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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
一章

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32話 宴と侯爵令嬢

「はぁ〜疲れたのですぅ〜!」

「まったく、変異種だらけじゃないか! いったいこの迷宮で何が起こってるってんだ!」


 安全地帯へと足を踏み入れたところで、マリエルとペニーが岩肌の地面にそのまま仰向けに寝転がる。

 いくら正規の訓練を受けた騎士と言えど、こうも連戦が続けば疲労を露わにして当然だろう。


 二人ともビキニアーマーだというのに大股を開いて寝転がるものだから、呼吸にあわせ胸が大きく上下するのはもちろん、脚の付け根まで見えてしまって男性陣としては目のやり場に困ってしまう。


「ふふっ、ご主人様はああいった格好もお好きなのですか? 今度ご奉仕用にわたしもビキニアーマーを用意するのもいいかもしれませんねっ」

「レ、レムくんとアリシアさんってコスプレプレイまでしているの……? ああ、私の知らない間にレムくんがアリシアさんの色に染まっていっちゃう……!」

「ふはははっ! コスプレプレイとはレベルが高い! 初めてをアリシアに奪われていたのはショックだが、将来有望だな。流石は私の旦那様だ!」


 レムがペニーとマリエルの姿をチラチラと見ていたのに気づき、アリシアがご奉仕の時に着る衣装のバリエーションを増やそうと画策する。

 それを聞き、アンリがまたもや言葉とは裏腹に興奮した様子で声を漏らし、ヤエはレムが童貞ではないことに落胆するも、あくまでも自分の旦那の甲斐性として前向きに捉え出す始末だ。


