76話 霊装騎士の力と巫女の焦り
迷宮の中を進むこと少し――
『キキッ!』
『キィィィ!』
そんな鳴き声とともに、新たなモンスターどもが現れた。
「ジャイアントエイプか、面倒だな」
モンスターどもを見据えながら、そんな声を漏らすレム。
ジャイアントエイプ――
二メートルほどの身長を持つ猿人型のCランクモンスターだ。
性格は獰猛であり、獲物をいたぶることに快感を得る上に、木の枝や石を使った攻撃を仕掛けてくるなど知能もそこそこ高い。
「よし、ここは私も参戦しよう」
そう言って、ヤエが前に出る。
「来い、《アイギス》!」
高らかに叫ぶヤエ。
彼女の目の前に、白銀の巨大な盾が現れた。
ヤエが新たに手に入れた派生スキルによって創り出された神聖属性の武具、《アイギス》だ。
「ハァァァァ――ッ!」
声を張り上げ、ジャイアントエイプの集団にチャージアタックを仕掛けるヤエ。
ヤエに向かってジャイアントエイプどもが石を投げて牽制するが、そのことごとくをヤエは《アイギス》で無効化する。
そのまま勢いで、ジャイアントエイプ三体を大きく弾き飛ばす。
ヤエの持つ《アイギス》には身体能力を向上させる効果がある。
それに加え、エリスに授けられた《ベルゼギフト》の効果もあり、その威力はさらに向上している。
弾き飛ばされたジャイアントエイプのうち、二体は木に大きく叩きつけられ戦闘不能に陥っている。
「来い! 《霊剛鬼剣》!!」
他のジャイアントエイプが呆気に取られているその隙に、レムが霊装武具を召喚する。
召喚した《霊剛鬼剣》、あらかじめ付与してあったアリシアの《ランクアップ・マジック》、そしてエリスの《ベルゼギフト》の三重の効果効果により、レムの身体能力が計り知れないほどに強化される。
ダン――ッッ!!
凄まじい音を上げ踏み込むレム。
最初の踏み込みでトップスピードに至り、瞬時にジャイアントエイプの集団のド真ん中へと移動する。
『『『ギギッ!?』』』
突然目の前に現れたレムを見て、驚愕の表情を浮かべるジャイアントエイプども。
そんなことなどお構いなしに、レムはその場で大回転。
アリシアによって強化された《霊剛鬼剣》による回転斬りによって、ジャイアントエイプどもの胸や腹を大きく切り裂く。
一瞬の出来事により、ジャイアントエイプどもは何が起きたか理解することができないまま、そして断末魔の声すら上げることもできないまま、鮮血を噴き上げその場に倒れ伏す
のであった。
(す、凄まじいスピードだ! もともと持っていた力に加え、巫女エリスの加護も加わった今のレムであれば……身体能力だけで言えばSランク冒険者に匹敵するのではないか?)
レムの神速とも言える戦闘スピードに、ユリウス皇子はそんなことを思うのであった。
「ビックリしました。スキルの加護を受けているとはいえ、まさかここまでとは……。レム、あなたは本当に強くなったのですね」
ビッ! と《霊剛鬼剣》についた血糊を払うレムのもとに、エリスが近づいてくる。
頬はまたもや仄かにピンク色に染まっており、その瞳は感動のあまりに少々潤んでいる。
「ありがとうございます。これもエリス様の加護、それにアリシアのおかげです」
エリスに礼を言いつつ、アリシアに愛おしげな視線を送るレム。
「ご主人様……♡」
レムの役に立てたことに喜びを感じるアリシアが、甘い声で彼に応える。
(……なるほど。詳しくは聞けていませんが、レムとアリシアは本当に特別な仲なのですね、私も頑張らないと……)
突如レムとアリシアの間に漂い出した甘い雰囲気に、エリスはそんなことを思う。
そんな中――
「ずるいぞ、お姉ちゃんを忘れるな!」
――そう言って、レムにヤエが抱きついてくる。
「むぅ……」
目の前の光景を見て、マイカが複雑そうな声を漏らす。
「や、やんっ! またアリシアさんとヤエさに見せつけられちゃってる……♡」
一方、アンリは何やらまた恍惚とした表情を浮かべている。
まったく、本当に難儀な体質である。




