ⅤⅠ_片想い
体が軽い。たぶん、足腰を骨折してるはずなんだけど。最悪内臓破裂してると思うんだけど。嘘みたいに何も感じない。
モダが俺に突き立てた復活の短剣は、刺さっている間は体の異常をなかったことにする。だから、短剣を抜くと異常が元に戻って、また俺は倒れてしまうわけだ。傷や痛みが本当に治っているわけではないから、これは一時しのぎ。体の怪我を治療してもらって、ようやく本格的な回復が始まる。
すごいよね、神界の技術って。神術で作られた道具は神界では当たり前に存在するけど、人間界には少ない。
こういう神術が付加されて特殊な効果を持っているものは、人間界では?賜具?と呼んで、重宝されている。
まー、復活の短剣は、神界でもレアレティが高いものだけど。高価で使い捨てのものを、俺のために使ってくれるなんてさ。モダには頭が上がらない。
「ねえ、モダちゃん♪」
「何?」
「今日、俺と一緒に寝よ?」
「……あのさあ。君はさっき、死にかけていたんだよ? 本当に懲りてないね……」
「寂しいの♪ 俺を助けに来てくれたの、モダちゃんだけだから」
「君の節操のないナンパは口癖なのかな? 前にも言ったけど、ボクは女の子の姿を仮初めにしているだけで、女じゃないよ。男でもないけど」
「それでもいいから♪ 添い寝して?」
モダは数拍の沈黙の後に、「はあ」とため息をついた。
「……構わないけど。ボクが寝ぼけて何か起こしても、悲鳴あげないでね?」
「やったー♪ 大丈夫。俺はモダちゃんの全部が好きだから♪」
「……軽い人。嘘なのか本当なのか」
「はあ」と二度目のため息をつくモダに、俺も結構甘えているのかもしれない。
モダは"神使"。神様の下に仕える存在だ。よくある言い回しで例えれば、天使のような職業のこと。
モダは俺の師匠とは違う神様の神使なんだけど、ちょっとした縁で知り合った。神様候補として日々奮闘する俺のことをよく気にかけてくれている。
実際に、モダは俺にとっても心からの天使だ。前に全力で頼み込んだら、「仕方ない、今回だけだよ」と言って、アレなことも許してくれたし? 包容力があって優しーの♪
怪魔を毛嫌いする人が多い中で、モダはシニガミにも嫌悪感を示したりしない。「スロスの"傍にいる存在"だから、必ずの敵とは限らない」って。モダちゃんの持論だ。
それはおそらく、"精霊信仰"に基づくもの。
精霊信仰者は自分の傍にいる存在を信仰する。つまり、一つの絶対神ではなく、個別についている何らかの存在を信仰するタイプの宗教。その"何らかの存在"をまとめて"精霊"と言う。
普通、神使は仕える神様を信仰するのが普通なんだけど。モダの上司はフリーダムな神様っていうか。モダ自身が特殊な神界人で変わり者っていうか。
「スロスは変わり者。ボクみたいな異形の"怪物"に、よく懐けるね」
「逆だよ。俺のこと理解してくれるから、信頼してるの♪」
お節介焼き。モダは損をする性格だと思う。だけど、そんな優しさが身にしみる。モダの人柄に助けられたのは、俺だけじゃないはずだ。
怪物とは、"人らしくない人"を侮蔑する用語だ。怪魔のように"化け物"とも呼ばれる。
でも、モダは誰かに危害を加えたりしない。怪魔の召喚で周りに実害出している俺に比べれば、怪物なんて屁でもないだろう。
むしろ、モダと接点を持って惹かれる者は男女問わずにいる。俺もモダを通じて、何かと人に助けてもらっているようなものだ。
けど、「モテモテだね♪」と褒めると、本人は「全ては見た目だよ」と、シビアな反論をする。それは卑下しすぎじゃないか? って思うんだけど。
「だから俺はモダちゃん大好きー♪ 俺のことも好き?」
「どういう意味で?」
「恋人として♪ 愛してるって意味で♪」
「……」
モダはちらっと俺に振り返って、三度目のため息をついた。
「ボクがいつ君の恋人になったのかな? スロスもスロスだ。あまり思い上がらない方が身のためだよ」
「いやん♪ 冷たい♪」
脅されているわけじゃない。親切だからこそ、厳しくて世知辛いことも言ってくれる。




