31話 騎士達との連携
迷宮二層目――
「隊長、この先にゴブリンの一団を確認したのですぅ。数は二十くらいで弓を持った個体もいたのですぅ!」
斥候役を買って出たマリエルが戻って来ると、ヤエにそのように報告をする。
「弓を持った個体……ということは〝ゴブリンアーチャー〟がいるということか、この階層でこれだけの数の変異種が居るということは、この先はいったい……。まぁいい、どうであれ敵を駆逐するのが我々の目標だ。レムちゃん、ここからは君達も戦線に加わってくれ」
「了解しました、ヤエさん」
マリエルの報告を受け、ヤエがレムに言う。
ここまでレムにアリシア、それにアンリの三人は戦いに参加していなかった。
最大火力を持つであろうレムと、魔法スキルを使えるアリシア、それに回復役のアンリのマナを温存する為の処置だ。
だが、ここに来て多勢のゴブリンの一団を発見し、尚且つ弓を使う変異種も確認されたことでレム達を投入することをヤエは決めたのだ。
「では、まずは私が《セイクリッド・シールド》で先制攻撃を仕掛ける。敵が怯んだ隙にレムちゃんはジェシーたちと一緒に後に続いてくれ」
「分かりましたヤエさん。……アリシア、後方からゴブリンアーチャーを魔法スキルで狙ってくれ、マナの消耗が激しいから《ランクアップ・マジック》は使わなくていい。シスターは指示があるまで待機してて」
「かしこまりました、ご主人様っ」
「わかったわ、レムくん」
ヤエに続いて、レムもアリシアとアンリの二人に指示を出す。
アリシアは自信たっぷりといった様子で頷き。
アンリは少し不安そうな表情で応える。
「では行くぞ!」
算段が整ったところで、ヤエが再び《セイクリッド・シールド》を召喚し、駆け出した。
レムも《霊剛鬼剣》を片手にその後に続く。
『グギャギャッ!?』
通路の陰から、眩い光を灯した《セイクリッド・シールド》を持ったヤエが飛び出して来るのを確認したゴブリンが驚いた声を上げる。
後方に控えたゴブリンアーチャーが、弓を構えてヤエに向かって射ってくる。
「無駄だ!」
飛んでくる弓を、ヤエは《セイクリッド・シールド》を上向きに構え弾く。
そのままゴブリンどもの懐に飛び込み、先頭にいた二体を《セイクリッド・シールド》を横薙ぎに振るい土手っ腹を切り裂く。
《セイクリッド・シールド》の縁は鋭利な形状をしているので、斬撃にも使うことが
出来るのだ。
だが、やはり普段の迷宮のゴブリンどもより頭が切れるようだ。
奇襲だったにも関わらず、ゴブリンどもはすぐさま隊列を整え、応戦しようとする。
「遅いッ!」
そんな声とともに、レムがヤエの後ろから飛び出す。
身の丈以上もある《霊剛鬼剣》を持ち、バッタバッタとゴブリンどもの胴や首を切り飛ばしてゆく。
「へへっ、これは負けてられねーな!」
「レム殿に続くのである!」
レムの豪快な戦いぶりに、ジェシーとラージの闘争本能が突き動かされたようだ。
レムの射程から外れた敵を狙って、剣と拳で着実に駆逐していく。
「喰らいなさい! 《アイシクルランス》ッ!」
後方ではレムに言われた通り、前衛の皆を狙って弓を引きしぼるゴブリンアーチャーに向けて、アリシアが魔法スキルを放つ。
凍てつく氷の魔槍が、次々とゴブリンアーチャーどもの頭や心臓を貫く。
「おら喰らいな!」
「ですぅ!」
ペニーとマリエルも負けてはいない。
二人とも音もなく残りの敵に近づくと、バトルスタッフで頭や骨を砕いていく。
『グギッ……!』
そんな中、倒したかと思われたゴブリンアーチャーが呻き声を上げる。
ガクガクと震えながらも最後の力を振り絞り、レムに向かって矢を放った。
