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御都合主義的一幕 冒険者のお二人さん

作者: 御都合主義的一幕

「んで、何でボクに御禁制の催眠なんてものをかけようとしたのかなー?」


 催眠の魔導具をこちらに向けて、ヴェノムがにまにまと笑みを浮かべる。催眠の効果は……『嫌でも構わず正直に答える』か。


「ヴェノムと恋仲になりたかったから」


「……お、おう。 ボクと恋仲に、ね……ええと、わざわざ使わなくたって好感度稼ぐなりしたらなれたんじゃないかな?」


 驚き戸惑うように身じろぎし、ヴェノムは催眠の魔導具をベッドに置く。事前に『命令以外での移動は禁止』との催眠を受けているので、それを奪い返すことは出来ない。奪い返しても【状態以上無効】で弾かれるが。


「自分に自信がないから、好きになってもらえる訳がないと。 告白しても、関係がギクシャクして別れたりはしたくなかった」


「成る程ね、何時もの自信喪失だったか。 ……だとしても、こういうのは使っちゃダメだって。 最悪死刑食らうよ?」


「でも、それ以外に振り向いてもらえる気がしなかった」


「いや……まあ……受け身で自分主体な価値観ならそりゃそーだって。 ボクは例外だけど」


 つぃ……と目を逸らしたヴェノムは、少し顔が赤かった。

 だが、言っている内容が理解できない。


「……喜ばれるものがわからないなら、せめて今以下にならないようにしたいと思った。それは間違っていないはず」


「間違ってるよ」


 きっぱりと言い切られた。思わずヴェノムの顔を凝視する。


「良いかい? まず第一に、何かをしなければ結果は得られない、そうだろう?」


「……まあ、確かに」


「それはつまり、結果を求めるならば何かしら行動をしなければ得られない、ということに他ならない。

 身体を鍛えた、だからスライムを倒せるようになった、みたいな感じかな? 大雑把に言えば」


 スライムに返り討ちに遭い死にかけていたのが俺だから、何となくはイメージがついた。ヴェノムが助けてくれなかったら俺は今頃迷宮でスケルトンでもやっていただろう。


「ただ、鍛えたからと言ってリザードマンに必ず勝てるかと言えばそうじゃない。 これも分かるかな?」


 土のゴーレムを倒せるようになって、調子に乗っていた俺はリザードマンにバッサリと切り裂かれて死にかけた。例によってヴェノムが助けてくれたが、しばらくは刃物を見るのも無理だった。

 ヴェノムがトラウマを克服出来るよう手を尽くしてくれて何とか復帰したが、リザードマンとはまだ戦えない。


「……まあ、はい」


「つまり、行動したからと言って必ずしも良い結果には繋がらないという訳だ」


「ですね」


「……でも、その失敗で何か得たものは合ったんじゃないかな?」


「……人型の高い知性を持つ魔物は、人間を相手にしていると同じ様に考えなくてはいけない、でしたっけ?」


「……いや、そーいう言われたこと暗記しましたじゃなくてさ、体感的にだよ体感的に」


 ヴェノムが呆れ顔でくしゃくしゃと頭を撫でてきた。意味は分からないが、少しホッとする。


「……重鈍ではない武器を持つ人型は怖い?」


「おーけーおーけー、それで良いよ。 で、それは役に立っただろう? ほら、スケルトン戦で」


 言われてみれば、剣と盾を持つスケルトン相手に、リザードマンでの苦手意識から注意を払っていた事もあり、なんとか無傷で勝利できた。

 リザードマン戦以前ならば突っ込んでいって相手が動くのを見てから回避していたが、あの時は大体こう来るだろうという予測が上手くいったのだ。


「でも、勝てたのは偶然」


「偶然だけじゃないよ。 武器を持っていて、どういうパターンが繰り出されるのかをキミは体感していた筈だ」


「覚えていない」


「……記憶力も無かったねそういや。 ま、いいや。 とにかく、覚えていなくても身体には染み付いていた筈だよね?

 ほら、ボクが打ち込んだら反射的に防いだりしてたし」


「……確かに」


「最初のうちは防げなかったよね? 何故なら、どう来るかが分からなかったから」


「……成る程」


 今まで俺は、パターン化して対応していた気がする。気がするというのは、あまり意識をしていないからだ。


「つまり、リザードマンでの敗北……失敗が生かされた訳だ」


「……つまり?」


 それはそうだが、だから何が言いたいのだろうか。というか何の話をしていたのか……。


「ええと、要するに……キミはボクに嫌われたりするのが嫌で行動しなかった訳だろう?」


「何の……ああ、はい」


 思い出した。嫌われたくないからと行動に移さないのは間違いだという話……だった、よな?


「お、何とか記憶の沼から引き出せたみたいだね。 んで、それはつまり、リザードマン相手に無策で突っ込んだのと同じ目に……つまり叩きのめされると判断した、という訳だ」


「はい」


「じゃあ、対策を練る……あるいは、情報を集めなきゃいけないよね?

