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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
二章

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36話 スクロール

「はぁ、酷い目に遭った……」

「ふふっ、お疲れ様です、ご主人様」

「でもビックリしちゃった、まさかお尻叩きだけでヤエさんをあんなにしちゃうなんて……」


 朝食を終え、ようやく侯爵家から解放されたレムが、今朝の出来事を思い出し溜息を吐く。


 そんなレムに、アリシアは優しく微笑みながら労いの言葉をかける。

 アンリはレムにアレされてしまった時のヤエの表情を思い出し、頬を赤らめるのだった。


「ご主人様、ぜひヤエさんにされたことをわたしにも実践して欲しいです♡」

「ア、アリシア!? ま、まぁ考えておくよ……」


 アリシアからのおねだりに、レムは何言ってんだと思うも、そんなことをされた時の彼女の表情を想像し、歯切れ悪く返事をする。


(ず、ずるい! 私だってレムくんにイジメられたいのに……!)


 何やら甘い雰囲気を作り出すレムとアリシアに、アンリは嫉妬心に駆られる。

 どんどん先を越していくアリシアに、本格的に焦りを感じているのだ。


 せっかくレムに口づけを出来るタイミングを得たというのに、それも侯爵の登場によって、台無しにされてしまった。

 もう一度やり直そうにもどうにも気まずいし、レム自身も警戒心を高めているだろう。


(一体どうすればレムくんに振り向いてもらえるの……)


 自身が犯した罪もあり、アンリの思考はどうしてもマイナスの方向に陥りやすくなっていた。

どうすればいいか分からず、途方にくれるのだった。


「よし、この店だね――って、どうしたのシスター? 暗い顔してるよ……?」

「レ、レムくん……! 何でもないわ、それよりもここね? マジックアイテムショップは」


 自分が落ち込んでいることにレムが気づいてくれた――

 愛すべき少年が自分を気にかけてくれる、ただそれだけでアンリの心が満たされる。


 レムたち一行は、商業区のとある店舗の前に来ていた。

 ここは今アンリが言った通り、魔道具の類を扱う店――マジックアイテムショップだ。


 今日の目的はスクロールの購入だ。

 侯爵から戦闘系スキルの購入許可証をもらったレムは、早速店に赴くことにしたのである。


「シスターに合う、戦闘系スキルのスクロールが売ってればいいんだけど……」


店の扉を開けながらレムが呟く。


 今回、レムがヤエを助けた褒美に侯爵にスクロールの購入許可を望んだのは、戦闘系のスキルを持たないアンリに戦う術を与えるためだった。

 アンリが今後も冒険者活動についてくるのは明白だ。


 ヒーラーとしての彼女は状況判断力も高くなかなかに優秀だということは先の大規模クエストで立証された。

 だがしかし、いくら回復が得意でも自分の身を守る術は必要だ。


 アリシアの《ランクアップ・マジック》で強化された《ハイスケルトンガードナー》も強力な守り手ではあるが、それも万能ではない。


 出来れば中距離……あわよくば遠距離系の強力なスキルを与えてくれるスクロールを手に入れたいところだ。


「おやおや、ダークエルフの奴隷、それに奴隷落ちした修道女を連れた幼い少女……珍しいお客様だね」


 店の中に入ると、奥のカウンターから声が聞こえてくる。

 目やれば、そこには白髪混じりの男が朗らかな笑みを浮かべながら座っていた。

 恐らくこの店の店主だろう。


「おはようございます、スクロールを買いたいのですが……ちなみにぼくは男ですよ?」

「おや、男の子だったのかい? あまりに可愛いもんだからてっきり女の子かと思ったよ。まぁ、それよりもどんなスクロールが入り用なんだい……?」


 レムの言葉に、店主は目を丸くしながら用件を聞いてくる。

 何だかガッカリしているようにも見える。

 レムが男だったのがそれほどショックだったのだろうか……。


 そんな店主の表情に、レムは若干イラっとしながらも、戦闘用のスクロールが欲しいと伝える。


「ダメだよ坊ちゃん? 戦闘系のスクロールは危ないから一般のお客さんには売ることは出来ないんだ」

「それならご安心を、ちゃんと許可を頂いてますから……」


 仕方ないといった様子でため息を吐きながら、諭すように言う店主に、レムは書状を取り出し渡す。


「こ、これは許可証だ! しかも侯爵家の紋章までついている!? 幼い見た目で奴隷を二人も連れていたり……一体君は何者なんだい?」

「何者と聞かれても……ただのEランク冒険者ですよ」

「いやいやいや! ただの冒険者が侯爵様から正式な許可証をもらえるわけないだろう! ……いや、待てよ? 銀髪銀眼にその少女の様な容姿……まさか君は今噂になっている、ゴブリンキングを倒した〝英雄〟レムじゃないのか!?」


