ⅩⅣ 一年後
「メルゼルタ様ぁ――――!」
あの二人が駆け寄って来て、「どうか剣のお手合わせを!」と頭を下げられた。
「顔を上げろ。敬称もつけるな。私は様づけをされるような身分ではない」と叱りつけたが。
「今更呼び方を変えるのもしっくりこないというか……」
「私とリーズェの尊師として! 心からの"様"です!」
とリーズェ、エルマーがそれぞれの言葉で不可思議な理由を返してきた。
全く。何度言ったらわかってくれるのか。立場というものを考えて欲しい。
「……手合せを承知した。私を怪魔と思い、二人でかかってこい!」
二人の聖騎士とは対照的な黒い鎧を身につけ、剣術訓練を行う。
「リーズェ! 敵から目を離すな!」
「はい!」
「エルマーも! 腰が浮いているぞ!」
「はい!」
「選択を恐れるな! 勝つなら進め! 負けるなら引け! 戦いは身の程をわきまえろ!」
叱咤を飛ばしながら剣を交え、教会の五回の鐘が鳴った頃に中断した。
「「ありがとうございました!」」と挨拶をされた後、共に昼食を取らないかと誘われたが。
「すまない、これから別の用がある。またの時に誘ってくれ」
名残惜しそうな顔をされた。二人の元班員の頭をぽんぽんと跳ねるように叩き、私は剣技場を後にした。
……私が聖騎士を辞めてから、もう一年か。
ひよっこだった二人も成長したな。
聖騎士は三人班が基本単位だ。私が抜けたあと、リーズェとエルマーはそれぞれ違う班に組み込まれる形で異動した。
エルマーは今度昇格して、とうとう班長になるという。班長は二人の部下を持つ。まあ、エルマーならやっていけるだろう。面倒見がいいからな。
……リーズェは後輩指導に明け暮れているという。「後輩に妙なことを教えていないだろうな?」と釘を刺しておいたが、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。大丈夫だろうか?
聖騎士は職としての格が高いため、雑務とはほとんど無縁だ。今の仕事について初めて学んだことも多い。砂上の楼閣とは言うが、聖騎士である時は気がつかなかった問題点を見つけ、それを正していく作業がなかなか楽しかったりする。
教会の門の外に出て、役場に向かおうとした時だった。
「メールーぅーちゃぁ―――――ん」
何処かで聞いた覚えのある声が近づいてきて、がしっと私の首から肩に、太い腕が回った。
「久しぶりっ♪」
……軽い調子の渋い声。スロスか?
「っ、離せ馬鹿者、人目がある場所で……」
「いいじゃん。折角の再会なんだからさ♪」
振り返ってみると、やはり黒髪黒眼の、褐色肌の男だった。
……明るい声のわりには、一年前よりずっとやつれていたが。
「いやー、逃げ切った逃げ切った! 俺の鬼さん(シニガミ)消滅したから、もう自由だよー」
文字数の関係で中途半端にぶち切ったので、連続二話投稿。episode1、クライマックスです。




