初日
快晴。青い空の合間から、大学のビルが見える。駅を降りて、私は、急いで、歩いた。駅からは徒歩5分、駅前に聳え立つビルがABC大学だ。その大学を横に見て、先にある脇道に入った。そうして、しばらく歩くと、その喫茶店が見えた。名前は、Cafe LuCky。少し急いだせいか、まだ開店していなかった。私は、扉の前で開店するのを待つことにした。
「おはよう」
後ろから、声がしたので、振り返ると、立っていたのは、菫だった。
「菫、おはよう」
私も、挨拶を返す。
私は、海堂 蓮華18歳。地方の私立ABC大学に合格し、大学の近所に越して来て一人暮らしを始めている。学科は、外国語。翻訳家目指して、日々奮闘中。
彼女は、伊佐木菫。短い髪が似合うクールな美少女で、パティシエ志望。同じ大学の栄養学科に通っている。その上、私のアパートの隣に住んでいるので、その縁で仲良くなったのだ。
ここABC大学は、関東でも広い方で、様々な分野の人が来ている。学部は、外国語学部、理工学部、栄養学部、教育学部とある。
「まだ、皆は来ていないのね」
菫は、蓮華に話しかける。
「そうみたい」
蓮華がそう言った時、ガチャリと音がして、扉が開いた。
Cafe LuCkyの店長が出てきた。彼女の名前は、ルベル。大きな青い目に、金髪を一つに結っている。
「おはよう。今日は早いのね」
「おはようございます」蓮華が言った。「今日は、大学お休みなんです」
ルベルは、地面に看板を置いた。
看板OPENと書かれている。
「どうぞ、中へ」
彼女は、私達に言った。
「ありがとうございます」
私達はルベルと一緒に店の中に入った。
店内は、昔ながらの古風な喫茶店だった。奥に料理台があって、その前に2つテーブルが囲むように置いてあった。テーブルの前にはイスが7つ並んでいた。壁には、西洋画家が描いたらしい人物画がかけられていた。部屋の隅には、ヤシの木が。
「ご注文はお決まりですか?」
私達が奥のイスに座ると、ルベルが尋ねる。
「とりあえず、コーヒーをお願いします」
私が頭を下げる。
「私も同じものを」
と菫が言った。
カランと音がして、人が入ってきた。
「や。もう来てるの?」
それは、理工学部に通う山田奈緒だった。タレ目で眼鏡をかけている。奈緒は、コンピュータープログラマーを目指していて、パソコンの扱いなら彼女に右に出るものはいない。
「今日は、早く来たんだ」
私が答える。
山田奈緒の後ろから、中田洋が現れた。
「洋。遅かったね」
私が手を振った。
洋も手を振り返す。洋は、高校が同じだった。学部は、理工学部と違うけれど、同じ大学に通うことになて、意気投合。警察官になることを志望していて、いつも荷物運びなどの雑用を我先に手伝ってくれる。洋は目がくりくりっとした少女だ。
菫の隣に、奈緒が座り、その隣に洋が座った。
「後は百合子が来れば、全員揃うのに」
菫が残念そうに言った。
全員揃うとは、SNSに登録した同大学同年齢の作家仲間のことだ。最後の作家仲間は、空井百合子。教育学部に通う1年生で、目が細いかっこいい顔をしていた。
「おまちどうさま」
コーヒーが来た。それに、クッキーも。
「クッキーはおまけね」ルベルがウインクした。「あなた達もコーヒーでいいかしら」
「はい、クッキーもいいですか?」洋が尋ねた。
ルベルが頷いて、コーヒーを作り始める。
カラン。
扉が音を立てた。
皆が振り返ると、最後の一人、百合子が立っていた。
「おはよう。もう作戦会議中?」
「ううん。まだ」と奈緒。
私は、オーダーを頼んだ。
「ルベルさん、あと、コーヒーとクッキー1つ」
「分かったわ」
ルベルは、二つ返事をした。
洋の隣に百合子が座ると、私が口火を切った。
「ところで、明日どこに行く?」
明日は、開校記念日で大学はお休み。つまり、今日と明日は連休なわけだ。そこで、明日はみんなでどこかに出かけることになっている。
「最近、遊園地出来たわよね」
菫が雑誌を見せる。
「面白そうだね」と私が賛成する。
「OK!」と洋。
「異議なし!」と奈緒。
「明日持っていくものは?」と百合子。
「はい、コーヒーとクッキー」
ルベルが百合子にコーヒーとクッキーを渡す。
「ありがとうございます」
百合子がコーヒーを受け取ったところで、皆で乾杯する。
「じゃあ、明日持ってくるものは、1万円と携帯電話、あといつも持ち歩いてるもの」
と洋。
「分かった」
百合子が返事をした。
「私も行ってもいいかしら」
ルベルが尋ねた。
「ええ、もちろん」
私は目を丸くして答えた。