはある」なんて、師匠は口にしてたけど。
……俺は半分利用されてたんだろうね。
ぼんやりわかってた。
けど、俺は師匠が嫌な神だと感じてたわけじゃなかったし、むしろ俺の不運が問題を起こしたら積極的に庇ってくれてたし。破門にされないだけありがたかった。
とにかく実績を重ねて、一人前になれればいい。弟子として修行に挑めなくなったら、神様になる道は閉ざされる。
けど。流石に死にかけを放置されたのはショックだった。忙しさで手が回らないとしても、師匠が自分の神使じゃないモダに俺の救出を依頼するわけがない。モダが俺を探しに来てくれたのはたぶん偶然。俺の?幸運?だ。
神様候補の修行は半端なく厳しいから、死人の一人や二人、毎年出るものだけどさ。とうとう師匠にも見限られたのか、もう俺はいらないのか、って。本心としては落ち込んでいた。
でも、近い未来に希望がある。
モダちゃんと寝れる!
帰ったらモダちゃんと寝れる!!
モダちゃんと同じベッドで寝るんだよ!?
俺の気分はむふむふと少し明るい♪
モダちゃん、約束したことは絶対破らないから。
モダは「ボクはまだ仕事あるから」と、俺を医者に託して、背を向ける。
「付き添いありがとう♪ また夜にね♪」
「うん」
淡白な返事と共に軽く手を上げて、モダは診療所から出て行った。体は小さいのに、遠ざかる後ろ姿は大人びている。
ああ、モダちゃん。俺の天使!
モダちゃんと枕を共にしたことがあるのは俺だけ。クールな性格の裏にあるエロスを知っているのも俺だけ。いや、初めてを奪ったわけじゃないけど……というか奪うことが物理的に不可能なんだけど。
それでも、モダちゃんに男の味を教えたのは俺だけ! という、特別感はある。
シュミレーションのようにピンク色の想像をしてたら、ナースさんと高年の医者がげげんそうな顔をしていた。
「復活の短剣が刺さっていても、死にかけなんだぞ? 何をそんなに笑っているんだ?」と医者に聞かれたから、「愛の力♪」と、答えた。




