69話 新たな予言
「今日は色々と勉強なった。助かったぞ、レム」
「いえ、ぼくはアドバイスをしただけですので、むしろ殿下の吸収の良さにびっくりしています」
ギルドの酒場――
ユリウス皇子とレムがそんなやり取りを交わす。
迷宮での特訓を終えたあと、ユリウス皇子の「一回でいいから冒険者ギルドの酒場で飲んでみたい」という要望を聞き、二人でやってきたのだ。
レムの言う通り、ユリウス皇子の飲み込みは早かった。不慣れだったモンスターとの戦闘も、回数をこなすうちに格段に良くなっていった。
これも彼の正義に対する思い、そして勇者としての義務感の強さがなせることであろう。
「す、すげーぜ……ユリウス殿下とレムさんが飲み交わしているぞ……」
「ああ、勇者皇子と、この都市の英雄……なかなか見ることができないじゃないか、こんな光景は……」
エールを飲むユリウス皇子、その目の前でミードを飲むレム……。
周囲の冒険者たちの目は二人に釘付けだ。
そんな視線に若干の居心地の悪さを感じつつも、レムは二人分の酒のお代わりと、適当につまみを給仕の娘に注文する。
男らしく美形なユリウス皇子、そして少女と見間違えるほどに愛らしいレム。
二人を前にして、給仕の娘は顔を赤くしながら注文を取る。
「ギルドの食事もなかなかだな。こうして冒険者たちの喧騒の中で食べるのも悪くない」
「こういう雰囲気の中での食事は何となく楽しいですよね、ぼくも結構好きです」
追加の酒で再び乾杯しながら、ユリウス皇子とレムが笑い合う。
そんな中だった――
「おい聞いたか!? 聖刃アリアと聖獣タマが、四魔族の一柱を討ち倒したらしいぞ!」
――ギルドの中に、そんな声が響き渡った。
声のした方――ギルドの入り口を見れば、何やら羊皮紙を持った冒険者が立っていた。
「悪い、少し見せてもらえるか?」
「ああもちろん……って、ユリウス殿下!?」
羊皮紙を持った冒険者のもとへ近づき、ユリウス皇子が声をかけると冒険者は素っ頓狂な声を上げる。
そんな冒険者の手から羊皮紙を受け取り、内容を読むユリウス皇子。
レムも横から中を覗いて見ると、そこには先ほど冒険者が言っていた通り、聖刃アリアと聖獣タマが、隣国ゼハートで復活した四魔族・ヴァサーゴを討滅したと記されていた。
この情報紙はこの都市における情報機関が定期的に発行するものであり、タイミング的にこれは号外として外で配られていたのだろう。
「聖刃と聖獣、七大魔王のいくつかを倒したことのある凄腕冒険者チームのメンバーですね」
「そうだ、レム。今の俺では足元にも及ばない強さを持った、まさに英雄だ。それにしても、たったの一人と一匹で四魔族を討滅してしまうとは……。いや、悔しいが、これは良くやってくれたと喜ぶべきだな」
レムに答えながら、悔しげな表情を浮かべるユリウス皇子。
自分たちがあれだけの戦力で挑んだにも関わらず、ギリギリの戦いだったというのに、聖刃アリアと聖獣タマは、たったそれだけの戦力で四魔族を討滅……。
しかも、四魔族ヴァサーゴは完全なる復活を遂げており、千にも及ぶ軍勢を率いていたが、それらを全て殲滅したと、号外には記されていた。
英雄と呼ばれる一人と一匹が、とんでもない戦闘力を有しているのがわかる。
仕方がないこととはいえ、その実力差がユリウス皇子には悔しいのだ。
だが、これは喜ばしいことだ。
魔王マモンの配下である四魔族の内、レムたちが倒したレヴィ、マイカたちが倒したウァラク、そして聖刃アリアたちが倒したヴァサーゴ……これで残りは一柱のみとなったのだから。
「レム、もしまた四魔族が復活することがあれば……」
「わかっています、殿下。その時はお供します。乗りかかった船ですからね」
「すまない、助かる」
自分を友と認めてくれたユリウス皇子、四魔族の手から人々を守りたいという思いもあるが、何よりレムは目の前の勇者皇子のことが人として好きになった。
そんな彼からの頼みであれば、四魔族との戦いに再び赴くのもやぶさかではない。
二人は小さく笑い合うと、テーブルに戻り、酒を飲み交わすのだった。
◆
王国にある教会――清廉なその一室で、巫女エリスが静かに瞳を開く。
「エリス様……まさか……!」
「はい、聖魔王ベルゼビュート様より予言を賜りました。七大魔王が配下の最後の一柱――〝ダンタリオン〟が復活します」
従者の言葉に、エリスはたった今授かった、予言の内容を伝える。
「場所はアウシューラ帝国、伯爵領に存在する〝緑の迷宮〟内部です」
「これは……一刻も早く国王陛下に伝えなければ……!」
従者は血相を変えて、その場を飛び出していく。
こうしてまた、新たな戦いが始まろうとしているのだった――