(え!? ぼくがゴブリンキングを倒したことって、もうそんなに広まっているの!? しかも英雄って……)


 店主の反応を見て、レムは少々驚愕した様子を見せる。


 まぁ、店主の反応も無理はなかろう。

 何せゴブリンキングはAランクに分類される強力なモンスターだ。

 しかもそれが自分の住まう都市の迷宮に誕生したとなれば一大事、都市の存亡にも関わる様な大事件である。

 そして、そんな危険なモンスターを倒した冒険者が現れたとなれば、それはこの都市にとっては英雄も同然、噂は瞬く間に広がるというものだ。


「ふふふっ、ご主人様ったら、すっかり有名人ですね?」

「すごいわレムくん! 育ての親として、とっても誇らしいわ」


 英雄と呼ばれているという事実に赤面しながら、レムは興奮した店主にどんな反応をして良いやらと考えていると、アリシアとアンリが心底嬉しそうな声でレムを褒め称える。


「そうか、やっぱり君が英雄レムだったのか! よくぞこの都市を守ってくれた! 噂では侯爵令嬢のヤエ様の命まで救ったそうじゃないか! いやぁ、英雄に会えて光栄だよ……」

「い、いえ……ぼくはあくまで依頼をこなしただけですから……」

「さすが英雄! 自分の功績を自慢しないその奥ゆかしさも堪らないな!」


 どこまでもレムを誉めたたえようとする店主。

 どうやら有名人に会うとテンションが上がってしまうタイプの人間の様だ。


 レムはゴブリンキングとの戦いはどうだったとか、侯爵からスクロールの購入許可証が出たということは、侯爵にも会ったのではないか、などなど……あれこれ質問責めにされてしまう。


 あたふたしながらも、真面目なレムは律儀に質問に答えてしまう。


 そんなレムの様子を、アリシアは誇らしげな表情で見つめている。

 アンリは自分の育てたレムが、ここまで人に感謝されている事実に、薄っすらと涙を浮かべて感動を覚えるのだった。


「あのっ、そろそろスクロールを購入したいのですが……」

「おっとすまない、つい盛り上がってしまったよ。それで戦闘系と言っても色々な種類があるけど、どんなスキルが良いんだい?」


 ある程度の質問が終わったと思いきや、まだ質問を投げかけようとしてくる店主に、レムは改めて用件を言う。


 店主は頭を掻きながら盛り上がってしまったことを詫び、レムの要望を聞いてくる。


「実はヒーラーの仲間に戦闘スキルを与えようと思ってまして……中距離、もしくは遠距離系のスクロールをお願いします。どんなものが置いてありますか?」

「それならとっておきのやつがあるぞ! 今持って来るからちょっと待っててくれ」


 そう言って、店主は店の奥へと引っ込んで行った。


 アリシアやアンリに、改めて褒められたりチヤホヤされながら待つこと少し、店主が一本のスクロールを大事そうに抱えて持ってきた。


「一応、下級魔法や中級魔法のスクロールも置いてあるんだけど、英勇たる君の仲間が使うと言うのであればこれしかないと思ってね……。これは売り物じゃなくて私のコレクションなんだが、ぜひとも使って欲しい」

「スキル名、《戦蟲召喚》……初めて聞くスキルですね。ランクは……な!? 〝フェイズシフトスキル〟だって!?」


 スクロールを広げ、そこに記された情報を読み取ったレムが驚愕を露わにする。


 フェイズシフトスキル――それはいくつかに分類されるスキルの中でもかなりレアな部類のスキルだ。

 その特性は使用者の技量に合わせてスキルが〝成長〟していくことにある。

 つまり、使用者の適性に合わせた力が使用でき、使用者が成長すればそれとともにスキルも新たに発現していくというわけだ。


戦闘経験がほとんどないアンリにとっては、身の丈にあったスキルを与えてくれるこのスクロールはまさに売ってつけと言えるだろう。


「名前から分かる様に、そのスクロールは戦力を召喚して使役するタイプのスキルだから、精密なコントロールをほとんど必要としない。回復役にはピッタリだと思うよ?」

「素晴らしいです、店主さん。でも良いんですか? コレクションってことは大切な物なのでは……」

「確かに惜しい気もするけど、このままじゃ宝の持ち腐れだし、何より英雄の率いるパーティに使ってもらえるなら私も嬉しいよ」

「そういうことなら、ありがたく使わせてもらいます。……シスター、早速スキルを習得して特訓しよう!」

「わかったわレムくん、精一杯頑張るわ!」

「もちろん、わたしもお付き合いします!」


 やる気いっぱいのアンリとアリシアを連れ、レムは早速アンリの特訓を開始することとするのだった。


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