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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
二章

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52話 束の間の休息……?

 公国の王子、アーグリーからの刺客、カーチルによる襲撃があった日から数日が経った日の朝――


「ふふっ、おはよう、レムちゃん」

「…………あの、いい加減にベッドに潜り込むの、やめてもらえませんか、ヤエさん?」


 豪奢なベッドの中で目覚めたレムの目に、少々刺激の強いネグリジェのみを纏ったヤエの姿が飛び込んできた。


 頬はほんのりピンク色に染まっており、瞳も若干潤んでいる。

 なんとも愛らしく、それでいて色気を感じる表情だ。


 ここは侯爵家の客室の一つだ。

 カーチルによる襲撃の件を、レムは予定通り侯爵に報告した。


 侯爵は「あの馬鹿王子! 大切な婿養子になんてことをしてくれる……ッ!」と怒りを露わにした。


(いや、婿養子になった覚えは……)


 と、レムはツッコミを入れようとしたが、今回の件について、侯爵が大公に抗議の書状を送ってくれると聞き、言葉を飲み込んだ。


 その後、侯爵の勧めでレムたちはしばらく侯爵家の屋敷で生活を送ることになった。


 大公に抗議の手紙を送ったとはいえ、それが届くのにはしばらくかかるし、何よりアーグリーが他の刺客を放っているとも限らない。

 本気でレムをヤエの婿にと考えている侯爵は、レムの身の安全を考えて、自分の目の届く所に置くことにしたのだ。


 レムとしてはそのつもりはないのだが……アリシアやアンリが人質目的として狙われる可能性も考え、当面は侯爵家で生活を送ることに同意した。

 侯爵家であれば、公国の刺客であろうとも下手に手出しはできないだろうと……。


 ちなみに、襲撃を行ったカーチル自身は、現在この都市の騎士団の牢の中だ。

 侯爵令嬢の花婿候補であり、さらに男爵位と等しく扱われるAランク冒険者に手を出したのであれば当然である。


「レムちゃん、本当に私に手を出してくれないのか? アリシアには許可を取ってあるし、自分でいうのもなんだが、なかなか見た目はいい方だと思うのだが……」


 ヤエを見た瞬間に、ベッドの隅にササッと逃げたレムに向かって、ヤエが不服そうに問いかける。


 知っての通り、アリシアはヤエとレムが結ばれることに合意している。

 むしろハーレム大歓迎といった様子だ。


 アリシアが自分を大切に思ってくれているが故のことだと、レム自身も理解はしている。

 そして自分の地位が、合法的に一夫多妻が許されるものだということも。


 しかし、だからといってレムがハーレムを受け入れるかといえばそうではない。

 彼自身はハーレムに興味はなく、肌を許すのはアリシアただ一人のみと決めているからだ。


 以前にもそのことはヤエに伝えてある。

 そして今もそのことを伝えた……のだが――


「くくく……大丈夫だ。いくら時間がかかろうとも、必ずレムちゃんをその気にさせてみせるからな!」


 ――と、ヤエは自信ありげに笑う。


 レムは「…………」と無言を貫くことしかできない。


 彼女の気持ちはわかっているつもりだ。


 もともと容姿や性格などを気に入られていて、その上、命の危機にギリギリのところで彼女をゴブリンキングから救い出した……。

 自分が逆の立場であったら、本気で好きになるのは当然のこと。


 幼いながらも、レムはそれなりに物事を客観的に見ることができる少年なのだ。


 そして、ヤエ自身も、レムを運命の人――結婚相手として見るようになったことで、滅多なことでは無理やり襲うようなマネをすることは、最近はない。

 現に、この屋敷で生活し始めてから、毎朝ベッドに潜り込んではくるが、レムに変なことをする様子は見せていない。


 …………少なくとも、レムが目覚めている間は……。


「ご主人様、ヤエさん、お食事の用意ができましたっ」

「今日もいい天気よ、レムくん」


 折れる様子のないヤエに、なんと応えたらいいものかと悩むレムの耳に、そんな声が聞こえてくる。

 見れば扉の前に、いつものミニスカメイド服を纏ったアリシアと、ミニスカ修道服のアンリが立っていた。


 この屋敷に来ても、アリシアの働きっぷりは変わらなかった。

 侯爵家のメイドも顔負けの手際の良さで、彼女持ち前のメイドスキルを発揮しているのだ。


