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流浪の遊び人 *王道少年漫画風・お下劣ファンタジー*  作者: 紅山 槙
episode1 女聖騎士は遊び人と一夜を共にする(全15話)
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Ⅱ 回想

 男をぶん殴り、服装を整えて。


 冷静になったところで、昨日の出来事を振り返った。


 私は正教師様のご命令で、リーズェ、エルマーと共に怪魔の討伐に向かったのだ。


 今回の標的はサキュバス。男を誑かして淫行に誘う、非常に悪どい敵だ。


 私たちはあっさり怪魔共を叩きのめし、清々しい気分で街に戻ってきた。そして、景気付けに酒場に寄ったのだ。


 たまたま、昨日の月は綺麗な丸型。教会の戒律で、満月は慈悲の日。酒盛りや多少の欲を出しても許される、特別な夜だった。


 ハメを外しすぎない程度に、体に酒を入れた。

 ……だが、お調子者のリーズェが酒場の客と賭博を始めて、金を擦ってしまったらしい。


 欲が許される日とはいえ、無一文になるほど賭け事に没頭するなど。


「天神フェリス様がお前の行いを見て罰を与えたのだ! 恥を知れ!」


 と、リーズェに説教を落とした後、リーズェの相手をしていた男から賭けに誘われた。


「賭け金は返してもいいよ。ただし、お姉さんが俺と勝負して勝ったらね♪」


 顔を赤らめた黒髪黒眼の男は、軽い口調で私を手招きしたが。


「金を使ったのはリーズェ自身だ。私が取り返す義理はない」


「じゃー酒呑み勝負しよ」


「話が聞こえているのか? お前の相手はしない」


「んー? じゃーそこの女の子がお持ち帰りってことになるんだけど」


 お持ち帰り?


 ふとリーズェを見ると、唇を震わせて顔を青くしていた。


「……リーズェ、まさか。自分自身を賭けたのか?」


「『お金なくなったらお嬢ちゃんを頂戴』って言ったら、乗ってくれたよ」


 なんてことだ、このど阿呆め……。


 リーズェが自分でやったことだ。全ては自己責任。かばう義理はないのだが。


 このいかにも遊び人と言わんばかりの、無骨な男に連れていかれるとなれば、話は別だ。


「……酒呑み勝負なら受けよう。私が勝てばリーズェを返せ。金はどうでもいい」


「よっしゃ♪」


「メルゼルタ様……」と涙目でリーズェが何かを言おうとしたが、睨みつけて黙らせた。


 ここで勝負に乗ったのは訳がある。


 私たち、"フェリス教会"に所属する聖騎士は、厳しい戒律の下で生活している。

 その中に、「一騎打ちには正々堂々と立ち向かい、敗北を辞さない」という掟があるのだが。剣技の勝敗だけでなく、あらゆる勝負事……つまりは賭け事の類いも、この戒律の縛りに含まれるのだ。


 リーズェは自分自身を賭けて勝負事に乗り、負けた。駄々を捏ねて泣き言をほざけば、「敗北を辞さない」という教会の戒律に背くことになる。


 負けたら負けたと素直に認める。それは人としての誠実さを保つため。また、あらゆるトラブルを防ぐためのものだ。


 なのに、この馬鹿は……。


 さすがに、賭ける物にも限度がある。リーズェの気が高ぶると流されてしまう性格は、怒りを通り越して呆れしかない。


 純潔は聖騎士の絶対条件だ。

 それを失うことがあれば、リーズェは聖騎士から降ろされる。


 私は自制しているが、これでも酒には強い。逆に、賭け事には疎い。勝算があるのは酒呑み勝負の方だった。


「じゃー、俺が勝ったら、お姉さんが代わりに来てよ」


 男は酒を煽って、濡れた唇をぺろりと舐めた。


「お嬢ちゃんもいいけど、俺はお姉さんの方が好みだからさ」


「聖騎士は娼婦ではない。私が賭けるのは金品だ。手持ちを全て出そう」


「……えー……」

 男は渋り、唇を尖らせた。


「お姉さんがいいー」


「戯けるな」


「じゃーやっぱり、そこのお嬢ちゃんでいいよ」


「……っ、待て、もう少し別のものを」


「金はもう十分。俺が欲しいのは女なの」


「(この下衆が……!)」


 説得しようにも話がはぐらかされ、埒があかない。諦めて勝負に乗ることにした。

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