ⅩⅦ_憤怒
死神は本気出すとやばい。
「……ねえ? 何やってんの? お前」
アーロガンが声の主に振り返る。
と、同時に、シニガミの武器で腹を横殴りにされ、アーロガンがズドーンと転んだ。
「うごばっ!?」
「何やってんの? って聞いてんの。答えろよ」
俺はアーロガンの手から解放されて、どさりと地面に横倒しになる。「げほげほ」と咳き込む俺を無視して、シニガミはアーロガンに近づいていく。
「な、な、な、何だ、お前は……?」
「質問に質問返すな。スロスに何をやった?」
シニガミが怒ってるのは明らかだ。声に気迫がある。アーロガンは尻をついたまま、ずりずりと足で後退りする。
「お、お前……怪魔か!? 私を誰だと思っている!」
「アーロガンって奴だろ? スロスに女寝取られて、ブチ切れてここに来たのか?」
「!? 何故それを知って……?」
「けどそういうのどうでもいいから」
シニガミはぐるんと大鎌を大きく振るい、俺を掴んでいたアーロガンの手首をざくんと切り落とした。
「っひうぎゃあああああああ――――――! あ、ああ、手が、俺の手がぁ――――!!」
「お前さ。何スロスに手え出してんの?」
「い、あ……!?」
「お前スロスの何なの? 不運なの? 横槍入れるとか何考えてんの? スロスを嬲るのは俺の役目なんだよ。今スロスと遊んでんのは俺なの。スロスに余計な傷つけんじゃねえよ」
シニガミの大鎌の刃が、ぼっと黒く燃えた。
「死ねよ。死ね。邪魔すんな」
「っ、おい、逃げろっ!! その鎌に触れちゃダメだ!!」
俺の叫びも間に合わず、アーロガンは胸を切られた。血飛沫は舞わなかった。代わりに傷口から黒い炎が揺らぎ、糸が切れた人形のようにどさりとアーロガンが倒れ、瞳が生きた動きを止める。
――――シニガミが俺に背を向けている。
俺は体に力を込めて立ち上がり、剣でどすんとシニガミの心臓を貫いた。
「がはっ……!!」
シニガミは血を吐く音が混じった声を上げてから、「いっ、てぇ……囮、作せ……かよ……!」と悪態のようなものをついて、すうっと煙になった。
……シニガミを倒した。
……けど、犠牲が出てしまった。