 アンリも、まだぎこちないところはあれど、シスター時代に培った人あたりの良さで、屋敷のメイドたちに馴染んでいる。


「ありがとう、アリシア、シスター。着替えたら行くよ」


 流石に侯爵の前に寝間着のまま出ていくわけにはいかない。

 レムはヤエの肩に、自分の上着をかけてやると、反対の方向を向いて着替えを始める。


 何やら後ろから……。


「レムちゃんの上着っ、それに生着替えだと……!?」


 などと言う声とともに、「スーハー、スーハー……ッ!」と激しく息を吸う音が聞こえてくるのだが……。


 レムは聞かなかったことにした。


 ちなみに、ヤエは「我慢できるかッ!」という言葉を残し、少しの間自室に閉じこもった。



「む、この時間に降りて来たということは、今日もヤエには手を出さなかったのか……パパは残念だぞ?」


 しっかりと小綺麗な格好に着替えたレムが、アリシアとアンリとともに食堂へと訪れると、既に席に着いていた侯爵が残念そうに声をかけてくる。


 侯爵は自身をレムのパパと呼ぶようになってしまった。

 そしてレムにも、パパと呼ぶように強要しているのだが……。


「おはようございます、侯爵様。パパなんて呼びませんよ?」


 とレムは呆れた表情で応えるのみだ。


そんなやりとりを、彼女の妻であるカスミ夫人が、面白そうに「クスクス」と笑っている。

貴婦人らしい、上品な笑い方だ。


「ところでヤエはどうしたのかしら? 一緒に降りてくると思ったのだけど……」

「……何やら用があるようで自室に戻られました。おそらく、しばらく時間がかかるかと……」

「あぁ……そういうこと……」

「難儀な娘だ……」


 カスミ夫人の質問に、なんとも歯切れ悪くレムが答える。

 まさか自分の上着の匂いを嗅ぎながら、興奮した様子で自室に駆け込んでいったなどとは、彼女の母親に向かって言えるはずもない。


 だが、カスミ夫人も侯爵も、なんとなく察したようだ。

 ため息を吐きながら、天井を仰ぐのだった。


「まぁいい、早速食べるとしよう! 魚にこんなに美味い食べ方があるとはな……!」

「ふふっ、そうね、アナタ。レムくんには感謝しないとね」


 嬉しそうに食卓を眺めながら言う侯爵と、それに頷き同意するカスミ夫人。


 純白のテーブルクロスの敷かれた食卓の上には、ムニエルや魚介のスープ……などは並べられてはいない。

 並べられているのは、綺麗に盛られた生魚の切り身や、濁った茶色のスープ、それに白米だ。


「〝刺身〟と〝味噌汁〟……確か地球の食べ方だったか、レムよ?」

「はい、侯爵様。以前行動をともにしていた者たちの中に、地球出身の親を持つ者がいて、この食べ方を教えてもらいました」


 侯爵の質問に頷くレム。


 そう、豪奢な中世ヨーロッパ風の食卓に並んでいるのは、地球――それも日本出身の料理、魚の刺身と味噌汁だった。


 以前行動をともにしていた者……地球出身の両親を持つマイカに、レムはこの料理を教えてもらう機会があった。


 そして、この迷宮都市は海が近く、朝には大量の鮮魚があがる。

 新鮮な魚の刺身は最高だ。

 レムとアリシアは、自分のたちの家で刺身を楽しむことが多かった。


 噂で、侯爵は美食家でもあるとレムは聞いていた。

 なので、試しに刺身という食べ方を教えてみたところ、大変気に入ったのである。


 ちなみに、刺身に使う醤油も、味噌汁に使う味噌も、マイカに作りかたを教えてもらい、アイテムボックスの中に常に常備してある。


 侯爵が白身魚の刺身を口に運ぶ。

 今朝獲れたばかりの魚は歯ごたえがあって、なんとも美味い。


 カスミ夫人も味噌汁を口に運び、笑顔になる。

 今日の味噌汁は魚のアラを使ったアラ汁だ。


 二人が食事に手をつけたのを見て、アリシアが「ご主人様、あ〜んです♡」と刺身をレムの口に運ぶ。


「あっ! ずるいわ、アリシアさん!」


 先を越されたアンリが、少々ムクれながら、自分もとレムに料理を食べさせようと差し出してくる。

 二人に挟まれ、レムが困った表情を浮かべたそんな時だった……。


「んほぉぉぉぉぉぉぉぉ! レムちゃんの匂いたまらないのぉぉぉぉぉぉぉ――ッッ!」


 二階から、ヤエの絶叫が響き渡った。

 どうやらレムの上着を使って、本当に〝アレ〟してしまったらしい……。


「なぁ、レムよ。やはりヤエをもらってはくれぬか……?」

「お断りします」


 侯爵の質問に、レムはキッパリと答えるのだった。


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