ⅩⅨ_後悔
アーロガンを放置するわけにはいかない。俺たちは、毛布に亡骸を包んで、ツフェリ町に戻った。
教会の治療院に運んだ。「道中で見つけて、もう死んでいた」と、嘘とホントの合いの子みたいな話を伝える。
遺体確認のためにやってきたアイニーちゃんから、あとで話を聞いた。アイニーちゃんが許可なく外出した理由をアーロガンが問い詰めて、浮気のことを吐いてしまったんだと。俺たちの居場所を聞いてから、「神域に行く!!」と、いきなり家を飛び出して行ったらしい。
……ということは、何故アーロガンが神域に飛び込んだのか、俺らとアイニーちゃん以外は知らないということだ。
「こんなことになるなんて……もう二度と口にはしません。スロスさんとの関係は、生涯の秘密にしていきますから」
そうアイニーちゃんは言う。
「……これはきっと、天罰です」
褐色の瞳に、俺は何も言うことができなかった。
俺の勘だけど。アイニーちゃんはアーロガンに、罪悪感を伝えたんじゃないかな?
アーロガンは束縛男で女の扱い方も最低だが、アイニーちゃんを好きだという気持ちは本当だろう。
例えば、アイニーちゃんが「あの旅人に迫られて逆らえなかった」「あなたを裏切るつもりはなかった」と言って涙を見せれば、アーロガンは愛しい恋人のためにいてもたってもいられなかった……というパターンがありえる。
まー、実際はどうだろうね? アイニーちゃんが「無理矢理されたの!」と嘘を言ったのかもしれないし。
単にアーロガンの頭に血が上って、衝動的に俺をボコろうとしただけかもしれないし。
ミステリー小説もどきのように捻くれた推理しても、結果は結果なんだけどさ。
アイニーちゃんのご両親も俺たちのことを疑わなかった。優しい人、というのは本当のようだ。アーロガンの実家でも、むしろ「息子を持ち帰ってきてくれてありがとう」と涙された。
……あれ? 何だこれ?
こんなんでいいのか?
俺は無意識に自分の能力を使ったのか?
アーロガンの死体を見ながら、自分に問う。
躊躇っていた、たった二週間の代償の延長。シニガミは機嫌さえ良ければ、罠に吊るされてたアーロガンを攻撃しなかっただろう。
何故って、あの時のアーロガンは「俺にとって存在すると困る相手」だったから。
『さあ、早く♪ 死んじゃったらもっと幸運が必要になるよ♪』
ここにいないはずの声が聞こえた。
"幸運を操る"力。
俺の与えられる幸運は無尽蔵。
能力を使えば、死者の蘇生も可能だろう。
……けど、それには何十年分、何百年分と必要になる。もっと使うかもしれない。
俺なら絶対に助けられる。助けられる。でも。
『あらら♪ 殺すの? 助けないの?』
黙れ。殺したのはお前だ。
『人のせいにしないでよ♪』
これではまるで口封じだ。
使う限界を絞って。自分の都合で決めて。
使い所を選んでしまう俺は、身勝手なのか?
……土葬のために運ばれていくアーロガンを見送るだけだった。
真相は闇の中。
次回、ep2の最終話です。




