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4話 再びの旅立ちと女騎士

 むくりっ……。


 ベッドの上で呆然としていたレムが、数時間ぶりに動きを見せた。

 時間はもう少しで夜明けを迎えると頃といったところ……。


 その間、レムは死人のような表情で、ベッドに腰掛けるのみだった。

 それほどに、死友ノ宝玉に映し出されたシスターアンリとネトラ神父のやり取りは衝撃的だった。


 親しげなやり取りを見るに、恐らく二人は出来ていたのだろう。

 そんな憶測も、レムを虚無感へと誘った原因だ。


「アイテムボックス、オープン……」


 青白い顔で、レムは外套に手を入れ言葉を紡ぐ。

 外套はそれに応え、数時間前と同じように黒い靄のようなものに包まれた。


 外套から手を出すレム。

 その手には羽ペンと羊皮紙が握られていた。

 寝台の横に置いてあるサイドボードに羊皮紙を置き、レムは何やら文字を書き込んでいく。


 そうすること数分。

 レムは書き終わった羊皮紙を何度か読み返すと、マナを込める。

 すると、羊皮紙の文末に紋章のようなものが浮かび上がった。


 魔術印――書状を送る際などに、間違いなく自分からのものだと証明するための紋章のようなものだ。


 魔術印の形は、人それぞれ異なり、同じ形を持つ者は誰一人としていない。

 そして、受取り者が書状の封を開くと印は光を放つようになっている。

 すなわち、偽装などは不可能なのである。


 魔術印が刻まれたのを確認すると、羊皮紙をくるくると丸め、紐で封をする。


「……《眷属召喚》」


 覇気のない声で小さく呟くと、スケルトン・ラットの時と同じように、黒紫の魔法陣がレムの足元に刻まれる。


 魔法陣の中から現れたのは、大型の鳥の骨格を持ったアンデッド――〝スケルトン・クロウ〟だ。


 スケルトン・クロウは、スケルトン・ラットと同じく下級のアンデッドだ。

 これまたスケルトン・ラットと同じく、戦闘力は皆無だが、優れた使い道が存在する。


 レムは羊皮紙をスケルトン・クロウの足にくくりつける。

 それが終わると、死友ノ宝玉を彼の前に差し出した。

 スケルトン・クロウは大口を開けてそれをガッシリと咥え込む。


「いいか、スケルトン・クロウ。その手紙と死友ノ宝玉を、王都の教会本部(・・・・)にいる〝エリス〟様に届けるんだ。羊皮紙には重要な事実が記されている。死友ノ宝玉にはその証拠が記録されている。決して無くすんじゃないぞ?」


