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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
二章

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63話 涙目女勇者とエロフの企み

 迷宮十一層目――


「なるほど、確かに水浸しだな」


 目の前の光景を見て、ユリウス皇子が呟く。

 そして「よし……」と言葉を漏らすと、皆に向かって「少し離れていろ」と指示を出す。


 いったい何をするつもりなのだろうか……?

 誰しもがそんな表情になりつつも、ユリウス皇子から距離を取る。


「よっしゃ、いくぞッ!」


 そんな威勢のいい声とともに、背にしたグレートソードを上段に振りかぶるユリウス皇子。

 そして次の瞬間だった……。


 ゴォォォォォォォォォォ――――ッッ!


 と、凄まじい音を立て、グレートソードが振り抜かれた。


 するとどうだろう、今まで静かに部屋を満たしていた水が、綺麗に縦に割れてしまったではないか。


「ス、スキル……いや、まさか純粋な剣圧で!?」


 レムを始め、誰もが驚いた声を漏らす。


「よし、今のうちに渡りきるぞ!」


 驚く皆をよそに、ユリウス皇子はあっけからんとした様子で、露わになった地面を駆けていくのであった。



 迷宮十二層目――


『キシャァァァァァァァァ!』


 頭上から、モンスターの雄叫びが鳴り響く。

 見れば、体長三メートルほどの翼を持ったドラゴン型モンスターがレムたちを見下ろしている。


 その名も〝ワイバーン〟――鋭利な爪と牙による攻撃を繰り出し、その上飛行能力を持つBランクモンスターだ。


「ちっ、ワイバーンか……」

「飛行型モンスターは厄介なのですぅ」


 ワイバーンを見て、女騎士のペニーとマリエルが漏らす。


「二人とも、ここはぼくに任せてください。来い、《斬空骨剣》ッ!」


 レムがアリシアの《ランクアップ・マジック》で強化された《斬空骨剣》を召喚する。


 得物を構えたレムに、ワイバーンは標的を絞ったようだ。

 そのまま急降下の態勢に入り、レムに向かって攻撃を仕掛けようとしてくる――が……。


「遅い!」


 レムは叫びながら《斬空骨剣》を頭上に向かって振り上げた。

 不可視の斬撃が、急降下するワイバーンへと襲いかかる。


『ギャァァァァァァァァァ――ッッ!?』


 ワイバーンが甲高い叫び声を上げる。


 レムの狙いは的確だった。

 敵の片翼が根元から、スパッ! と切り裂かれ、勢いそのまま墜落していく。

 おびただしい量の血を撒き散らしながら、地面をジタバタと転げ回るワイバーン……。


 レムは容赦しない。

 そのまま《斬空骨剣》を横一文字に振るうと、ワイバーンの首を刎ね飛ばすのだった。


「ん? ちょうど安全地帯があるな……。ユリウス殿下、騎士の皆さんの疲労の色が濃くなってきました。この辺で少し休憩を取りませんか?」

「そうだな……よし、軽く食事をして仮眠をとることにしよう」


 ワイバーンを倒したところで、前方に安全地帯へと通ずる道を発見したレム。

 ユリウス皇子の許可を取り、小休憩を取ることにする。


 早めに四魔族のところにたどり着きたいのは山々だが、騎士隊の皆の表情が優れない。

 ここまでぶっ続けで戦ってきたのだから当然だ。

 万全の状態で先へ進むのであれば、休憩は必須である。


「ふぅ、安全地帯があってくれて助かったぜ」

「流石にここまでの連戦はキツイのである」

「防具の手入れをしなくちゃね」

「ですぅ……」


 休憩できると聞き、ジェシーにラージ、ペニーにマリエルもほっと息をつく。

 やはり疲労が溜まってきていたようだ。



「それじゃあ、何か食事を用意しますね」


 安全地帯に入ったところで、そう言いながらレムがアイテムボックスの中から食材や調理器具を取り出し始める。


 今回は急なクエストだったので、あらかじめ料理を作ってきてはいないので、この場で調理するつもりだ。

 アリシアとアンリと協力し、手際よく料理を作っていく。


 料理が完成に近づくにつれ、なんだかユリウス皇子がソワソワしているような……。


「よし、あとはハンバーグを焼くだけだね――」

「何!? ハンバーグだと!」


 レムが鉄板でハンバーグを焼こうとした時だった。

 ユリウス皇子が、クワッ! と顔を近づけてくる。


「も、もしかしてハンバーグが好きなのですか? ユリウス殿下……」

「ああ、その通りだ、レム! 俺が幼い頃にマイカの母上……桃香(トウカ)様が城にきた時に作ってくれたのを食べたことがあってな。いつかまた食べたいと思っていたんだ!」


