30話 騎士の実力
「ふむ、確かに普段と感じる空気が異なるな。やはりこの迷宮で異変が起きているようだ」
「そうですね、ヤエさん。以前来た時よりもモンスターの強い殺気をぼくも感じます」
迷宮へと足を踏み入れたところで、ヤエの言葉にレムも同調する。
迷宮の中、明らかに以前とは異なる強い殺気が漂っていた。
ここにいるモンスターが普段よりも凶悪なものに変わっている証拠だ。
「よし、モンスターの出くわす前に眷属を召喚しよう。来い、《スケルトンガードナー》!」
レムの呼び声に応じて、彼の目の前に召喚陣が出現する。
黒紫の光の中から、先のレイとの戦いで召喚した《アンデッドガードナー》が顕現する。
「ほう、前衛と聞いていたが眷属の召喚も出来るとは、それに召喚スピードも速い。レムちゃんは優秀な霊装騎士なのだな」
レムが行った眷属召喚のスピードに、ヤエは目を丸くしながらそんな風に言葉を漏らす。
ジェシーも「ヒューッ」と口笛を吹いて、称賛する。
「《ランクアップ・マジック》発動っ」
レムが召喚を終えると、アリシアはすぐさま固有スキル《ランクアップ・マジック》を発動。
召喚した《スケルトンガードナー》が淡い輝きに包まれる。
すると――
『お呼びでしょうか、マスター』
「なっ!? 喋った……! それにその姿は……」
レムが驚きの声を上げる。
中級アンデッドであるはずの《スケルトンガードナー》が言葉を話したからだ。
さらに、その姿も大きく変わっていた。
巨大な盾を装備したしたスケルトンは、長身の青白い肌をした美女へと姿を変えていた。
装備した両手の盾も、以前よりも洗礼されたフォルムへと変わっている。
「マスターとこうしてお話出来ることを喜ばしく思います。今の私は位階が上がりました。言うならば《ハイスケルトンガードナー》というところでしょうか、マスターのお役立てるように献身させて頂きます」
《スケルトンガードナー》……否、アリシアの《ランクアップ・マジック》によって、《ハイスケルトンガードナー》となった彼女はそんな風に言葉を紡ぐ。
「驚いた、まさかアリシアのスキルで戦闘力だけじゃなくて容姿まで変わるなんて」
今回初めて眷属のランクアップという方法を試したレムは、驚きを隠せない。
だが、これは好都合だ。
今まで、《スケルトン・ガードナー》はレムが操作し動かしていた。
だが、《ハイスケルトン・ガードナー》となった今なら、ある程度の知性があると見える。
それ即ち、レムが操作しなくても盾役として機能するということだ。
「よし、《ハイスケルトン・ガードナー》。彼女たち……アリシアとシスターを守るように追随しろ。決して彼女たちを傷つけるな」
「かしこまりました、マスター」
レムの言葉に頷きながら、《ハイスケルトン・ガードナー》はアリシアとアンリを守るように配置に着く。
レムが《スケルトン・ガードナー》を呼び出したのは、後衛のアリシアと戦闘力を持たないアンリを敵から守る為だったのだ。
「アリシア、ぼくの魔剣も強化してくれ」
「かしこまりました、ご主人様っ」
レムが霊装武具である《霊剛鬼剣》を召喚しながら言うと、アリシアは再び《ランクアップ・マジック》で強化を施す。
これでレムの準備は万端だ。いつでもモンスターを迎え撃つ事ができる。
「これは……凄まじい力を感じる魔剣だ」
「そうだな、頼りにさせてもらうぜ、レム」
レムの《霊剛鬼剣》を見て、ヤエとジェシーが言う。
アリシアによって強化された《霊剛鬼剣》に秘められた圧倒的なマナ、それを感じ取ったようだ。
「だが、まずは私達の力を見てもらおう。ちょうど敵も現れたようだしな」
ヤエがそう言って、迷宮の通路の奥の方へと目をやる。
するとそこには……。
「ゴブリンが七体、それにゴブリンメイジが三体であるな」
ラージの言った通り、現れたのは通常のゴブリンと、ゴブリンの変異種であるゴブリンメイジだった。
武器は短剣が三体、槍が四体、ゴブリンメイジはどれも杖を構えている。
『グギャッ!』
先頭の槍を持ったゴブリンが、レム達を見つけると声を出す。
すると他の個体もそれぞれ臨戦態勢へと移行する。
隊列を組むつもりらしい。
どうやら普通のゴブリン種よりも頭が切れるようだ。
これが、冒険者達が敗北を喫した理由だろう。
「来い、《セイクリッド・シールド》――ッ!」
ヤエが高らかに叫ぶ。
すると彼女の目の前の空間に、眩い銀色の光が……。
光は輝きを増し、なにやら形を成してゆく。
「これは……ぼくと同じ武具召喚系のスキルか……」
レムが呟く。
彼の予想は当たりだ。
ヤエのスキルは防御系の上級スキル、《聖盾召喚》だ。
効果は中級までのあらゆる攻撃を完全に防ぎ、召喚者自身にも絶大な防御力を授けるというものだ。
ガシッッ!
《セイクリッド・シールド》を手に掴み、ヤエが構える。
――このまま迎え撃つ気か……?
レムがそう思った瞬間だった。
「うおぉぉぉぉぉ――ッッ!」
そんな咆哮とともに、ヤエが飛び出した。
隊列を組むゴブリンどものど真ん中に一直線に突っ込んでいく。
『グギャッ!?』
まさかそのような行動に出ると思わなかったのか、ゴブリンどもが驚きを露わにする。
だが、すぐさま後方に控えたゴブリンメイジがスキルを発動。
下級の炎属性魔法、《ファイアーボール》を放ってくる。
ドゴォォォンッッ!
轟音が鳴り響く。
ヤエの《セイクリッド・シールド》と《ファイアーボール》が衝突した音だ。
だが、ヤエは止まらない。
爆発など物ともせず、むしろ更なる加速をしてゴブリンどもに突っ込んでいく。
ドゴッ! という音を立て、《セイクリッド・シールド》によるチャージアタックを先頭の三体に当てる。
三体とも槍で応戦しようとしたが、それは無駄だった。
ヤエは止まらない。
そのままゴブリン三体を壁際まで轢き飛ばし――
グチャッ! バキッ!
そんな音とともに、壁と《セイクリッド・シールド》で押し潰し、圧殺してしまった。
なんと豪快な……だが、シンプル故に強い。
そんなヤエの背中に向かって、残りのゴブリンどもが襲いかかろうとするが……。
「へっ、させるかよ!」
「行くのである!」
そう言ってジェシーとラージが飛び出す。
狙うのは残りの槍と短剣を持った個体だ。
ジェシーが横薙ぎに剣を振るい、ゴブリンの頭を切り飛ばす。
ラージは鋭利なガントレットに包まれた手刀によって、残りのゴブリンの心臓を貫いた。
残りはゴブリンメイジだが……。
「はっ、変異種って言っても接近しちまえばこっちのもんさ」
「ですぅ〜! 撲殺ですぅ〜っ!」
そう言って、ビキニアーマーだからこそ出せるスピードを活かして接近し、バトルスタッフを振り抜いたペニーとマリエルによって、頭蓋を叩き割られてしまう。
(なるほど、よく鍛えられて連携も取れた良いチームだな)
ヤエが率いる騎士隊の実力を目の当たりにし、レムは思うのだった。




