77話 放たれるプレッシャー
さらに迷宮の中を進む一行の前に、新たなモンスターどもが姿を現した。
体長三十センチほどの体と羽を持つ蜂型のCランクモンスター、ポイズンビーだ。
「皆、気をつけて。ポイズンビーの針には状態異常を起こす毒があるわ」
頭上をブンブンと音を立てて飛ぶ五体のポイズンビーを見据えながら、マイカが注意を促す。
それを聞き、ヤエとスケルトンガードナーが、ポイズンビーが迫ってきた時にいつでも叩き落とせるようにそれぞれ盾を構える。
ポイズンビーはレムたちの頭上で、襲いかかるタイミングを窺うように上下左右に移動しながら飛んでいる。
「素早いですね……」
「アレだと私の《甲弾蟲》も当てるのは難しいわ」
素早く空中を移動するポイズンビーを前に、アリシアとアンリが攻めあぐねいている。
そんな中――
「来い、《斬空骨剣》!」
――レムが《霊剛鬼剣》を持つのとは反対の手に、新たな霊装武具を召喚する。
(なるほど、《斬空骨剣》の攻撃範囲であれば、連続攻撃でポイズンビーを切り刻むことができるというわけか!)
レムが霊装武具を召喚したことで、ユリウス皇子はレムの行動を予測する……が――
「……ここだ!」
レムが《斬空骨剣》を腰溜めに振り抜いた。
アリシアの《ランクアップマジック》によって強化された《斬空骨剣》から、見えない斬撃が飛び出す。
スパン――ッッ!!
そんな小気味いい音が響き渡った、その直後だった。
『『『ピギィィィィィ――ッッ!?』』』
頭上のポイズンビーたちが耳障りな声を上げるとともに、その体が横真っ二つに切断されたではないか。
「な……っ!?」
「マジかよ……」
思わず声を漏らすマイカとユリウス皇子、そんな反応も当然かもしれない。
レムは連続攻撃を放つことで、ポイズンビーを処理するつもりだ……と、二人は考えていた。
しかし、レムは敵が飛び回る規則性を瞬時に分析し、空中で横に重なるタイミングに合わせて斬撃を放つことで、一瞬で片付けたのだ。
「さすがご主人様です!」
「何が起きたのか、一瞬わからなかったわ……」
「まさかここまでとは、お姉ちゃんビックリだぞ!」
レムの凄まじい戦闘センスに、アリシア、アンリ、それにヤエが、それぞれ称賛や感嘆を露わにする。
「レム……あなた、とんでもなく成長しているのですね……っ」
エリスに至っては、レムのあまりの成長ぶりに、若干引いた様子を見せるのであった。
しかし、その直後――
「ぐ……ッ!?」
「このプレッシャーはッ!」
ユリウスやマイカを始めとした面々が、突如そのような反応を示す。
アリシアやアンリに関しては、冷や汗を浮かべ体が小刻みに震えている。
……迷宮の奥の方から、凄まじいプレッシャーを感じ取ったのだ。
「このプレッシャー……、まさか四魔族ダンタリオンの復活が始ってしまったのでしょうか……?」
錫杖を握りしめながら、エリスが言葉を漏らす。
そして、その表情は困惑の色に染まっている。
彼女が聖魔王から賜った預言では、ダンタリオンの復活にはまだ余裕があっただった。
しかしたった今、迷宮の奥から四魔族……もしくはそれと同等の存在によるものと思われるほどに、凄まじいプレッシャーが放たれたからだ。
「でもこの感じ、前に戦った四魔族と何かが違うような……」
迷宮の奥を見据えながら、レムがそんな言葉を漏らす。
奥から放たれるプレッシャーは確かに凄まじい。
しかし、以前に戦ったレヴィから感じたプレッシャーとはまた異質な感じだと、レムは思ったのだ。
「確かに、私が前に戦ったウァラクと、レヴィのプレッシャーは似ていたわ。でもこれは……」
レムの感想を聞き、マイカがそんな言葉を漏らす。
「まさか、ダンタリオン以外にも、それに匹敵するような存在が潜んでいるのか……?」
あってはほしくない――そんな予想をユリウス皇子が口にする。
「……とにかく、先を急ごう」
「ええ、十分に警戒しつつね」
最後に、レムとマイカがそんなやり取りを交わし、一行は足早に迷宮の奥へと進む。




