ⅩⅠ 希望
天神フェリス様。
どうしてあいつがここにいるのですか?
意識が壊れて、私は夢を見ているのでしょうか?
スロスが私の体を抱きとめる。
本能的にすがりつく。
「スロス……私を楽にしてくれないか」
「……あ、うん。今縄を解いて……」
「違う。その剣で私の心臓を抉ってくれ」
殺してくれ。
もう。もう、私は汚れきった。
筋肉が断ち切られて、体が動かない。
もう無理だ。逃げられない。悪魔からは逃げられない。
これは幻術だ。飲まず食わずでいるせいか、水溜りが見えたこともある。それと同じ。救出が来た幻を見ている。
フェリス様。フェリス様。フェリス様。
どうか、どうか、私をお許しください。お救いください。
この地獄から解放してください。
……助けて。
「メルーちゃん」
あの男は私を起こして、私の腕をぐちゃぐちゃに縛る縄をナイフで切り落とす。
力の入らない私の手をとって、スロスは治療院で患者を励ますかのように、温かく握った。
「またすぐ戻って来るから、とりあえずこれ持って待ってて」
「……?」
「五ヶ月分の運をあげる」
スロスはにまりと笑う。
「……うん。もうこれで大丈夫。メルゼルタは何も失わない」
スロスは急ぐように立ち上がり、
「俺ちゃらんぽらんだけど、人の幸福は絶対約束できるからさ。だから、絶望なんかしちゃだめだよ♪」
そして、早足に廃墟の奥に行ってしまった。
……五ヶ月分の運?
今のは、本物のスロスか?
いや、そんな馬鹿な。一人でここに?
ここまで来るのに、道中の怪魔を単独で薙ぎ倒したのか?
あいつらは力も体も強い、化け物だ。捕虜になるリスクを考えれば、一人で怪魔と戦うなどありえない。
……実は相当な実力者で、それを隠している可能性は?
教会の最高騎士クラスだと、実力を読み取れないことがある。能ある鷹は爪を隠す。本当に強い者は、その正体をばらさない。
……はは。まさかな。
次回は主人公無双。




