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流浪の遊び人 *王道少年漫画風・お下劣ファンタジー*  作者: 紅山 槙
episode2 狩人たちは遊び人といつしかの旅路を進む(全22話)
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Ⅲ_合流

狩人たちもまあまあ癖があります。


「そろそろ"神域"に入るから、気をつけて」


「んー」


「おゥ」


 天然の岩の階段を登りながら、ラティロ、俺、マイフの順に、声を出す。


「スロス、死神出現の猶予はあと五日だよね?」


 ラティロの言葉に、俺は頷く。


「うん。ツェフェリ町で補給できれば、次も余裕かな♪」


「よく言う。死神が近づいてくると、口数が減るくせに」


 シニガミを首チョンパした後、俺は西南の町カラリに寄って、彼らを探した。道案内役を雇いたかったから。ラティロとマイフは、フリーの怪魔ハンターだ。


 あー、怪魔っていうのは、そんじゃそこらにいる、人を苦しめる悪魔のこと。サキュバスとかオークとかフェアリーとか。

俺を追ってくるのはその中でも格別な奴で、"神の名を持つ怪魔"。殺しても殺しても復活する、不死身の化け物だ。


 で、二人には、俺の不運が現れてからの、逃亡の手助けを何度か頼んだことがある。ツケでも依頼を飲んでくれる、まあまあ付き合いの長い知り合いだ。


 ラティロは、フルネームをケィラティロ・ドクサと言う。エルフっていう種族と人族の混血だ。瞳はライトグリーン、背が低くて金髪ポニーテールがチャームポイントの美形雄。出会いは俺が女の子と間違えてナンパしちゃったことから始まる。


 俺の後ろを歩く、長身痩躯・悪役顔の禿げピアス男が、マイフ・ベック。口が悪くて声もドスが効いているが、子供とお年寄りに優しい純朴な青年。出会いは俺が盗賊と間違えて逆に盗賊助けちゃったことから始まる。


 最後に、俺はスロス。"幸運を操る"能力と脅迫尾行(ストーカー)怪魔に追われている以外は、特に何の変哲もない旅人。

愛するものは女の子。性的には愛想のいい可愛い子が好きだけど、好みのタイプはクール系美人。胸は小さいよりも大きい方が好み。でも好き嫌いはしない♪


 ところどころに低い草木が生えた、岩だらけの道。朝方のすうっと冷たい空気の中に、靄が立ち込めている。まだ陽気な季節だが、上着を持っていないと肌寒い。


 神域に入ればもっと霧が濃くなる。というより、ずっと霧が出ている。


 名前が名前だから勘違いもよくあるんだが、神域は「神様の領域だから立ち入っちゃダメ」という意味じゃない。神様は基本的に人間の味方だ。


「神様が『入っちゃいけない』と指定した場所だから立ち入っちゃダメ」というのが、"神域"。

つまり、怪魔が溢れる危険地帯だ。


「……ふう」


 ラティロが大きく息を吐き出し、俺に振り向く。


「ここから先が神域だよ。その前に、一回休む?」


「ラティロに任せる♪」


「テキトーだな、お前も……」


 ということで、休憩タイム。


 ラティロが綺麗に折りたたんだハンカチを取り出して、汗を拭く。


 俺は革の水筒に入れた水を飲んで、一息つく。


 マイフは荷物を下ろすと、手のひらの二倍くらいはある瓶を取り出して、中身を食べ始めた。


「それ何?」


 マイフに聞くと、


「んァ? 果物のピクルス。いるか?」


 もごもごと口を動かしながら、角ばった手で瓶を差し出してきた。


「あ、じゃあもらう♪」


「わたしももらっていいかな?」


「おゥ」


 俺が摘んだのはチビリンゴだ。外皮の白っぽさとサイズから、正式には"白子果(ミルトップル)"という。

味も食感も見た目もリンゴだけどね。何かに驚いて思わず漏らした時には「チビリンゴ!」と叫ぶと誤魔化せると言われる……別名も下ネタ化した可哀想な果物なんだけど。


 口に放り込んでしゃりっと噛むと、果物の甘さと酢の酸っぱさが体に染み渡る。


 あー、いいねこの味。疲れに効くぅー♪


「ところでさ。死神のことだけれど……」


 ラティロがかぷんと皮が緑っぽいチビオレンジを齧って、俺に顔を向ける。


「結局スロスって、死神に連勝しているということじゃないのかい?」


 ラティロたちには、俺の不運(シニガミ)のことを知ってる限り話してある。生い立ちや、幸運を操る能力のことも。


「お前は死んだら蘇るわけがないし、一回も負けていないということだろう?」


「んー、まあ、実質ね。半殺しにされたこともあるけど」


 これでもシニガミには、過去に色々やられてる。

 身体中を切り裂かれたりさ。浅い傷の上からさらに傷をつけて開いていくという拷問だった。動けない体から少しずつ血が抜けて、痛みに苦しんで。もう死ぬんじゃないか、もう死ぬんじゃないか、と恐怖に襲われて。あの時は精神的にも参ってしまった。


「俺が負けにくいのは、たぶん戦法の違いかな。俺は仕留める戦い方をしてるが、あいつはいたぶることを目的としてる。不死身の怪魔だし」


「スロスを殺す気はないということ?」


「うん。でも、殺意がないだけで、俺を生かそうとは思ってない。"殺る"んじゃなくて、"殺っちゃう"んだよ、あの怪魔は。『殺すつもりはなかった』って開き直るタイプだ」


「テキトーなんだね」


「テキトーな奴なの。俺と似てさ」


 怪魔は人を嬲るのが趣味だ。人を攫って、精神と肉体に苦痛を与える。


 だから、シニガミも性格がイかれてる。"不運"を自称するあいつは俺にまとわり憑いて、周りの多くのものを壊していった。


 物も。人も。夢も。

 知ってる人も。見知らぬ人も。俺自身も。


 桃色に染まるミルクタンクの中を思い出す。


「……ねえ、もう暗い話やめよ? 俺あいつの話すると、気分重くなるから」


「あ……ごめん」


「謝ることじゃないけどさ♪」


 いよっ、と立ち上がって、ぐーんと空に向かって伸びをする。


「さ、て。行こっ♪」


 にっこり笑って、二人の行動を催促した。


「まだ腰を下ろして五分も経っていないよ? 大丈夫?」


「俺は平気♪ やばい怪魔がいたら、俺が潰すし? 安心して♪」


「まあ、スロスは確かに強いけれど……」


 しょうがない。と、ラティロがチビオレンジの欠片を口に入れて、立ち上がる。マイフも瓶を片付けて、すくっと長身を目立たせた。


 ラティロが立てた予定だと、今日は神域で野宿して、翌日の昼には、町に入れるって話。


 今はシニガミもいないし。俺も変に肩の力を入れないで済む。


 のんびりゆったり、行きますか♪


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