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流浪の遊び人 *王道少年漫画風・お下劣ファンタジー*  作者: 紅山 槙
episode2 狩人たちは遊び人といつしかの旅路を進む(全22話)
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Ⅱ 戦闘

シリアスとギャグのギャップが激しい。

気がします。


「……あーあ。スロスとお話してたおっさん血塗れだよ? 助けてあげたら?」


 シニガミはくつくつと笑って、柄の長い大鎌を担ぐようにぽんと肩に乗せる。


「まだこの人死んでないよ? 待ったげるから、救ってあげなよ♪ 元"神様候補"のスロス?」


 助ける……俺の能力で、幸運をあげろと言っているんだ。


 コヒュー、コヒューと鼻を通らない呼吸音。コブ鼻の男の飛び出しかけた目が俺を見ている。首の中身は丸見えで、腹の内臓を外に出して、びくびくと指や足が痙攣しているが―――――確かに、俺なら助けられる。


「さあ、早く♪ 死んじゃったらもっと幸運が必要になるよ?」


「……」


「さあ♪」


「……」


 俺は、身勝手か?


「ごめんなさい」


 俺は背中から鎖のついたナイフを抜き、コブ鼻男の首の動脈を切って、楽にした。


「……あらら♪ 殺すの? 助けないの? それが飲み物を恵んでくれた人に対する仕打ち?」


「黙れ。殺したのはお前だ」


「人のせいにしないでよ♪ 場所に拘ったのはスロスだし? お前がこの人に構わないで無視すれば、この男は助かったんだ♪」


 俺の精神を削り取ってくる。こいつに追いつかれた時はいつものこと。


 けど、あの絶命寸前の人に幸運を与えるとなれば、どのくらいの"代償"を得ることになるか分からない。もし運が足りなくて助からなくても、俺の負債は増えるだけだ。人の命を損得で考えたくないが……俺にとって、デメリットの方がでかい。


「……まあいいや。さて、何して遊ぼうか。十数えるから、逃げるなり隠れるなりお好きにどうぞ♪」


 ダッと、俺は草原の中に走り出した。シニガミは「いちにさんしごろくしちはちきゅじゅっ!」と唱え、ばっと襲いかかって来る。


 右手に持っていたナイフを左手に持ち替え、腰から長剣を抜く。振り下ろされる大鎌を迎え、抑えた。ぎりぎりと金属が押し合って震える。


「数えんの早すぎだろ!」


「秒で数えるとは言ってない♪」


 俺はぐっとシニガミを押し返し、左手のナイフでシニガミの首を狙って突いた。


「おっと、危なっ♪」


 シニガミは俺から離れたが、俺はそのまま、手に持つナイフを投げる。シニガミはふらりと躱す。


 鎖をぐっと引いて、腕に絡めるようにしてナイフを回収。じりじりとシニガミから距離を取る。


 あいつの鎌を折れば、ほぼ勝利確実なんだけどな。鎖で絡めて動きを奪うか、剣の鉤に引っ掛けて鎌の刃を折るか。


でも、頭の中で捻り出した作戦は、ぶっちゃけ作戦にならない。


「さあ、スロス? 次はどうするのかな♪ 鎖で絡めて動きを奪う? それとも剣の鉤に引っ掛けて鎌の刃を折る?」


 シニガミはにやにやと笑って、大鎌の刃のつく方を下に向けて構える。


「今俺の手持ちはこの鎌一本だからさ♪ 好きにしてみなよ♪」


「あ、そう。じゃーお言葉に甘えて」


 再びナイフを投げる。それとは別に、柄のない投げる用の小ナイフを取り出して、もう二本、飛ばす。


 シニガミはその三本のナイフをばしばしばしと大鎌ではたき、肩を低くして、こっちに突っ込んできた。俺は迎え撃つために剣を構えつつ、左手をぐんと動かし、一本のナイフを大地から跳ね上げさせた。シニガミを俺の方に追い込むように、鎖をぐるりと大きく回す。


