ⅡⅩ_贖い
「シニガミは俺に即死の術は使わないよ。あいつも滅多に発動しない。『血も涙も出ない死はつまらない』って、そんな好きじゃないんだってさ」
俺たちはツェフェリ町の宿に一泊して、旅支度だけ整えた。必要なものを購入したら、二人の同意を得て、割引券を火にくべて灰にした。
ラティロとマイフも、あの時ちょうど現場にいたんだ。シニガミに気づかれないように後をつけたら、ちょうどアーロガンがシニガミに殺された瞬間を見たという。
「なるほどね。あれがスロスの言っていた黒い炎なんだ……」
ラティロが少し興味がありげに呟く。怪魔ハンターの二人には何度かシニガミとの?遊び?に参戦してもらっているけど、あの術を目の当たりにしたのは初めてのはずだ。
「シニガミと第三者エネミーのダブルブッキングも、ある意味俺の"不運"だと思うんだけどね。あいつは俺の嫌がることをするくせに、戦いで横槍入れられるのを本気で嫌う。何か、あいつなりの拘りがあるのかわかんないけど」
「独占欲ではないのかい?」
と、ラティロが答えた。
「普通の怪魔はしつこく追っては来ないけれど、獲物の横取りは好まないからね。しかもあの死神、スロスのこと相当気に入っているみたいだからさ。傍から見てもヤンデレの領域までぶっ飛んでいるし。不運は自分で手を下さないと気が済まないとか……?」
「そうとは思えない。マイフと会った時みたいに人を挑発してけしかけてくることもあるし、俺が怪魔の集団にリンチされて死にかけた時は面白がってた。あの時は腕にバツ印掘る以外、何もしてこなかったけど」
「……少なくとも、遊戯空間の中で想定外が起きたから、死神は腹を立てたのかもね。鬼ごっこの途中でいきなり『俺が鬼だ』って言い張る人が介入してきたら、普通は戸惑うだろう」
「……」
「アーロガンのことは事故だと思うしかない。スロスと死神の戦いには近づかないのが無難ってこと……第三者にはわからないだろう」
「……」
「馬鹿馬鹿しい。何をうじうじ悩んでんだよ。全部オメェが蒔いた種だろゥが」
ずっと黙っていたマイフが口を開いた。
「……間接的には、俺がアーロガンを殺したんだってわかってるよ。マイフは教会に俺を告発したい?」
「言うわけねェだろ。うまく治ってるところに今更荒波立てられるか。スロスがあの女に手ェ出さなきゃ、こんな後味悪くなく済んだんだろうが」
「……」
「日頃の行いを反省しろや。オメェのせいでオレの人生まで狂わされたら、たまったもんじゃねェ」
「っ!」
「マイフ、そういう言い方はやめなよ!」
マイフは「ちッ」と舌打ちをして、顔を背けた。
……幸福を与える代わりに、代償を運ぶ。
誰かと関わるから、不運が感染る。
全て選ぶのは自分自身。俺が選んだことだ。けど、俺が何かを選択するのは、間違いなのか?
一人の幸せのために、他の犠牲が出るのは、仕方がないのか?
バタフライエフェクト、なんて言葉があるが。
俺の行いが、人を不幸にする火種になることがある。
俺は、自分の幸福を祈ってはいけないのか?
何も選んではいけないのか?
「……そろそろ出発しようか。次は長期戦だよ。大陸を何周もして逃げ回るからね」
話題を切り替えるように、ラティロがぐんと大きな荷物を背負った。
「わたしはクライアントの依頼に従うよ。スロスが死神から逃げ切るまではちゃんと付き合うし、どんな化け物が相手でも戦う。怪魔ハンターとしてのプライドにかけてね」
「マイフもだよね?」と話を誘導するようにラティロが声をかけ、「……仕方ねェ」と、小さくドスの効いた声が返った。
「……うん。二人とも、これからもよろしく」
「はいはい。じゃあ、行くよ」
旅の荷を持って、また一つの町を後にする。
歩きながら、ずきんと胸が痛む。ラティロのくれた痛み止めのおかげでだいぶ和らいではいるが、やっぱ肋骨は折れてるっぽい。でも変な動きしなきゃ大丈夫。次にあいつと戦う時までに、治さないと。
ツェフェリ町に一度も振り向かないまま、俺は心の中で、アーロガンへの冥福を祈った。謝罪を込めて。
……シニガミの野郎。
あいつは、何処まで俺を苦しめるつもりだ。
ep2完走しました。
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ありがとうございました。
次はep3。
スロスの過去に触れていく物語です。
次のヒロインは……スロスのセフレですね。
どうかまた次もお付き合いください。