 何が苦手で何が出来るのか、弱点は? 食らったら不味い技は? なんて感じで」


「……でも、書物には個人情報は書いてない」


「だから人に聞いたりするわけさ」


「他人怖い」


 情けない限りだが、俺は人見知りで話題が続かず思考回路がずれまくっているようなのだ。何も出来ない。


「うん、人見知りなのは知ってる。 ついでにボクには気を許せてるっぽいのも。

 でも、それは結局手を打たなきゃいけないのに何もしていないってことだよね?」


「していないじゃなくて出来ない」


「そこはまあ色々あるからねー。 心情的金銭的身分的云々って感じで。

 でも、無策とはいえリザードマンには立ち向かって、結果惨敗したとはいえ学ぶことはあったじゃないか。

 ……残念ながらまだ勝ててはいないけど……ああそうだ、スライムには勝てただろう? 最初は死にかけたのに」


「……はい」


「つまり、失敗したから次に生かせたわけだ。 最初は筋力が足りなかった。 知識が足りなかった。 だけど、リベンジ戦では足りないものを手に入れた状態で戦えた。 だから勝てた」


 あのまま筋力が足りなければスライムの弾力のある身体に弾かれ続けていただろうし、スライムの核を知らなければ延々関係のない場所を叩いていただろう。確かに。


「これは女相手でも同じさ。 何が間違っていたのか、何をすれば良かったのか、それらを少しずつ学んでいけば、そのうち多少は理解できてくる」


「……でも、同じ人を相手に何度も失敗したら……」


「そうだね、愛想尽かされたり嫌われたりする。 でも、その経験があったからこそ次に生かせるわけさ。 次に、好きな人が出来た時に」


「……そんな実験のような不義理な真似は好きな人には出来ないし、好きでもない人でも不義理な真似はしたくない」


 そんな軽々しく生涯を共にする相手を決めたりするのは、選ぶ側選ばれる側問わず間違っている。


「……まあ、言いたいことは分かるよ。 キミって結構重いタイプだし」


「重くなければ想いではない」


「そだね。 でも、やらかさなきゃ身に付かない。 失敗を繰り返さなきゃ正解には辿り着けない。

 少なくとも、キミはそうだよね?」


「確かに」


 誠に遺憾ながら、事実である。完璧は程遠く、目先の事すら満足に出来ない。


「つまり、そうするしかないならそうしなさいなって事さ。

 嫌でもなんでもやるしかない。 でなきゃ、相手なんて一生作れない」


「ヴェノムだって恋愛経験も恋人経験も無いのに……」


 言う気はなくとも『正直に』答えてしまう口が憎い。


「うぐっ……ま、まあ、それはね? ボクだって偉そうなことは言えないけど……駄目なら駄目なりに足掻かなきゃ。

 失敗して、失敗して、失敗して。 そんで何とか及第点を得るってのが大切なんだよ。 一回の失敗で折れて諦めてるようじゃスライムだって倒せなかっただろ?」


「まあ、はい」


「だから、何事も経験だよ。 天賦の才がない、優れた肉体もない、頭も弱い。 それなら、その分を経験で補うんだ。 無理なものは無理でも、別の場所で役に立つかもしれない。

 リザードマンは無理でも、スケルトンには勝てる様になる。 それが重要なんだよ。

 だから、リスクを恐れてなにもしないのは間違いなんだ。 行動して、それで失敗しても、次に生かせる。 同じ失敗であっても、原因が僅かでも違うなら糧になるし、全く同じでも原因を把握する足掛かりになる。

 一つ一つ原因と思われる行動を潰していけるからね。 分からなきゃ分かるまで失敗して良いんだよ。

 失敗は間違いなんかじゃない、成功への地均しみたいなもんさ」


「……キザっぽい」


「……うん、なんかちょっとだけボクもそう思った。

 じゃなくて、つまり……ええと、ほら! 告白! 好感度上げ! 試してごらんよ、ね?」


 そして、ヴェノムは催眠の魔導具を解除した。


「……ほら、どうしたの? 試してごらん? ボクにキミの想いを教えてよ?」


 にまにまと笑みを浮かべるヴェノムは、ほんのりと頬が赤かった。


「……好き、です」


 これだけで、喉がカラカラだ。頬が火照る、声が震える。か細く蚊の鳴くような、小さな声なのに。


「うんうん、それで?」


「……結婚、してください。死ぬまで一緒に、いてください」


「……お、おう。付き合いすっ飛ばして結婚が来た。 しかも死ぬまで一緒かー」


 あちゃー、なんて言いながら、ヴェノムがベッドに倒れ込む。


「……まあ、うん、良いよ。 死ぬまで面倒みたげるからさ、これからも一緒に……頑張ろう! おー!」


「……」


「いや、此処は乗ってよ。 ほら、せーの」


「おー!」

「お、おー!」


 という訳で、何だか訳の分からぬまま結婚する運びとなりました。いや、告白して返事貰えたからってのは分かるんだが……まあ、上手く行ったなら良いか。


END.

改めて見返したらこれは酷い

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