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5話 永遠の孤独を求めて

「危うくとんでもない目に遭うとこだった……」


 門からだいぶ遠ざかった位置まで駆け抜けたところで、レムが大きな溜め息を吐く。


 あの女騎士、ヤエ――騎士のくせに都市の治安を守るどころか、自ら治安を乱すようなことをするとは思いもよらない。


 まぁ……それも仕方ないかもしれない。

 なにせ、レムの容姿はとびきり愛らしい。

 幻想的な銀髪銀眼も相まって、より儚げな印象を与える。

 背も小柄で線も細い。


 生粋の変態(ショタコン)からしたら垂涎ものであろう。

 まぁ、さすがにビンタ一発でどうこうしてしまうのはレベルが高すぎるというものだが……。


 それはさておき。

 レムは改めて周囲を見回す。


 なんて綺麗な街並みだろうか――

 それがレムの素直な感想だった。


 この都市の名は“迷宮都市”。

 領地を高い外壁に囲まれ都市だ。


 レンガや石造りの家に整理された道。

 更に都市のいたるところに水路が張り巡らされ、水の上をゴンドラがゆうゆうと行き来し、その漕ぎ手によるガイドが観光の名物になっている。


 だが、この都市の一番の特徴は、観光名所などではない。


 では何か?


 それは、都市の名にもある“迷宮”の存在だ。

 この都市の高い外壁は、外敵からの守りはもちろんだが、万一、迷宮のモンスターが氾濫した時の為に、閉じ込めることも目的として造られているのだ。


 いざという時には、危険な場所だが、それでもこの都市は栄えている。

 迷宮に現れるモンスターや、そこで取れる鉱石や薬草の数々が日用品の素材となる。

 それらを手に入れ売りさばこうと、冒険者や商人が至る所から集まるからだ。


 まぁ……そんな情報も、ただ孤独を求めて旅だったレムは知る由も無いのだが……。


「あの建物はなんだろう? やけに大きいな」


 レムの視界の先に、周りの建物よりも一際大きい白塗りの建物が見える。

 なんだか気になり、露天商や武具店の連なる大通りを抜け建物に近づく。


「ここは……〝冒険者ギルド〟か」


 冒険者ギルド――

 モンスター討伐から素材採集に始まり、害獣駆除や秘境探索などの依頼の斡旋。

 果ては、魔王討伐の為の勇者パーティ募集の案内まで取り扱う組織のことだ。


「そういえば、シスターたちはぼくを冒険者にして使い捨てようとしてたんだっけ……」


 冒険者ギルドを見て、レムは半月前のシスター・アンリとネトラ神父のおぞましいやり取りを思い出してしまった。

 その途端、裏切られた事実がレムの心の奥を再び蝕む。


 こぼれ落ちそうになる涙をなんとか抑え込み、レムはギルドの扉へと手をかける。

 いったい何をするつもりなのか……?


 レムはたった今決めた。

 冒険者になることを――


 だが、それはアンリたちの思惑に従うためではない。

 では何のためか……?


 レムは意図的にか潜在的にか〝死に場所〟を求めている。

 冒険者になり、たった一人で戦いに明け暮れれば、いつか死んでしまうだろう。


 死とは永遠の孤独。

 人との繋がりを拒絶するに至ってしまったレムが、それを求めるのはある意味当然のことなのかもしれない。


 頼りない手つきで扉を開ける。

 扉を開けた瞬間、賑わう冒険者たちの姿が目に飛び込んできた。


 見渡せば、いくつものカウンターや掲示板。

 奥は酒場になっているらしく、昼だというのに「エールのお代わりくれぇ!」と樽ジョッキを掲げる者や、「ウェヒヒヒ! いいケツだな、揉ませろよ!」などと言い、注文取りの女性にひっ叩かれる者の姿が確認できる。


