Ⅴ_可憐
「いやぁー! いいものを獲った!」
ラティロがご機嫌うるわしゅう。マイフと「イェーイ!」というノリで、ハイタッチまでしてる。
さすが怪魔ハンター。二人とも、いい獲物を見つけると目の色を変える。マイフはいつでも真剣で、ラティロは戦闘狂いの一面があるな。どちらも、狩りに生きる男の姿だ。
何かいいな。と、いつも思う。
「大物は狩りがいがある!」とテンションを上げて語り出すハンターの姿は、理解できないからこそ羨ましい。
俺はどっちかっていうとびびりだから、手強そうな相手見ると緊張しちゃうし。
強い強いって褒められはするけど、戦いが楽しいだなんて思ったことがない。面倒くさいとか、嫌だとか。俺はいつも投げやりだ。
戦利品の羽根を束ねて、それぞれの手荷物の中に手分けしてしまいながら、俺はアイニーちゃんとハンター二人の紹介の間を持った。
ちなみに、ハーピィの死体は放置だ。怪魔の肉は食べられない。国によっては無理矢理食べる地域もあるらしいんだけど、体に良くないって言われて、だいたい教法で禁止してる。悪魔の肉だしね。
「傷にはこの薬が効きますよ。手のひらに乗せて、体じゅうに塗ってみてください」
「あ、ありがとうございます……」
ラティロの紳士の笑顔に、アイニーちゃんも少し笑っている。アイニーちゃん、騙されちゃだめだよ? そいつは変態だから。
「オレたちはまだ作業してッから、さっさと岩陰で塗ってきな」
「はい」
マイフの言葉に従って、アイニーちゃんはとたとたと霧の奥に姿を消す。
アイニーちゃん、マイフを初対面で怖がらないってすごいね。ちなみにそいつも変態だから。
「俺は塗るのを手伝ってこようかな♪」
「黙って羽根を束ねろスケコマシ。一本でも傷つけたら許さないからね」
いやん。ラティロの睨みが怖いよ。
アイニーちゃんが服を脱いでぬるぬると薬を塗っている姿を想像しながら、細い紐で羽根を纏めていく。
あ、しばらくは、俺の上着が服代わりになるのか。アイニーちゃんのお胸やお尻に触れた上着。いいね♪ むしろ俺が上着になりたい。
アイニーちゃんが戻ってきたら、ラティロはワンピースを簡易的な裁縫で補修した。服は脱がさないままで。あの艶かしいスリットは封じられてしまった、無念。というか、ラティロ。女子力高いな。
「……ありがとうございます……」
仮止めの糸で縫われた服の上に、アイニーちゃんは俺の上着を羽織る。ラティロにぺこりとお辞儀をして、顔を上げない。
「ええっと……アイニーさんは、ツェフェリ町の方から来たのですね?」
「はい」
「今から町に向かうのは無理なので、今日はここで野宿をします。わたしたちも明日、ツェフェリ町に向かう予定でしたから、町まで一緒に行きましょう」
「……。はい」
少し返事が遅れていたが、アイニーちゃんはこっくりと頷く。
そして、俺とマイフの方にも振り返って、深々と頭を下げた。
「スロスさんもマイフさんも、本当にありがとうございました。一体何てお礼をしたらいいか……」
「じゃー、お礼にパンツの色教えて♪」
「……」
急に周りの雰囲気が冷たくなった。
「……オイ。スロステメェ」
「いや、だってさ、もやもやするじゃん? あとちょっとで知り得そうなことを知れないと、気持ち悪いというか」
「気持ち悪いのはお前だ、変態野郎」
ラティロが軽蔑の声を上げ、おどおどしながから顔を赤くしているアイニーちゃんに「今のに耳を貸す必要はありません」と入れ知恵する。
「このように、ここには怪魔より恐ろしい存在がいます。決してわたしの傍から離れないでください。何かあったら、わたしか、マイフに言うようにお願いします。スロスには絶対に近づかないように」
「ちょ、ラティロ!? 俺を仲間外れにするって酷くない?」
「ラティロが正しいだろォが。オメェは女狂いの変態だからなァ」
「お前らも生粋の変態じゃん!?」
「スロスよりマシだ」
はあ。と、マイフが面倒事を嫌がるようなため息をついた。
スロスに自制などありません。




