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8話 霊装騎士の力②

『ブヒィィィィィィッ!!』


 なんとも不快な雄叫びが辺りに響き渡る。


 ここは迷宮二層目。

 一層目で、レムはゴブリンや、半液状のEランクモンスター〝スライム〟などを次々と屠り、この階層までやってきた。


 今、雄叫びを上げてレムに迫り来るのは、豚の顔に巨大な人型の体を持ったDランクモンスター――〝オーク〟だ。


 ゴブリン同様、オークも異種交配が可能な種族だ。

 だが、その性質はゴブリンよりも悪い。


 ゴブリンが繁殖本能のみで獲物に襲いかかるのとは違い、オークは繁殖活動そのものに快楽を見出す種族。

 ケダモノでありながら、性行為を楽しむのだ。


 見たところ、このオークはオスのようだ。

 だというのに、レムに対して興奮した様子を見せている。

 彼を少女と見間違えてるのか、それとも両方イケる奇行種なのか……。


 それはさておき。


 レムは目の前の空間に腕を伸ばす。

 ゴブリンの時と同様、彼の手の周りが歪み始める。

 霊装武具を召喚するつもりなのだ。


「来い、《斬空骨剣》!」


 レムの呼びかけに応え、歪みは形を成す。


 彼の手中に現れたのは、鋭利な骨が重なり合って剣の形となった霊装武具だ。

 ゴブリンの時に召喚した《霊剛鬼剣》のように、剣身はレムの背丈ほどある。


 しかし、刃の幅はそれほどではない。

 例えるならば、一般的なブロードソードくらいの幅だろうか。


 レムは《斬空骨剣》を腰だめに構える。

 するとそのまま一気に薙ぎ払った。


 オークはまだ剣の射程に入っていないというのに、どういうことだろうか。


 レムが剣を振り抜いた直後、それは起きた。


『ブギャアアアアアアアッ――!?』


 ドシドシと距離を詰めて来ていたオークの足が止まる。

 それとともに、甲高い悲鳴が上がる。


 オークの表情は苦悶の色に染まっている。

 その顔のすぐ横……右の肩からは血が噴き上がっている。

 まるで切り裂かれたような出血の仕方だ。


 それもそのはず、レムは斬撃を放った(・・・)のだから――


 彼の召喚した《斬空骨剣》は〝スケルトン・リッパー〟というCランクモンスターの能力を具現化した霊装武具だ。

 スケルトン・リッパーは両腕が剣のような形状をしたモンスターであり、その腕を振い真空の斬撃を生み出すことができる。

 つまり今、レムは《斬空骨剣》を振るうことで、オークの肩めがけて真空の刃を飛ばしたのだ。


「そうか……。今はレイナにバフスキルをかけてもらえてないんだっけ……」


 絶叫するオークを前に、レムはその事を思い出し、呟く。


 勇者パーティにいた頃、レムは戦いの際には仲間の魔法使い、レイナに攻撃力上昇のバフスキルを付与してもらっていた。

 彼女のバフスキルがあれば、今放った斬撃でオークの肩を切り裂くどころか、切断することすら可能だったはずだ。

 パーティを抜けてしばらく経った今も、レムはその感覚が抜けていないのだった。


「はぁ……。たしかに、ぼくはみんなに頼りっぱなしだったな。その上足手まといになってたんだから、追放されても仕方ないか……」


 マイカにレイナ、それにクルエル。

 かつての仲間たちのことを思い出し、レムの顔が辛そうな表情に染まる。


 だが、今は戦いの最中だ。

 邪念を振り切るように、顔を小さく左右に振ると、レムは左の手のひらを開く。


「来い、《霊剛鬼剣》」


 左手の中に、新たに魔剣を呼び出した。

 一層目でゴブリンども屠った《霊剛鬼剣》だ。


「レイナのスキルが無くても、やりようはある」


 そう言って、レムは再度《斬空骨剣》を振り抜いた。

 鋭い風切り音が鳴り響く。

 先ほどとは比べものにならない剣速だ。

 そして……。


 斬――ッ!!


