ⅩⅡ 正体(遊び人視点)
ん? 俺はぶっちゃけ、強いぞ?
「こーんにっちわ――♪ オークの皆さん、お揃いで――」
〝幸運〟を増やす能力。その代償として降りかかる不幸地獄を生き延びてきたんだ。神の名を持つ怪魔相手するのに比べりゃ、オークの殺戮なんか利き手の逆で剣持って逆立ちしながらぴょんぴょん跳ねてても余裕。
このオークたちをミンチにして、メルゼルタを近くの人里に送り届けたら、おそらく猶予の半日が終了。鬼ごっこの始まりだ。
それから七ヶ月と五ヶ月の、計一年間。
俺は、〝俺だけを狙う死神〟っつう脅迫尾行野郎から、全力で逃げ切らなきゃいけない。
時が過ぎるまで油断しないで、歯を食いしばって。生き伸びることだけを考えるんだ。
「ぶごぉお――――――!!」
突進してくるオークを棒立ちで待って、旗揚げ信号のようにばっと左手で剣を振り上げる。
「ほいっ」
「ぶごぉお――――――!?」
ばしゅ、っと、オークの足から腹に、ぱっくりと赤い傷が走る。
……俺はかつて、神様になろうとした男。
けど神様になるのを諦めて、人に戻ることにした男。
理由は単純。俺の能力はリスキーすぎる。
人を救うことは簡単だが、その分の負債は俺に蓄積される。〝幸運を操る〟代わりに、俺に苦痛の不運が降りかかる。
誰がこんなアホ能力考え出したの? ってくらい、欠陥がでかすぎるんだ。人の神様になるにしても、自己犠牲が過ぎてて効率が悪い。
なのに、若い頃は夢と希望に漲って頑張ってたの。馬鹿だろ?
〝不運を操る〟フェリスさん(・・・・・・)が羨ましいよ、全くねー。
「ぶぎぃいいい――――――!?」
「ぶぎゃあああ――――――!?」
俺の剣の軌道に沿って、オークが血しぶきを散らし、断末魔を響かせる。
「けど、俺一応、神様になろうとした存在だから。並大抵の奴に負けるわけないじゃん?」
……並大抵じゃない奴には負けちゃうけどね。
不運に対抗するために、筋トレよろしく、俺はちょこちょこ鍛えてきたんだ。
だって死にたくないし? クソ能力のせいで湧くクソ怪魔、ワンパンで退けられるくらい強くなれば万事解決! なんだけど。
……きりがない。やっぱ継続はめんどい。
不運を物理で振り払える神になるとしたら、あとどのくらい修行したらいいわけ?
十年? 百年? 千年? 一万年??
能力使わなきゃ平和なんだけどね。人を幸せにしても、俺は損しかないし。
だから、神様になるのやめた。
向いてなかったんだと思った。
夢追って努力とか、元々飽き性の俺には辛すぎた。鍛錬サボんなきゃ、俺たぶん、もっと強い人になってたと思う。
ま、〝神様候補〟だった時の名残なのか。普通の人よりは多少優秀だけどね。この体は。
「とりあえず苦しんで死ねよ、××××××共。俺が取るはずだったメルゼルタの×××××にぶち込んだ×××を丁寧にスライスして共食いさせてやる。××××は石でぐりぐりとマッシュにしてやろう♪」
殲滅完了。
またメルーさん視点に戻ります。