「ご主人様……ッ!」
アリシアが悲鳴を上げる。
だが、その心配は杞憂に終わる――
「ハッ!」
レムが《霊剛鬼剣》を縦に振るう。
すると、彼に向かって来ていた矢が……ゴウッ! と音を立てる剣圧で叩き落とされた。
「来い! 《斬空骨剣》――ッ!」
レムは左手に新たな霊装武具、《斬空骨剣》を召喚し、一気に振り抜く。
不可視に真空の刃がゴブリンアーチャーへと飛来し、バシュッ! 首筋を切り裂き鮮血を迸らせる。
「さすがです、ご主人様!」
「す、すごい。これが霊装騎士の……レムくんの力……!」
アリシアが称賛の声を送り、アンリもレムの実力を目の当たりにし感嘆の声を漏らす。
「すごいぞレムちゃん! 召喚する武器の力だけではなく、レムちゃん自身の戦闘力もここまで高いとは! さすが私の旦那様だ!」
ヤエもレムの力を褒めつつ、勝手に旦那認定までしだすのだが……。
「ありがとうアリシア、シスター、二人とも怪我はない?」
「無視か!? 私のことは無視なのか!? くぅ……っ、そんな辛辣な態度もたまらないぞ!」
――ダメだ。コイツ早くなんとかしないと……。
レムに無視されて、頬を染めながらハァハァするヤエに、レムはドン引きするのだった。
まさか無視されただけでも興奮出来るとは……。
それはさておき。
「大丈夫です、ご主人様。わたしもアンリも無傷です」
「レムくんが召喚してくれた《ハイスケルトンガードナー》が守ってくれたわ」
アリシアもアンリも、その美しい肌に一切の傷は確認できない。
《ハイスケルトンガードナー》が鉄壁の盾となり、ゴブリンアーチャーの放った矢から彼女たちを守り通したのだ。
無論、《ハイスケルトンガードナー》で対処できるであろう攻撃だと判断したからこそ、レムは前衛に集中していたわけではあるが。
「よくやった《ハイスケルトンガードナー》」
『マスターのお褒めに与り光栄です』
レムの言葉に、《ハイスケルトンガードナー》は無表情ながらも、どこか誇らしげな様子だ。
「よし、ここなら〝安全地帯〟も近い。今日はこの辺で休むことにして明日に備えよう」
ヤエが皆に指示を出す。
安全地帯とは迷宮に存在するモンスターが決して立ち入らない場所だ。
どういう理屈でそのような現象が起きているのかは解明されてはいないが、冒険者にとってはこれ幸い。
時間のかかる攻略の際には必ずと言っていいほど使われる場所だ。
「そうですね。出発したのも夕方ですし、今頃は夜も遅い時間ですからね」
ヤエの言葉に、同意するレム。
迷宮において疲労したまま先に進むとなど自殺行為にも等しい、そのことが分かっているのだ。
「その前に、みなさんの傷を癒しますね。《ヒール》!」
アンリが回復魔法スキル、《ヒール》を発動する。
レムやヤエは無傷だが、ジェシーとラージは少々無茶をし過ぎたようだ。
二人とも擦り傷ではあるが、ダメージを負ってしまっている。
「へへっ、助かるぜ、アンリちゃん」
「うむ、某達の隊にはヒーラーはおらぬからな。これでポーションの消費を抑えることが出来るのである」
アンリの放つ癒しの光に包まれると、二人の傷が見る見る内に塞がっていく。
どうやらアンリのマナの保有量も中々のものの様だ。
成人二人を回復させたというのに、アンリに疲労した様子は見られない。
「シスター、無理しちゃダメだからね?」
「レムくん……ありがとう、でも本当に大丈夫よ」
痩せ我慢しているのではないかと、心配したレムが声をかける。
アンリは気にかけてもらえたのが本当に嬉しかった様で、優しい微笑みで彼に応えるのだった。
回復を終えたところで、寝床を確保する為、一行は安全地帯へと向かう。