 そんな音とともに、オークの胸からまたもや鮮血が迸った。

 だが、その出血量は肩の時の比ではない。

 斬撃は深い、出血量を見るに心臓部まで到達したのだろう。

 その証拠に――


 グラリっ……。


 オークの体が大きく揺れる。


 その瞳は虚ろだ。

 そしてそのまま派手な音を立てて仰向けに倒れこんだ。

 心臓を破壊、それに出血多量……いくら屈強なオークであろうとも、これで死なないはずがない。


「ふぅ……ちょっと横着し過ぎたかな」


 両手の魔剣を次元へと帰還させながら、レムは苦笑する。


 自分を繁殖目的、それも快楽を求めて襲いかかってきたオークに、レムは嫌悪感を抱いた。

 その上オークは臭いがキツイし、側によると雄叫びと一緒に唾液を浴びせられることになる。

 それが嫌で、出来れば近づくことなく片付けたかった。

 なので《斬空骨剣》を呼び出し対応しようとしたのだが、今の彼では攻撃力不足だった。


 この魔剣は使用者の繰り出す剣速によって斬撃の威力が上下する。

 バフを付与されていないレムの細腕では浅い傷をつけるので精一杯だ。


 だったら底力を上げればいい。

 レムは《霊剛鬼剣》を呼び出すことによって、自分の膂力を上昇させ、《斬空骨剣》の能力を引き上げたのだ。


「やっぱり、もっと奥の階層へ行かないとダメだな……」


 オークが完全に息を引き取ったのを確認したところで、レムがボソッと呟く。


 さすが迷宮、モンスターの数は多い。

 ここまで来るのに、レムが倒したモンスターの数は数十にも及ぶ。

 だがしかし、次の階層へと足を踏みれた今、現れたのはオークだった。


 たしかに出てくるモンスターのランクは上がった。

 だがそれは劇的なものではなかった。

 迷宮によって、階層ごとに出現するモンスターのランクの上下幅はかなり違う。

 この都市の迷宮はその振り幅が小さいのだと、レムは判断したのだ。


「仕方ない、地道に進んでいくとするか……」


 すぐにでも自分を倒すほどの強敵を欲していたレムは少々落胆するも、そのまま奥へと進んでいく。


 その足取りと表情は既に、亡者のそれであった――





 迷宮五層目――


「ふぅ……少しは敵もマシになってきたかな」


 肩に《霊剛鬼剣》をトントンと当てながら、レムは小さく息を吐く。


 辺りには三体のモンスターの死体が散らばっている。

 五層目にて待ち受けていたのは牛人型のモンスター〝ミノタウロス〟だった。


 気性は非常に荒く、好戦的なモンスターで、そのランクはDとCの間……C―ランクとされている。

 膂力はオークのさらに上を行き、斧や槍などの武器を駆使し、中には魔法スキルを放ってくる個体も存在する。


 知性もオークより上だ。

 実際、三体のミノタウロスはレムを襲撃する際に連携して攻撃を仕掛けてきた。


 三体の内、二体は斧を装備し、もう一体は槍を使う個体だった。

 まずは斧使いの内の一体が先制攻撃を仕掛けてきた。


 レムはすぐさま《霊剛鬼剣》を召喚し、その攻撃を防いでみせた。

 すると、すぐさまもう一体がレムの横っ腹に斧を叩き込もうとしてくる――が、それは無駄だ。


 レムは斧を防ぐのに使っていた《霊剛鬼剣》をそのまま横に薙ぎ払った。


 ミノタウロスは凄まじい膂力を誇るモンスターだ。

 だがそれは普通と比べればという話だ。

 レムの持つ《霊剛鬼剣》はBランクモンスター、アンデッド・オーガの力を具現化した魔剣だ。

 それによって得られる膂力はミノタウロスを軽く凌駕する。


 薙ぎ払われた《霊剛鬼剣》によって一体目のミノタウロスは腕を刎ね飛ばされた。

 もう一体のミノタウロスも、そのままの勢いで腹を深く斬り裂かれる。


 二体が容易くやられる様を見て、今か今かと槍を突き出すタイミングを窺っていたミノタウロスは驚愕の表情を浮かべた。

 そしてレムが自分より格上だと理解したのか、仲間を見捨てて逃亡を図った。


 まぁ、すぐさまレムに追いつかれ、《霊剛鬼剣》によって頭から真っ二つに割られてしまうのだったが……。


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