47話 明かされる暗殺計画
「ご主人様っ!」
「レムくん……っ!」
気絶したカーチルを引きずり、ギルドへとやってきたレム。
彼の姿を見て、アリシアとアンリが駆け寄ってくる。
「あぁ……ご主人様、よくご無事で!」
「どこに行ったかもわからないから心配したのよ!?」
「ちょっ、二人とも――うむぅ……!?」
レムに近寄ったかと思えば、アリシアとアンリは二人でレムを覆うように抱きついた。
身長差のせいで、二人の胸に顔が埋もれる形となったレムがくぐもった声を漏らす。
「なるほど、その男が私に化けていたと思われる人物ですか……」
抱きつかれるレムの耳にそんな声が聞こえる。
レムが二人の胸の中から「ぷはぁっ」と抜け出すと、そこには気絶したカーチルを、ゴミを見るような目で見つめるネネットが立っていた。
アリシアとアンリから事情を聞き、大体の見当をつけていたようだ。
「二人とも、気持ちはありがたいけど、やることがあるからどいてくれないかな?」
「やること……あ、わたしとエッチですね!」
「あ、ずるいですよ、アリシアさん! 私だってレムくんと……」
「おい黙れ」
レムの言葉に、とんでもない答えを見出すアリシアと、それに嫉妬するアンリ。
レムは冷たい目で返すのだが……。
「や、やんっ、ご主人様の冷たい態度……♡」
「ちょ、ちょっといいかも……♡」
……などと、二人揃って頬を染めて太ももをモジモジと擦り合わせるのだから始末に負えない。
ちなみに、ミニスカメイド服とミニスカ修道服を着たアリシアとアンリがそんなことをするものだから、周りの男性冒険者たちは前屈みである。
(どいつもこいつも……)
と、レムは溜息を吐きながら、カーチルの前にそっと屈む。
そして自分の外套の懐に手を入れると、周りにバレないようにアイテムボックスを発動し、とあるマジックアイテムを取り出した。
「レムさん、何ですかそれは?」
「ネネットさん、これは〝真実の雫〟と呼ばれるマジックアイテムです」
「し、真実の雫ッ!?」
レムの答えに、ネネットが目を見開いて大声を上げる。
それを聞いた周囲の冒険者たちが――
「嘘だろ、真実の雫だと!?」
「秘薬中の秘薬じゃないか」
「いくらレムくんがAランク冒険者とはいえ、そんなものを持っているとは……」
――口々に、驚きの声を漏らしている。
マジックアイテム、真実の雫……それは今も冒険者の一人が口にした通り、秘薬中の秘薬である。
一口飲めば他者の質問に対し、自分の意志とは関係なく、真実を話してしまうという恐ろしい効果を持つ。
レムはマイカたちとの救世の旅路で、真実の雫をいくつか入手する機会があった。
そのうちの一つを、レムも所持していたのだ。
手のひらに収まるほどの小さな小瓶に入った、青白い光を放つ液体。
それをカーチルの気道を確保し、飲ませていく。
「よし、飲んだな……さぁ起きろ!」
喉の奥に真実の雫が入っていったのを確認したところで、レムは強烈なビンタをカーチルに見舞う。
何度かビンタを喰らったところで、カーチルが薄っすらと目を開く。
その様子を見て、レムは真実の雫の効果が出ているのを確認する。
「よし、お前が何者か答えろ」
「はい……私の名はカーチル。エルトワ公国の第一王子アーグリー様に仕える執事です」
「エルトワ公国、だと……?」
真実の雫の効果で、虚ろな表情で質問に答えるカーチル。
エルトワ公国、それも第一王子に仕える者……。
その言葉を聞き、レムは眉を顰める。
あまりに大きな人物の名に、ネネットも驚き、大きく目を見開いている。
公国の第一王子の執事ともあろう者が、自分の姿に化け、何かしらの目的でレムを誘い出したともなれば、驚いて当然だ。
考えるよりも聞いた方が早い。
レムはカーチルにさらに質問を続ける。
「答えろ、どうして公国の王子の執事がぼくを殺そうとするんだ?」
と――
「……ッ! やっぱりご主人様は戦闘をしてきたのですね……」
「嫌な予感はしてたけど、本当に命を狙われていたなんて……」
カーチルに対するレムの問いかけを聞いた瞬間、アリシアとアンリはハッと息を飲む。
わざわざ受付嬢に化けてまで、レムを誘い出したのだ。
何か良くないことが起きているのは明らかだった。
いくら無事だったとはいえ、やはり命を狙われていたのだとわかったことに、二人の心臓は止まりそうなほどに跳ね上がった。
「聞いたか?」
「ああ、公国の王子の執事がレムくんを殺そうとしたって聞こえたぜ」
「一体どういうことなんだ?」
驚きの事態に、周りの冒険者たちもヒソヒソと囁き合っている。
そんな中、カーチルは口を開く。
「……王子からの命令です。王子は侯爵家の令嬢であるヤエ様を気に入っておられました。そして貴方が現れたことにより、王子は婚約を破棄されました。王子は恋敵となり得る貴方が邪魔だったのです。だから貴方を暗殺するようにと……」
「暗殺、しかも理由が……」
カーチルの返答を聞き、レムは頭を押さえながら溜息を吐く。
まさか、ヤエとその親である侯爵に気に入られたことで、そんな事態に発展していたとは……。
そして、思い出す。
そういえば、ヤエの婚約者は公国の王子だったな……と。
(ひとまず、侯爵様に相談かな?)
レムはまたもや大きな溜息を吐きながら、考えるのであった。




