I 不運
ようやく本編に突入です。
さあ、スロスの永遠のライバル、変態2号が登場します!
近い。あとどのくらいで現れる?
息を切らしながら、どこまでも広がる草原を走る。あいつと戦う環境としては悪くはないが。確かめたいことがあるんだ。
"俺の不運"は何処にいる?
見晴らしのいい丘に駆け上がり、ぐるりと四方を見渡す。
……街道に、牛を走らせる荷牛車が見える。それ以外は、何もない。
びりびりとやけに緊張する空気だけが、俺の周りをぐるぐると巡っている。
……あいつは、透明になれる術でも持っているのか? それとも現世ではなく、精神世界とか、異空間とかから、俺を追っているのか?
ふと、街道にいる荷牛車が止まり、麦藁帽子を被る男が、こちらに手を振ってきた。
呼ばれている。今は、あまり人に近づきたくないんだけどな。じっと見ていると、男から大きな声をかけてきた。
「あんさん、旅人か――――――!? 道に迷ったべか――――――!?」
「……いえ――――――! 違いま――――――す!」
「そんじゃ――――――! そこで――――――! 何しとるんだ――――――!?」
「ちょっと―――――――! その――――――! 休憩で――――――す!」
「そんなとこで――――――! 休んでも――――――! しょうがないだ――――――!」
「お気になさらず―――――――!」
「ちょいと――――――! こっちきな――――――! 荷車で休んだらいいべ――――――!」
「いえ――――――! 本当に――――――! 大丈夫なので――――――! ありがとうございま――――――す!」
「遠慮するな――――――! こっちゃこ――――――い!」
「本当に大丈夫で――――――す!」
「ええからこっちゃこ――――――――――い!」
疲れるっ!!
まだ息も上がっているというのに、いつまでこのやまびこのような会話を続けたらいいんだ。これから厄介な奴と戦わなきゃいけないって時に、声で体力を消耗したくない。
男は暇人なのか、「こっちで休みなさーい!」勧誘がしつこい。無視してここを離れればいいんだが……少しでも優位に奴を討ちたいんだよな。
けど、このままだとあの男が危ない。あいつが声を聞いて気にするかも。近くにいるのは間違いないんだ。
「ほらこぉ――――――ーーーーーい!」
いや、うん、だから、とりあえずさ。
声張り上げるのやめて?
諦めて、声の主に近づくことにした。
「やぁ、ようやくきたべかー」
麦藁帽子の男はコブ鼻だった。ぺかーっとした笑顔で、俺に笑いかける。
「すまないんだが。ここから今すぐ離れて欲しい」
「うんー? どうかしたんべか?」
「ここに"死神"っていう危険な怪魔が来る。巻き込まれる前に、離れてくれ」
「怪魔ぁ? 真昼間の、ここに?」と、コブ鼻男は首を傾げた。
怪魔は普通、夜を好む。日が昇っている時だと、木陰の多い森や日の当たらない洞窟など、現れる場所が限定している。これだけ太陽さんさんの大草原じゃ、まず怪魔が現れることはないだろう。
「……あんさん、何か、顔色悪いべ? だんじょぶか?」
コブ鼻男が心配そうに眉を動かす。
男は去ってくれるどころか、「よっこいしょ」と荷牛車の奥に乗り上げ、ミルクタンクの蓋を開けた。
「ほれ、サービスだ。おらんとこの牛乳、飲んでみろ」
黄色い膜がふるふると揺らいでいる白い液体を、木製のゴブレットに注いで差し出される。
「……あの、ありがたいんだが、ちょっと急いで……」
「気にすんな気にすんな! 代金とったりしないべ! ほれ飲め! 顔色もよくなんよ!」
「……」
辺りを警戒する。やはり広い草原の何処にも、あの黒い影はない。
俺はさっとコブ鼻の男の手から牛乳をとり、一気飲みした。
「どうさ?」
「……うん、うまい」すぐに木の器を返す。
「だろー? おらんとこの牛はお天道さんたっぷり浴びた青草食べて、栄養満点の乳出しつげしゅ「べりょ「がは、べがっ!!?」
コブ鼻男の荷牛車が鮮血に染まる。
俺の顔にも赤い飛沫が飛んできた。牛が重い鳴き声を上げた。蓋の開いたミルクタンクの中身も、ピンクに色づく。
―――来た。
「……スーロス♪」
どくんと心臓が跳ねる。
そいつはいつも、いきなり現れる。
黒い外套をはためかせ、馬車の縁に立つ男。
「やっ♪」
神の名を持つ怪魔は、にやりと笑う。
次回は戦闘描写満載です。
変態2号の変態っぷりも炸裂します。