 そんな三人のど変態ぶりに、レムは「もうイヤ……」と肩をガクッとを落とす。


「しっかし、騎士団支給の保存食って不味いんだよなぁ」

「パッサパサで味気ないのである」


 ジェシーとラージがそんなやり取りをかわしながら、小さめのバックパックから小麦色のバーを取り出す。

 色から察するに小麦粉などを練り固め乾燥させた物だろう。


 それを見てレムは――


「もし良かったら、ぼくたちで用意してきたものを食べませんか?」


 そう言いながら外套に手を当てアイテムボックスを展開する。

 レムの周りが黒い靄に包まれたかと思えば、周りに火を起こす為の薪や、肉や魚介、野菜などの食材が現れる。


「すげー! アイテムボックスだ!」

「レム殿はそんなものまで持っていたのであるか!」


 突如現れた食材たちを見て、ジェシーとラージが驚いた様子で声を上げる。


「ぼくがアイテムボックスを持っているのは他言無用でお願いしますね?」


 今回、レムはアイテムボックスを使うかどうか悩んだのだが、同行するのがジェシー達だと分かったので使うことにした。

 この気さくでお人好しな騎士達なら信用できると思ったからだ。


「そういうことなら私達も手伝おう、金属製の網に串があるということはバーベキューにするつもりかレムちゃん?」

「その通りです、ヤエさん。それではアリシアと一緒に食材の切り分けをお願い出来ますか?」


 食材と用意された道具を見て、ヤエが献立を見抜くと、隊長だというのに率先して手伝いを買って出る。


「じゃあ、私はサイドメニューのスープを作るわね」


 アンリはレムの好物である特製のスープを作るつもりのようだ。

 レムに頼んで、鍋と水の入った容器をアイテムボックスから出してもらう。


「じゃあ俺とラージは火の番をするとしようか」

「であるな、不器用故に料理は出来んからな」


 ジェシーとラージは転がっている石などで囲いを作り、薪に火を付ける作業を始める。

 どうやら騎士団ではそういった技術も叩き込まれるようで、二人とも随分と手際がいい。


 ペニーとマリエルは……二人ともまだへばっている。

 ジェシーとラージは傷を負った為に、《ヒール》をアンリに施され体力も回復しているが、ペニー達はそうではない為致し方ないだろう。


 隊員達がそんな状況の中、一番前線で暴れていたにも関わらず、怪我ひとつせずケロリとした様子で作業を進めるヤエは大したものだ。さすが隊長と言える。


「アリシア、それは何を作っているのだ?」

「これは〝ハンバーグ〟という料理です。ご主人様に教えて頂いた異界出身の料理ですっ」


 アリシアが水でよく洗った手で細かく刻んだ肉を捏ねていると、ヤエが不思議そうに聞いてくる。

 アリシアが作っているのは、彼女が言った通りハンバーグだ。


 レムは勇者パーティにいた頃、異界――地球出身の大魔導士である父を持つマイカに地球の料理をいくつか教わっている。

 その内の一つが今作っているハンバーグだ。


 レムはハンバーグの味を気に入り、メイドであるアリシアにもそのレシピを教えていたのだ。

 もちろん、アリシア自身にも芳醇な味わいのハンバーグは大好評だった。


「ふふっ、ご主人様はこねくり回す(・・・・・・)のも得意なんですよ?」

「な、何だと!? アリシア、詳しく教えろ!」

「おいやめろ、変態ども」


 アリシアがウットリした表情でレムのこねくり回し技術を語り出すと、ヤエが息を荒くしながらそれに食いつく。

 レムはゴミを見るような視線でそれを止める。

 レムの蔑むような態度に、アリシアもヤエも二人して「ん……っ!」などと、興奮した様子を見せるのだから、救いようがない。


 熱した網の上で、下味をつけた肉、魚介、野菜、それにハンバーグが香ばしい匂いを放つ。

 肉汁がジュッと音を立てながら燃えた薪の上に落ちていく。

 香りと音で食欲が刺激されたのか、ラージの腹が盛大に鳴る。


 せっかくの料理だ。

 少しであれば問題ないだろうと、レム達はエールや果実酒も用意してきている。

 酒を望む者達にそれを分け与え、ささやかな宴の始まりだ。


「うお! なんだこのハンバーグって料理、柔らかい上に肉汁がすげー出てくるぞ!」

「味付けも最高である! レム殿は良い伴侶を持ったものだ」


 ジェシーとラージが、エールの入った樽ジョッキを片手に、ハンバーグとそれを作ったアリシアを大絶賛する。


「ハンバーグも美味いけど、他の食材もいい味付けだね!」

「手が止まらないのですぅ〜!」


 さっきまでへばっていたペニーとマリエルも、焼いた肉や魚介をパクパクと口に運ぶ。

 どの食材もそれにマッチしたソースや刻んだ香草、塩胡椒などで味付けされているので絶品に仕上がっている。


「まさか迷宮内でこれほどの味を堪能出来るとは……アイテムボックス様々だな」


 ヤエも食材の数々に舌鼓をうちながら、感想を漏らす。

 他の隊員達と比べ、随分と上品に食材を口に運んでいく。

 レムはそのことに気づき、(もしかして良い家の出身なのかな?)などと感想を抱くのだった。


「はいご主人様、あ〜んですよっ」

「ア、アリシア、みんな見てるし恥ずかしいよ……」

「ずるいですアリシアさん! レムくんこっちも食べて?」


 レムの隣にピッタリとくっついたアリシアが、彼の口元にハンバーグを近づける。

 イチャイチャしようとするアリシアを見て焦ったのか、アンリも反対側からスープを飲ませようとスプーンを運ぶ。


「クソっ! クソっ!」

「爆発すればいいのである!」


 美少女エルフと美女シスターに挟まれたハーレム状態のレムを見て、ジェシーとラージが嫉妬のあまり地面に拳を叩きつけながら呪詛を吐く。

 会話も弾み皆いい具合に出来上がってきた頃、レムが騎士達に向けて問いかける。


「みなさんはどうして騎士になったのですか?」


 と――


「俺とラージ、それにペニーとマリエルは騎士の家系の出身なんだ」

「父上や母上達の、人々を守って戦う姿に憧れて騎士になったのである」

「結構キツイ仕事だけど、やり甲斐があっていいもんだよ」

「ですぅ〜」


 ジェシーを皮切りに、ラージにペニー、それにマリエルがうんうんと頷きながら騎士の良さを語り出す。

 皆、自分が騎士であること、それに騎士としての仕事に誇りを持っているのが窺い知れる。

 そんな皆の姿に、勇者パーティにいた頃――世界の為に戦っていた頃の感覚を思い出し、レムの胸がチクリと痛む。


「ヤエさんはどうして騎士になったのですか?」


 レムの表情に影が射したのを感じ取ったアリシアはとっさに機転を利かせて、ヤエへと問いかける。

 するとヤエは「わ、私はだな……」などと言いながら、頬を掻く。

 何やらワケありなのだろうか?


「いいじゃねーか隊長、別に悪いことじゃねーだろ?」

「ですぅ、理由はどうあれ人の役立っているのだから恥じることはないのですぅ〜」


 どうしたものか……そんな様子でいるヤエに、ジェシーとマリエルが話すように促す。

 それを聞き、ヤエは小さく溜息を吐きながら「そうだな……」と言って、自分が騎士になった理由を語り出した。


「実は私は貴族の出身でな、この都市の領主家……〝サクラギ・リューイン〟侯爵家の一人娘なんだ」

「ヤエさんが侯爵家の令嬢……なるほど、道理で立ち振る舞いが上品なわけです」

「ふふっ、レムちゃんに褒められると嬉しいな。さらに話すと、私には〝リラン公国〟の王子と縁談があったのだが……私はその王子が嫌いでな。縁談から逃れる為に騎士団に入ったんだ。騎士団に所属している間は婚姻せずに済むからな」


 そんな理由で騎士として職務を果たす内に、彼女の優秀なスキルや的確な指揮能力を評価され、気づけば異例の速さで隊長の座に登り詰めていた――それがヤエが今、隊長として騎士団で活躍している理由だった。

 政略結婚が嫌で騎士になったことを、彼女は恥じているようだ。


「恥ずかしいことなんてありません! 人は誰でも好きな相手と結ばれるべきだと思います!」

「そうです、人には選択の自由があるのですから……」


 アリシアは自身たっぷりにヤエの選択を肯定し、レムを熱っぽい視線で見つめる。

 アンリはそれを肯定しながらも、かつて自分の立場やネトラ神父の甘言に惑わされ、レムを裏切るような真似をしてしまった後悔の念に駆られる。


 そんな二人の言葉を聞き、ヤエは「ありがとう……」と、どこか寂しげに笑うのだった。


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