 エリスとは、王都にある教会本部に仕える巫女の名だ。

 巫女は教会において絶大な権力を有している。

 そんな彼女と、レムはとあるきっかけで面識を持つことになった。


 レムとエリスの間には深い絆が存在する。

 それは勇者パーティを抜けた今でも変わることはない。

 エリスは純粋無垢な上に、聖人のような人格の持ち主だ。

 ……少なくとも、レム自身はそう思っている。


 そんな彼女がレムからの書状、それに証拠を受け取れば――

 悪行を行っていたネトラとアンリは、厳正に処罰されることだろう。


 自分の想いに対する裏切り行為を許せないのもあるが、それよりも金がありながら教会の子供たちに質素な生活を強いていた事実が許せなかったのだ。


 そんなレムの言葉に、スケルトン・クロウはコクコクと頷く。


 スケルトン・クロウはアンデッド。

 ゆえに疲労するという概念が存在しない。

 王都までは距離があるが、確実に手紙と証拠を届けてくれるだろう。


「さて、行こうかな……」


 窓からスケルトン・クロウが飛び立つとの見届けると、レムは寝巻きから普段の旅衣装に着替えて、静かに部屋を抜け出した。


「さようなら、みんな……。さようなら、シスター……」


 夜明け前の教会を見上げ、そっと決別の言葉を口にする。


 恋心に未練は無い――と言えば嘘になる。

 だが、事の顛末を知った教会に断罪されるアンリの醜い姿を見るのが嫌だった。

 それに、事実を知った今、彼女と接して泣かない自信もなかった。


 だからこそ、誰にも別れを告げず、夜が明ける前に旅立つことにしたのだ。

 冷たい風がレムの頬を撫でる。

 彼の瞳から涙が飛び散ってゆく――





 半月後――


 レムはしばしの航海を終え、とある国の港へと降り立った。

 目的もなければ行先もない彼は、とりあえず誰も自分を知る者のいない異国へと旅立つことにしたのだ。


 レムは孤独を求めていた。

 それほどまでに、シスターたちの行為は彼の心を深く傷つけたのだ。


「都市までは街道を歩いて行くのか……」


 周りを回すと、乗客たちが港沿いの街道を歩いて行く姿が見てとれる。

 そして、その行先を見ると……そこには高い外壁に覆われた大規模な都市が見える。


(都市の名前……なんていったけ? とにかく遠くへ行きたいとしか思ってなかったから、ロクに行先も確認してなかったもんな……)


 感情に任せた適当な行先選びに、レムは少しだけ後悔しつつ、皆に倣って都市の方へと歩いて行く。


 身なりの良い貴族風の人間たちは、馬車に乗って行くようだ。

 それなりの金を持つレムであれば、彼らのように馬車を乗ることも出来たが、どうにも他人と同じ空間にいるのが嫌で歩くことにしたのだ。





 都市の入り口にはかなりの長さの列ができていた。

 どうやら、入市には手続きあるようで、そのやり取りに時間がかかっているようだ。

 待つこと数十分――やっとレムの番が回ってきたのだが……。


「次の者! 前へ――なんだとッ!?」


 ハキハキとした若い女の声が、言う途中で驚愕の色に染まる。

 声の主は、鎧を着込んだ門番の女騎士によるものだ。


 女性にしては背は高め、肌の色は白、黒味を帯びた銀の髪を後ろで結わいている。

 どことなく武士然とした印象を与える凛とした美女だ。


 そんな彼女の髪と同じ黒銀の瞳が大きく見開かれている。

 その視線の先はレムだ。

 彼もいったい何事かと少々驚いた様子だ。


「あの……ぼくがどうかしましたか?」


 恐る恐るといった様子で、門番の女騎士に問いかけるレム。


 すると彼女は……。


「〜〜〜〜っ!! ぎ、銀髪銀眼の可愛らしい男の娘が現れたかと思ったら声まで可愛いだと!? どれだけ私の性癖を心得ているというのだ!?」


 …………などと、いきなり自分の性癖をカミングアウトしやがった。


(うわぁっ!? 変態(ショタコン)だぁぁ!!)


 もちろんレムはドン引きである。

 その場から飛び退き、女騎士から距離を取る。


「あぁ……!? なぜ逃げる! 大丈夫だ、〝ヤエ〟お姉ちゃんに全て任せておけ!」

「何を!?」

「ナニを!!」


 ダメだコイツ、早くなんとかしないと……。

 そんなことを思いながら戦慄するレムに、女騎士は両手の指をワキワキさせながら……。


「さぁ、まずはボディチェックだ! この都市へ入るには体の隅から隅まで触らせてもらうのが決まりだ!!」

「嘘つけ! さっき金を渡して入市するとこ見てたぞ――ってどこ触ろうとしてるんだ!?」


 女騎士――ヤエというらしい――はもっともなことを言って、レムの体を堪能しようとするが、それはすぐに嘘と看破される……が――

 そんなことはお構いなしとばかりに、とんでもない手つきでレムのとんでもないところを握ってこようとする。


 レムは咄嗟に、ヤエの頬をパァン! と叩いて、魔の手から逃れようとする。


 叩かれた直後、彼女は「んひぃぃぃぃ!? 男の娘からのビンタたまらないのぉぉぉぉ!!」……などと、奇声を発する。

 その目は完全にイッてしまっている。


 ビンタされてアレしてしまうとは、とんだ淑女(どヘンタイ)である。


(今だ……!!)


 だが、レムとってはこれ幸い。


 ヤエがとんでもない表情で〝ビクンビクン〟している隙に、レムは彼女の足元に入市料の銀貨を置くと、ダッシュで市内に駆け込むのだった。


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