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流浪の遊び人 *王道少年漫画風・お下劣ファンタジー*  作者: 紅山 槙
episode2 狩人たちは遊び人といつしかの旅路を進む(全22話)
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Ⅳ_偶然

ep2ヒロイン登場回。

ep1の時とはまた違うタイプです。


 濃い霧が立ち込めている。青く見えたはずの空は白くなって、辺りはやや薄暗い。


 カラリ町とツェフェリ町の間にあるこの神域は、町と町を繋ぐ最短ルートでもある。神域を避けて往来する場合は、途中に二つの町を挟んでぐるりと迂回するため、おおよそ二倍の時間がかかる。


 シニガミが復活するまであと五日。有利な戦闘をするためにも、三日くらいの準備期間は確保しておきたい。


 けど。これだけ霧があると、怪魔が傍にいてもわからないな。十歩先が白、みたいな状態。夕刻になれば、もっと視界が悪くなるだろう。はぐれないように、俺たちは極力固まって歩いていた。


「……お」


 急に、ラティロが右下の方を向いて立ち止まる。


「ここでちょっと待っていて。食べられそうなものを見つけた」


「飯ネタもいいけどよォ、足元気をつけろ」


「わかってる」


 視界が視界だから、ラティロもそう遠くまではいかない。近くの木に素早くロープを括りつけて命綱を作り、するすると岩の下に降りて行った。


「猿みたい♪」


「まァ。半エルフだからこそ、半野生児だしな」


 ラティロは野草の知識が豊富だ。男衆三人旅でも、彼がいればかなり食費が浮く。ついでに作る飯もうまい。普段から色んなハンターの道連れになっているから、顔も広いし、小柄で愛想が良くて容姿もいい。アイドル的な意味でも性的な意味でもファンが多い。


 一家に一台、ラティロはいかが? 「いいお嫁さんになれるよ」と言ったら嫌な顔するだろうから、言わないけど♪


 戦力というよりは、生活面の世話を期待して同行を求められることが多いという。俺もそうだし。子供の頃からハンターをやっているという狩猟経験の自信もあるだろうから、本人としては複雑だろうね。