 昼から飲んだっくれとは呑気なものだ……。

 そんなことを思いながら、レムは受付と思しきカウンターの方へと足を運ぶ。


「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ! どのようなご用件ですか?」


 いくつかあるカウンターのうちの一つに辿り着くと、カウンター越しに快活な声で少女が声をかけてくる。


 給仕服を可愛らしくアレンジしたかのような制服に身を包んでいる。

 栗色の髪を目の上で切り揃えたショートボブ。

 目は髪と同じ色でクリクリとして可愛らしい印象を受ける。

 歳は十五〜十六歳くらいだろうか。


「はじめまして、ぼくはレムといいます。冒険者の登録がしたいのですが……」

「ご丁寧にありがとうございます。私の名前は〝ネネット〟といいます。よろしくお願いします! それにしても冒険者登録……ですか? クエストの依頼ではなくてですか?」


 自己紹介を忘れずに用件を伝えるレム。

 すると受付嬢――ネネットは、微笑ましいものでも見るような目つきで、自分も自己紹介し返す。

 だが、そこから先は少々疑問顔でレムにもう一度用件を問いかける。


 当然だ。

 レムが霊装騎士であると情報を知らなければ、彼はただの華奢な少年にしか見えない。


 彼自身その辺のことは重々承知している。

 なので、「見た目は非力に見えますが、ぼくは上級スキルをいくつか持ってます。戦いにもある程度慣れてますので大丈夫です」……と説明する。


「嘘だろ!? あんなガキが上級スキルを持ってるだと?」

「ああ、それもいくつか持ってるって言わなかったか?」

「もしそれが本当なら、今のうちに仲良くなっておいた方がいいんじゃねーか?」


 今まで酒盛りをしていた屈強な男たちが、次々に言葉を交わし始める。

 どうせ誰と組むつもりもないし自分には関係ない。

 レムは男たちの会話など聞こえなかったことにして、手続きを先に進めることにする。


「驚きました。まだ小さいのに上級スキルを持ってるなんて……。でも、それが本当なら冒険者を志すのも納得です。冒険者になるのに年齢に関する規則はありませんし、このまま手続きさせてもらいます。まず、ランクについての説明ですが……」


 そう言って、ネネットは冒険者の階級制度――ランクについて説明を始める。


 冒険者には七つのランクが存在する。

 内訳は次の通りだ。


 Eランク=駆け出し冒険者のランク。どんな強者だろうと始めはこのランクから上を目指すことになる。


 Dランク=駆け出しを抜けたランク。それでも一人前には今一歩といった評価がされる。


 Cランク=一人前と認められたランク。このランクになると、名指しでクエストを依頼されることも出てくる。


 Bランク=成功者のランク。一例として、複数の冒険者で挑んで初めて勝利することができるようなモンスターなどを単騎で討伐するなどしてなることができる。


 Aランク=大成者のランク、Bランク冒険者で構成されたパーティが複数で挑んで倒せるようなモンスターを単騎で屠った者、もしくは冒険者を率い、魔族の大群やモンスターの氾濫から都市を防衛した者などに贈られるランクである。


 Sランク=勇者・英雄など、ドラゴンや魔王に対抗する術を持つ者に贈られるランク。多くの者は超級スキルや古代スキルを有している場合が多い。レムの仲間であったマイカも冒険者として登録していればこのランクに至っていたはずだ。


 EXランク=この世界の救世主、大魔導士のみが持つ、神の力を超越せしランク。


「……以上になります。さすがにAランク以上は難しいかもしれませんが、上級スキルを持つレムさんなら、あっという間にBランクになれるかもしれませんね!」

「ありがとうございます。そうなれるように頑張ります。それで、登録はいくらかかりますか?」

「はい、登録料は銀貨一枚になります。……たしかに、それではこれが冒険者の証、Eランクの〝タグ〟です」


 レムが銀貨を払うと、ネネットはカウンターの下から石製のタグを出し、彼に手渡した。


「身分証にもなるので失くさないでくださいね? 失くすと倍の再発行手数料がかかりますから」

「分かりました。それで……さっそくクエスト受けたいのですが、何か手頃なものはありますか?」

「それでしたら、初めての方には必ず受けてもらうことになっているクエストがありまして……迷宮で〝ゴブリン〟三体の討伐です」

「迷宮……この都市には迷宮があるのですか?」

「……? はい、もちろんです! なにせ都市の名前にもなってるくらいですから!」


 都市の名前など知らずにこの地に訪れたレムは、初めてこの都市に迷宮が存在することを知ることになる。

 それを知った直後、ネネットが元気に応えるのとは反対に、レムの表情が暗いものとなる。


(迷宮……。そうか、その手があったか……)


 迷宮はモンスターの巣窟だ。

 階層を潜れば潜るほど強力なモンスターが出現するようになっている。

 要はそういうことだ。


 手続きを済ませると、レムは迷宮へと足を運ぶ。


 永遠の孤独を求めて……。


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