 まるで子どものように目を爛々とさせながら、レムの質問に答えるユリウス皇子。

 クールな見た目に似合わず、なかなか食いしんぼうキャラだったようだ。


「そうだったんですね。マイカ、ここまでの道中で作って差し上げればよかったのに……」

「何!? マイカもハンバーグを作れたのか!?」


 レムの言葉に、思わず振り返りながらマイカに尋ねるユリウス皇子。

 どうやら、帝都から迷宮都市までの旅路では、二人とも携帯食しか食べていなかったそうだ。


「…………特にご所望されなかったので……」


 マイカはユリウス皇子と目を合わせずに、素っけなく言うのだった。


(なんかよくない空気だ……)


 レムは瞬時にそれを悟った。


 なんとなくではあるが、ユリウス皇子がマイカに好意を持っているのではないか――

 そして、マイカはそれに気づいているが、彼に興味がないのであんな態度を取っているのではないか――


 レムの中でそんな憶測が立つ。


 とりあえずこの微妙な空気をどうにかせねば。

 レムは咄嗟に「では、ユリウス殿下のハンバーグは二つ用意しますね」と言葉をかけた。

 ユリウス皇子は「……! やったぜ……!」と、コロっと表情を変えるのだった。


 スープにサラダ、ハンバーグなどのメニューが出揃い、一行は食事を始める。


「これだ! この味だ! 感謝するぞ、レム!」


 ハンバーグにかぶりつくユリウス皇子が、満面の笑みになる。

 よほどハンバーグに対して思い入れがあったらしい。

 あっという間に二個のハンバーグを食べ終わってしまった。


「よかったら、ぼくの分もいかがですか?」

「何!? いいのか、レム?」

「ええ、足りなければ追加もできますので」

「感謝する!」


 レムにハンバーグをもらい、ユリウス皇子はまたもやご満悦だ。


「はい、ご主人様、あ〜んです♡」


 ユリウス皇子とのやり取りが終わったのを見計らって、アリシアはレムの横に腰掛けると、彼の口元にフォークでハンバーグを差し出してくる。


「ア、アリシア、流石にここでは恥ずかしいから……」


 レムは拒もうとするが、あっという間に「私も!」と言ってアンリとヤエにも囲まれてしまう。

 そんなレムの元に、マイカが近寄り――


「レム、そろそろ説明してくれない? あなたの力、いったいどうなっているの、アンデッドもそうだけど、《斬空骨剣》の見た目だって変わっているし、威力も桁違いだったわ」


 ――そんな質問をしてくる。


 以前のレムであれば、ワイバーンを倒すのにも一苦労だったはずだ。

 それがAランク冒険者に相応しい実力をつけていたのが、どうしても気になるのだ。


 若干、彼女の額に青筋が浮いているような……。

 多分……というか、確実に目の前でいちゃつかれていることに怒っていらっしゃる。


「マイカ、ぼくの力が強化されたのはアリシアのおかげなんだ」

「ふふっ、わたしとご主人様の愛の力ですっ♡」


 マイカの質問に答えるレム。

 そしてこれみがよしにレムにひっつくアリシア。


 マイカの瞳に、じんわりと涙が浮かび始める。


(あぁ! まずい……!)


 レムは優しい少年だ。

 自分をパーティ追放に追い込んだ張本人とはいえ、女の子を泣かせてしまうのは言語道断だと思っている。


 ひとまずアリシアを離し、自分がパーティを抜けてからの経緯を……ピンクな部分を省いてマイカに説明した。


「あぁ……やっぱり、そのイービルエルフの子と出来てたのね……。侯爵令嬢のヤエさんともそういう話が上がっているのも本当だったなんて……」


 意気消沈といった様子で、声を漏らすマイカ。


 自分の好きだった少年の初めては他の少女のものに――

 そして心までも――


 自業自得な部分が大きい上に、彼女が犯した罪は変わらない。

 だが、それでも大好きだったレムが、自分の手が出せないところにまでいってしまったことにショックが隠せないのだ。


(待ってください。もしかして、これは……♡)


 そんな中、アリシアのアメジストヴァイオレット瞳の中に、小さなピンクのハートが浮かび上がった。


 そして、マイカを連れて安全地帯の隅の方へと移動して、何やらコソコソと言葉を交わし始めたではないか。


(あ、これロクなことにならないやつだ……)


 レムは察するのだった。

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