 ラティロがするすると戻ってくる。

「何の草?」と聞くと、「黒ゼンマイだよ。見た目はグロテスクだけど、味は濃厚で美味しいんだ」と、ロープを畳みながら答えていた。


「さて、お待たせ。行こうか」と、行進を再開しようとした時だった。


「いやあぁぁ――――――――――っ!!」


 突然の甲高い悲鳴に、俺たちの空気に緊張が走る。


「っ! 何だァ!?」

 マイフが大きな声を上げた。


 女性らしい悲鳴だった。それぞれがさっと背負う重荷を降ろして、対怪魔用の武器を手に持つ。


 たぶん、ラティロもマイフも、まだ女性の声だとは思っていないだろう。俺もだけど。人の親切心に漬け込んで罠に嵌めて来る怪魔も、世の中にいるからだ。


「あっちの方からだ!」


 ラティロの声で方向を定め、悲鳴の主の近くへ走る。


「きけけけけけけ!」と喉を連続で打つような鳴き声がした。怪魔か。たぶんハーピィだな、これは。


「ん?」


 赤と黄色と茶色の派手な羽根と、羽ばたき。二羽のハーピィが誰かを襲っていた。


「いやぁ――! やめて、痛い! やめてぇ――――!」


 ハーピィたちに髪を引っ張られ、蹴り飛ばされ、服をずたずたに引き裂かれた若い娘。


「……人っぽいな」

 マイフが言う。


 いや、まだわかんないけどね? 人の言葉を喋る怪魔もいるし。怪魔同士で喧嘩してるのかもしれないし。


 でも、襲われているらしき女の子を助けないで様子見……なんて、するつもりはない。誰も。


 ラティロがクロスボウを構えて、ばしっと矢を放った。一羽の翼をぶすりと貫通し、ハーピィが「ぎぎゃあ―――――――――!!」と汚れた悲鳴を上げる。


「お嬢さん! 立てるかい!?」


 ラティロが声をかけるが、腰が抜けているようだ。


 すかさず俺が飛び出し、長剣で嘴や鉤爪を弾きながら女の子を保護した。ハーピィは獲物を奪われまいと、しつこく攻めてくる。


マイフが俺と怪魔の間に割り込んで槍をぶんぶんと振るい、ハーピィを蹴散らした。


その隙に、俺は女の子を左腕で庇うように抱えながら、ハーピィの囲いを抜け出す。


「……ちょうどいい。ついでにこいつらを狩っていこう」


 ラティロがにやっと口元を歪めた。「やるかァ?」と、マイフが賛同するように頷く。


 ハーピィはハンティングレベル(討伐の難易度を示す言葉だ)が、そこそこ高い。ハンターとしては収入面、実績面で狩っておいしい獲物だ。特にハーピィの羽根は、聖水で清めてから装飾品に使うことも多いから、需要もある。


 別に俺が狩っちゃってもいいんだけど。二人が何か、「これはいい獲物だぐへへ」と言わんばかりの、肉食獣のようなやる気オーラ出しちゃってるし。


 ハンターとしてのプライドもあるだろうからね。頼まれないなら、手は出さない。


ハーピィ狩りは二人に任せて、俺は女の子に血生臭い戦場を見せないように、その場から離れる。


「もう大丈夫だから、落ち着いてね」


 声をかけて、震える娘の顔を覗き込む。


 ……うわぉ! 綺麗な子だ。

肩まで伸びた栗色の髪に、褐色の瞳。頬だけがほんのり桃色で、肌が真っ白。可憐という言葉が相応しい、ザ・女の子! って感じの女の子だった。

目に真珠の玉のような涙を浮かべて、体を隠すようにしながら俺を見上げている。


「あ、ごめん。とりあえず、俺の上着でよければこれ着て」


 一応、顔は背けるけど。横目でちらちらと観察しながら、俺は脱いだ枯草色の上着を渡した。


 花柄模様のワンピースはぼろぼろで、胸や腰のくびれといった、ところどころに切り傷の入った柔肌が見える。エロい。際どい。踝まであるスカートの斜め前が、太腿の付け根までスリットみたいに切れている。もうちょっとでパンツ見えそう。 


「……ありがとう、ございます……」


 これまた可憐な、消え入りそうな声。

 怪魔ならサキュバスかなと思ったけど、マイフの言う通り、人っぽいな。


 けど、

「お嬢ちゃん、ツレの人は?」


 どう見ても女ハンターやその道の子に見えない。護衛か誰かがいて、はぐれたんだろうと思ったが。首を横に振られる。


「やられたってこと? それともいないってこと?」


「……一人……です……」


 嘘かホントか。無謀だね。


 よくまー、こんなところまで来れたよ。


「わかった。とりあえず、二人を待とうか♪」


 荷物を放置したところに戻って、その辺の岩に「どうぞ座って♪」と腰掛けさせる。


「お嬢ちゃん、名前は?」


「……アイニー、です……」


「アイニーちゃんか♪ 可愛い名前だ♪」


「……」


 うーん。やっぱり綺麗な子だなー♪


 アイニーちゃんは羽織った上着の裾をぎゅっと掴み、足をぴっちり閉じて、うつむいている。


 うーん。パンツが見えない……。


「ぎゅぎ――――!」「ぎゃぐわ――――――!」というハーピィたちのつんざくような悲鳴が上がり、ドタバタと地面を叩くような音がしてから、急に静かになった。


 あー、終わったっぽい? けど、解体するまでまだ時間はかかるだろう。


「とりあえず、お茶でもしよっか♪」


「え? ……は、はい……」


 俺は自分のリュックサックから、簡単な焚き火ができるものを用意する。

 不安は余裕を見せて、和らげないとね♪


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