75話 森林型の迷宮
迷宮へと足を踏み入れると、外観から想像できる通り、木々が鬱蒼と生茂る空間が広がっていた。
「ふん、早速お出ましだな」
土でできた道の先を見据えるユリウス皇子。
その視線の先には三体の異形が佇んでいた。
「スモールトレントね、見た目に反して動きが速いから注意して」
マイカがアリシアたちに注意を促す。
スモールトレント――
その名の通り木の形をしたCランクモンスターだ。
枝のような腕による刺突攻撃や、その重量を活かした突進攻撃を仕掛けてくるのが特徴である。
「ハイスケルトンたち」
『『『了解!』』』
レムの声に応え、《装剣蟲》を装備したハイスケルトンたちが一斉に飛び出した。
『『『ギギャッッ!!』』』
ハイスケルトンたちが大きく動いたのを見て、スモールトレントどもも戦闘態勢に入る。
『ハッ!』
そんな掛け声とともに、凄まじい勢いでスモールトレントの懐に入るハイスケルトン。
やられてたまるかと、スモールトレントが太い枝のような腕を振り下ろしてくる。
『甘いですね』
余裕のある表情でハイスケルトンがその場で身を捻る。
スモールトレントの腕がハイスケルトンの体の横を通過していく。
その刹那、ハイスケルトンは腰溜めに構えた《装剣蟲》を一気に振り払った。
今まさに空振ったスモールトレントの腕を、横真っ二つに切り裂いた。
『ギギャァァァァァァァ――ッ!!』
激痛のあまり、耳を劈くような悲鳴を上げるスモールトレント。
その隙を突き、ハイスケルトンが敵の土手っ腹に《装剣蟲》による刺突を叩き込み……完全に沈黙させることに成功する。
その横では、他のハイスケルトンたちが敵と似たような攻防を繰り広げている。
「む、さらに敵が迫ってくるな」
ハイスケルトンたちが攻防を繰り広げる、そのさらに向こう側に視線を向けるヤエ。
奥の方から、さらに複数体のスモールトレントどもが押し寄せてくるのが確認できる。
「アンリ、いきましょう」
「はい、アリシアさん!」
アリシアとアンリが、そんなやり取りを交わしながら、それぞれ腕を前に構える。
「《アイシクルランス》……っ!」
「いきなさい、《甲弾蟲》!!」
アリシアの目の前の空間から氷の魔槍が、アンリの方からは凄まじい硬度を誇る甲殻に包まれた蟲が勢いよく飛び出した。
そのまま後方のスモールトレントに――ドパンッッ!! 派手な音でヒットし、それぞれ心臓を貫く。
突然の出来事で、増援に駆けつけた他のスモールトレントどもの間に動揺が広がる。
その隙にハイスケルトンたちが一気に距離を詰め、次々に敵へと攻撃を仕掛ける。
「なぁ、レム……アリシアたちの連携力が前より上がっている気がするんだが?」
「ぼくもビックリしました。前の迷宮攻略で腕を上げたようですね」
目の前で繰り広げられる戦闘を見つめながら、そんなやり取りを交わすユリウス皇子とレム。
アリシアとアンリ、そしてハイスケルトンたちの連携力は、前回の迷宮攻略の時よりも見るからに上がっていた。
しかも今回は初見の迷宮、そして初見の敵であったにも関わらずだ。
アリシアとアンリは、レムの役に立ちたいその一心で一つ一つの戦闘を、成長を意識しながら行っていた。
さらにこの都市への移動時間で、森林型の迷宮に関する書物を読み込み、モンスターの特徴を研究し、対策知識を身につけていたのだ。
さらに攻撃スキルの選択も完璧だ。
本来であれば、スモールトレントは火属性が弱点であるが、アリシアはあえて氷属性の《アイシクルランス》を使用した。
この迷宮は森林型であるため、周りの木々に火が燃え移る可能性を考慮したのだ。
アリシアたちの連携力を考慮すれば、皆でBランク冒険者程度の実力があると考えてもいいだろう。
「これであれば勇者二人とレムの消耗を抑えられますね、とても助かります」
戦闘を終え、レムたちの元へと戻ってくるアリシアたちに、エリスがそんな声をかける。
「エリス様のおかげです♪」
「授けてもらった加護のおかげで、いつもより戦いやすかったです」
エリスに対し、そんな風に答えるアリシアとアンリ。
迷宮に入る前に施された《ベルゼプロテクション》のおかげで、二人の身体能力とスキルの威力が底上げされていた。
そのおかげで、さらにスムーズに戦闘を終わらせることができたのだ。
互いの力を認め合い、いい雰囲気になったところで、一行はさらに迷宮の中を進み始める――。




