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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
二章

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51話 霊装騎士の名を呼ぶ女勇者

「スキルを封印する……ですってぇ……?」

「くっ……なんて厄介な……」


 レイナにマイカは歯軋りをし、クルエルは呆然と立ち尽くしている。

 その様子を満足なそうな笑みを浮かべながら、ウァラクが見つめている。


《シールシールド》――それは四魔族が一柱、ウァラクが持つ固有スキル。

 その効果は、今も彼が言った通り、下級〜上級までのスキルを無効化し、そのスキルを一定期間封印し使えなくしてしまうという効果を持つ。


 マイカたちのように、強力なスキルを多用して戦うタイプの人間にとっては、なんとも相性が悪い相手と言えるだろう。

 そして、この強さ……これで敵――ウァラクが完全に復活を遂げているのだと確信する。


「ふんっ、それならお前が対応できないほどの攻撃を仕掛けるまでよ! 来なさい、聖剣スルト――ッ!」


 マイカが高らかに声を張り上げ、頭上に手のひらを掲げる。

 彼女の声に呼応するように、その手の中に眩いばかりの白銀の輝きを放つ、細身の装飾剣が顕現した。


 聖剣スルト――マイカが先代勇者の一人である母から受け継いだ神聖属性のスキル召喚武具だ。


 神聖属性はあらゆる敵の弱点となる。

 そして魔王や魔族は神聖属性に特に弱い種族だ。


「クルエル、レイナ、隙を見て援護を!」

「り、了解だよ〜!」

「まかせてぇ!」


 その場を飛び出すと同時に、叫ぶマイカ。

 その声でクルエルは再びバトルアックスを握る手に力を込め、レイナも得物である杖を構える。


 相手がスキルを封印する力を持つのであれば、迂闊にスキルを使うことはできない。

 ならばと、マイカは聖剣を召喚し、純粋な剣技で敵の《シールシールド》を掻い潜り、敵にダメージを与えようと考えたのだ。

 そしてその隙を突いて、クルエルたちに追加で攻撃を仕掛けさせるつもりだ。


(レムほど近接戦は得意ではないけれど……やるしかないわ!)


 マイカの戦闘スタイルは中距離から多彩なスキルを使い、敵を翻弄しその中に聖剣による剣技を織り交ぜるというものだ。


 敵が封印できるのは上級スキルまでなので、三人が有する超級スキルを使えば倒すことはできるだろう。

 しかし、三人が持つ超級スキルはそのどれもが広範囲に影響を及ぼすスキルだ。


 そしてここは決して広くはない遺跡の一区画、そんなスキルを使えば崩壊して生き埋めになってしまうだろう。


「ハァァァァァァ――ッッ!」


 マイカが聖剣スルトを上段に構え、振り下ろす。

 流石は勇者の一人だ。

 近接戦が主たる戦闘スタイルではないというのに、その剣速は達人の域に達している。


『回避……する』


 攻撃を仕掛けられたウァラクは静かに呟くと、軽くバックステップすることで聖剣を躱した。


(速い! コイツ、アレだけの魔法スキルを持っていながら近接戦もできるの……!?)


 ウァラクの身のこなしに、マイカは一瞬目を見開く。


 マイカが勇者であれば、ウァラクもまた魔王に仕えし四魔族が一柱。

 通常の魔族とは有するスキルが段違いであれば、身のこなしもそれであってもおかしくはない。

 わかってはいたことだが、いざその実力を目の当たりにすれば驚きもする。


 しかし、それしきで心が折れるマイカではない。

 すぐさま追撃を放つ……ことはせず、その場で自分もバックステップし距離を取る。


 何故なら――


「《エアロソード》……ッ!」


 そんな声が響くとともに、ウァラクのを包囲するように、半透明の魔法剣が出現したからだ。


 このスキルを発動したのはレイナだ。

 上級風属性魔法スキル《エアロソード》――十本の魔法剣を召喚し、敵に向かって斬撃を放つスキルだ。


 その破壊力は上級スキルの名の通り凄まじい。

 触れれば並みのものであれば瞬く間に真っ二つにされてしまうだろう。


 ウァラクを中心に展開した《エアロソード》が、彼に向かって殺到する。


 対しウァラクは――


『《シールシールド》……』


 そう言って、先ほど展開した《シールシールド》を自分の周囲に〝四つ〟展開した。

 そして《シールシールド》はウァラクを中心にその場を高速回転し、十本の《エアロソード》を全て防いでしまったではないか。


「くぅ……私のスキルを封印されたわぁ……!」


 悔しげに声を漏らすレイナ。

 攻撃を防がれたことで、彼女の《エアロソード》までもが封印されてしまったようだ。


(今よ……!)


