62話 四魔族の待つ先へ
「それじゃあ皆、よろしく頼む」
「はっ、お供できて光栄です、殿下!」
夕刻――
迷宮の前で、ユリウスの言葉にジェシーが敬礼して応える。
他の騎士、ラージにペニー、マリエルも同様だ。
今回の四魔族の討伐に、ヤエの率いる騎士隊も同行することが決まった。
とはいえ、ヤエ以外は上級以上のスキルを持っていないため、道中の露払いが主な任務となっている。
クルエルとレイナがいないせいか、マイカはどこか所在なさげだ。
先の四魔族ウァラクとの戦闘で、自信をなくしかけているというのも理由の一つだろうか。
「アリシア、シスター、本当についてくるの……?」
「もちろんです、ご主人様!」
「レムくんの役に立ってみせるわ!」
レムは反対したのだが、例のごとくアリシアたちはついてきてしまった。
二人とも折れる様子はないし、危険と判断したら引き返すのを条件に、レムは同行を許可したのだ。
「よし、それじゃあ出発する。皆気を抜くなよ!」
「「「了解!」」」
ユリウス皇子が先頭に立って号令をかけると、皆は引き締まった表情で応える。
さすが、まだ目覚めたばかりとはいえ勇者、そして未来の皇帝と言えるだろう。
◆
「なんだ、四魔族が復活するというから、迷宮内は混沌としていると思ったのだが……ずいぶんと静かだな」
「はい。先日までは迷宮内の様子はおかしかったのですが、ぼくとヤエさんたちである程度モンスターを駆逐したので。恐らく大変なのは十一層目以降かと……」
「十一層目……確か水浸しになっていて進めなくなっているという階層だったな」
迷宮内を肩透かしといった様子で、見回すユリウス皇子に、レムが前回の件を説明する。
前回は階層変化のせいで進むことができなかったが、今回はそれを可能にする力をユリウス皇子が持っているとのことだった。
(それにしても、すごい肝の据わり方だな、ユリウス殿下……)
レムは思う。
ユリウス皇子は、勇者とはいえ今まで城の中で育ってきたはずだ。
体格を見ればよく鍛えられていることはわかるが、いつモンスターが飛び出してくるともわからない迷宮の中に、初めて入ったにしてはどっしりとした構えだ。
ちなみに、彼の装備は蒼銀に輝くグレートソードだ。
色を見るに、恐らく純正のオリハルコンが使われているのだろう。
それを背負い、涼しい表情で歩き回るのだから恐れ入る。
「来い、ハイスケルトンラット……!」
『チュー!』
レムの呼び出しに応え、黒紫の魔法陣の中からハイスケルトンラットが現れる。
レムが言わずともわかっているのだろう、そのまま迷宮の奥へと偵察に向かっていく。
「レム、今のはなんだ?」
「ユリウス殿下、ぼくの使役するアンデッドの一つです。視界を共有することができるので、偵察に使っています」
「ちょっと待って、レム。ハイスケルトンラットってどういうこと? 私のパーティにいた頃と名前が変わっているし、それに視界の共有には死友ノ宝玉が必要だったはずじゃ……」
「マイカ……まぁ、色々あって、ぼくの力は〝少し〟強化されてるんだ」
「ふふっ、少し――ですか? ご主人様♡」
「ア、アリシアみんなの前でくっつくのは……」
ユリウス皇子の質問にレムが答えていると、マイカがさらに疑問を投げかけてくる。
レムは控えめに自分の力が強化されていることを伝えるのだが……。
アリシアはそんなレムに甘い声で寄り添ってくる。
そんな様子を見たマイカが、ムッとした様子でアリシアを睨む。
対し、アリシアは「ふふん」と余裕の笑みを浮かべながら、レムの腕に絡みつく。
(なるほど。こりゃあ、俺の恋路もなかなか大変そうだな……)
そんな中、ユリウス皇子はマイカの様子を見ながら、内心で苦笑するのだった。
「殿下、みんな、モンスターを見つけました。ゴブリンが数体です」
「よし。皆、すまないが俺とマイカは四魔族との戦闘のために体力を温存したい。特にマイカにはスキルを使わせたくないんだ」
「もちろんです、殿下。ここは私たちにお任せを!」
レムの報告に、ユリウス皇子が済まなそうに言うが、最初から皆そのつもりで来ている。
騎士隊を代表し、ヤエが応える。
「しばらくは、ぼくの召喚したアンデッドたちと、ジェシーさんたちにお任せしてしまってもいいですか?」
「もちろんだぜ、レム!」
「任せるのである!」
レムの問いかけに、ジェシーとダニーが笑顔で応え、ペニーとマリエルも大きく頷く。
「来い、ハイスケルトンガードナー、ハイスケルトンたち」
『お呼びいただき、光栄です。マスター♪』
『『『光栄です!』』』
レムがいつもの四体を召喚する。
またもや姿を変化させたアンデッドたちの召喚に、マイカは「――――ッ!?」と目を見開くが、レムは小さく頷くことで説明は後で、と伝える。
「来なさい、《装剣蟲》!」
続いて、これもお約束なった《装剣蟲》をアンリが召喚し、ハイスケルトンたちに装備させる。
今回は戦い方の練習などと言っている余裕はない。
騎士たちと連携させることで、次々と階層を突破していくのであった。




