71話 巫女との再会
馬車を走らせること数日――。
一行は伯爵領グラッドストーンへと辿り着いた。
「よし、さっそくだが巫女エリスとの待ち合わせ場所に向かうとしよう」
そう言って、馬車の御者にユリウス皇子が馬車を待ち合わせ場所である、この都市の高級宿へと走らせるように指示を出す。
(エリス様、会うのは久しぶりだな……)
彼女のことを頭に思い浮かべながら、そんなことを思うレム。
勇者パーティにいた頃は救世の旅で、その後も冒険者として忙しく、彼女に最後にあったのは一年以上前だ。
都市の中を馬車で駆けること少し、目的の宿屋が見えてきた。
白塗りの三階建ての大きな宿は、見るからに高級感に溢れている。
「さて、降りるとしよう」
「はい、ユリウス」
ユリウス皇子に続き、馬車から降りるレム。
二人同様に、後方の馬車からマイカたちも降りてくる。
「マイカ様……」
「あなたの言いたいことはわかるわ、アンリ。……エリス様に、どんな顔をして会えばいいのかってことでしょ?」
「はい……」
少々思い詰めた表情で、そんなやり取りを交わすアンリとマイカ。
アンリは過去の件でエリスの所属する教会に裁かれ、奴隷に落ちている。
教会の関係者であるエリスに会うというだけで緊張するのに、彼女はレムのことをとても大切に思っている。
アンリの犯してしまった過ちに怒りを覚えていることは間違いない。
それが今はレムの庇護下にあるとなれば、その怒りは計り知れないであろう。
「大丈夫よ、エリス様は寛大な方だし、私もフォローするわ。……まぁ、私自身も彼女には顔向けできないのだけど……」
自分も複雑な状況にありながら、そんな言葉をアンリに駆けるマイカ。
この数日間、一緒に馬車で話し合うことで、互いに思うところをある程度解消できた……といったところだろうか。
「巫女エリス様……どんなお方なのだろうか」
「お会いするのが楽しみですね♪」
さらに後方の馬車から、ヤエとアリシアがそんなやり取りを交わしながら降りてくる。
アリシアは以前に何度かエリスのことをレムから聞いている。
なので――
(あわよくば、ご主人様のハーレムに加わってもらいましょう……♡)
――などと、心の中でほくそ笑んでいるのだ。
(い、嫌な予感がする……)
アリシアの唇が少し緩んだのを見て、レムはそんな感想を抱くのであった。
それはさておき。
一行は宿屋に入ろうと動き出す……その直後だった。
バンッッッッ!!
凄まじい勢いで宿屋の扉が開かれた。
そして扉の中から――
「レムっ!」
――鈴の音が鳴るような綺麗な声とともに、純白の巫女服に肌を包んだ、一人の美少女が現れた。
「エリス様――うむぅ……っ!?」
彼女――巫女エリスの名を呼び、挨拶をしようとしたところで、レムの口は塞がれた。
勢いよく飛び出したエリスが、レムの顔を自分の胸の中に抱きしめてしまったのだ。
エリスはどちらかと言えばスレンダーな少女だ。
それでも胸はそれなりに実っているので、レムの顔がむにゅむにゅとした柔らかな感触で包まれる。
(ああ、懐かしい匂いだ……)
エリスの胸の中で、そんなことを思うレム。
女性特有の甘い匂いと、石鹸のような清潔感溢れる匂い……エリスとともに過ごした期間、レムが幾度となく近くに感じた匂いだ。
「ああ……レム! あなたが無事で本当によかった……!」
レムを胸の中に抱きしめながら、切なそうな声を漏らすエリス。
ユリウス皇子が少々驚いた表情を浮かべているが、感極まってしまったのか、エリスは周囲の人間の目などお構いなしだ。
「エリス様、綺麗なお方だな……」
「それに、ご主人様を本気で思っている様子ですね、ふふふ……♡」
ヤエがエリスを見て感嘆の息を漏らす横で、アリシアは妖艶な笑みを浮かべ、小さく舌舐めずりするのであった――。
恐らくスローペースで不定期になると思いますが、更新再開させていただきます。