 だが、マイカは動じなかった。


 鋭く目を細め、そのままウァラクに向かって再び飛び出す。

 そして聖剣スルトを真っ直ぐに構え、渾身の刺突を放つ。


 聖剣スルトが甲高い音を上げる。

 神聖さを感じさせるそれは、まるで福音のようだ。


 ウァラクを守っていた《シールシールド》は、レイナの放った《エアロソード》を防いだことで既に消失している。

 このタイミングであれば、再度の《シールシールド》の召喚は間に合わない。


 マイカは敵の発動したスキルを一度見ただけで、発動タイミングや効果範囲を見抜くことができる。

 そしてこのタイミングを待っていたのだ。


『かかった……な……《シールソード》、発動……』

「な……ッ!?」


 だが――再びマイカが驚愕の声を漏らす。


 敵の手の中に紫色の短剣が出現した。

 そしてマイカの聖剣スルトを防いだ……かと思ったその瞬間、聖剣スルトが消失してしまったではないか。


『《シールシールド》の……〝派生スキル〟……《シールソード》……これも上級までのスキルを、封印……できる』


 何度目かの驚愕を露わにするマイカを見て、薄っすらと笑みをたたえながらウァラクが言う。


 派生スキルとは長年使ってきたスキルが、時を経て発動者や環境に適した形に〝派生〟し生まれたスキルのことである。

 ウァラクの使う《シールシールド》の強力な効果……まさか似たようなスキルをさらに有しているなどとは、マイカは思いもしなかったのだ。


『今度は、こっちから……いく……!』


 右手に《シールソード》、そして左手に《シールシールド》を新たに展開し、ウァラクが切り込んでくる。

 恐らく、《シールシールド》と違い、《シールソード》には殺傷能力があると見た方がいいだろう。


「く……ッ!」


 咄嗟に、マイカは大きくサイドステップすることで《シールソード》を躱す。


 やはり《シールソード》は殺傷能力を持っていたようだ。

 その切っ先が地面に触れた瞬間、バターのように切り裂いてしまった。


「クルエル、レイナ! こうなったらいくつかのスキルを犠牲にして、三人で同時攻撃を仕掛けるわよ!」


 このままでは連携して攻撃を仕掛けていただけでは、スキルを封印され続けるだけだ。

 ならば強引ではあるが、少しのスキルを封印されるのを覚悟の上で、三人同時に攻撃を仕掛け圧倒するべきだとマイカは判断したのだ。


「いくよ! 《グランドプレッシャー!》」

「喰らいなさぁい、《エアロスマッシャー》ァァァァ!」


 すぐ様、クルエルがバトルアックスを振るいスキルを発動する。

 同時に、レイナも杖を掲げ同じくスキルを発動する。


 クルエルが発動した《グランドプレッシャー》は地属性の上級スキルだ。

 一瞬だけ引力を操作し、相手を押し潰すことができる。


 レイナが発動したのはこれもまた上級魔法スキルだ。

 風属性の戦鎚を召喚し、相手に叩きつけ大ダメージを与えることが可能。


 上と横、二箇所からの攻撃に流石のウァラクも焦った表情を浮かべ、新たに四つの《シールシールド》を展開する。


 展開された《シールシールド》によって、クルエルとレイナのスキルが掻き消えてゆく。


「死になさい! 《黒ノ魔槍》ッ!」


 そしてその最中、マイカが父から受け継いだ闇魔法――《黒ノ魔槍》を放つ。


 二人の攻撃を防ぐので精一杯だったウァラクの肩に、漆黒の魔槍が、ドパン――ッッ! と音を立てて突き刺さった。


『ぐ……ぁぁッ!? マナが……生命力が……奪わ、れる……!?』


 闇属性は最強の属性だ。

 スキルの破壊力もさることながら、一度敵に当てることができれば、生命力そのものを奪い去ることができる。


 そしてそれは、例え四魔族であろうとも同じこと。

ウァラクの顔から見る見るうちに生気が抜けていく。


『お前……ただの勇者より、危険……ここで、潰す……。私の命と引き換えに、発動せよ……《シールフィールド》……!』


 地面に向かって崩れ落ちるのと同時に、ウァラクはスキルを発動した。


 彼の体から紫の波動のようなものが迸る。

 波動は広範囲に拡散し、マイカたちを飲み込もうと迫り来る。


「レム! スケルトンガードナーを……ッ――」


 このままではまずい! 危機に瀕したマイカは、咄嗟にここにいるはずのないレムの力を頼ろうと彼の名を呼び……我に返る。


 そしてその瞬間、マイカたちを紫の禍々しい波動が飲み込んだ――

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