 シニガミはそれを鎌の柄で受け止めると、鎖を掴んで、綱引きのように引く。俺はバランスを崩さないように、腰に力を入れる。


 ……と、シニガミは鎖の先のナイフを手繰り寄せると、鎖をぱっと離して俺に投げ返してきた。同時にまた駆けて来る。俺は鎖を掴んでいる手を振ってナイフの動きを止めたが、にゅっとシニガミの大鎌が伸びてきて、俺の腹を狙う。


「っ!」


 革の防具を裂かれた。腰に力を入れていたから、回避が遅れた。


 そして、シニガミは踊るように体を回転させて、刃の逆の、棒の部分でがつんと俺の頭を殴った。


「あはぁっ♪」


 棒が通り過ぎて、また回転して、刃が来る。

好気! 剣で受け止めて、鉤に刃を落とす。ぱきりと鎌の刃が欠けた。


 そのままぐっと柄も握って、シニガミの武器を取り上げる。


「あーあ。とられた♪ どうしよ?」


 シニガミは大鎌を見捨てて、俺の剣が届かない範囲まで離れた。


「次は俺が鬼だ。お前をぶっ殺すまで追う」


「たまにはいいね♪」


 反撃だ。俺が剣を翻すと、シニガミは俺に背を向けて走り出す。「ひゃひゃひゃひゃ♪」とキモい笑い声が聞こえる。


 途中、シニガミは俺を挑発するように、しゃがんだり立ったりとうさぎ跳びみたいな動きを繰り返していた。草の背が足首よりも低いから、姿を見失うことはないが。


俺は鎖の突いたナイフを投げて空中で操り、シニガミの動きを封じようと追い込み漁のように取り囲む。シニガミはまた鎖を掴んだ。


 しめた。そのまま鎖を絡ませて、逃げられないようにしよう。


 ナイフを誘導して、鎖をシニガミの腕にぐるぐると引っ掛ける。俺も自分の腕に巻きつけながらぐいっと引き寄せようとすると、


「きゃあぁ――――っ! いやーん、エッチぃ――! 俺をどうするつもり!?」


 何故か気色悪い裏声を出されて、イヤイヤと抵抗された。


「やあん、だめぇ……♪ 乱暴しないでえぇーーーー!」


「何言ってんのお前……―――!?」


 目線の先で日の光がぎらりと反射した。


 俺の小ナイフか! 頭をそらして顔面直撃は免れたが、はっと視線を戻すとにやりと笑ったシニガミが距離を詰めていて、雁字搦めの腕をぐんと扇いだ。

鎖の先についたナイフが、俺の右目の下から頬までを切りつける。


「ハニートラップ♪ 油断大敵♪」


「え、今のハニートラップのつもりだったの?」


 シニガミはぱっとまた離れた。そいつの手元に、鎖つきナイフが回収される。


 くそ。さっきのうさぎ跳び。ふざけ半分の上で、武器を拾うためのカモフラージュか。


「ちっ♪ 目を狙ったのに。残念♪」


 シニガミはナイフの先を上に向けた。そこについている俺の血と、刃の中腹にあるコブ鼻男の血がつうっと一筋の赤い線の上で混ざって、握り手に向かって滑り落ちる。


 その雫をシニガミは逆手の親指で拭い、「はあ……♪」と喘ぐようなため息を零して、指を唇に押し当てた。


「……時々見るけど、その血を舐める仕草って何?」


「んー? 何かー、癖? 俺ヴァンパイアじゃないけど♪」


 雑談を交わしながら、俺は左手でごそごそと鎖を巻き上げる。


「血の味は知ってるけどさ♪ 実際に感じたことないし? 味しないかなーって、試してたら何となくやるようになったの♪」


「へー、そう」


 ぎっと一瞬鎖を引く。シニガミがバランスを崩したところで剣を振るい、ギロチンのように首を切り落とした。


 頭を無くした体がどさりとうつ伏せに崩れ落ちる。シニガミはすうっと黒い煙になって消えた。


「……ふう」


 ぽとりと汗の玉が落ちる。


 これで、しばらくは大丈夫だ。


そんな安堵からか、暖かい空気とか風の音とか、のどかな自然の体感が戻ってきて、つけられた傷にぴりっと刺激を感じた。




次回は変態3号、4号の登場です。

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