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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
一章

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26話 贖罪……?

「お知り合い、ですか?」


 レムを見つめるアンリ、そして目を見開き事態が理解できていないといった様子のレムを見て、グウェンが問いかける。


「彼女は……ぼくの育ての親です……」

「それは……なんと申し上げて良いやら」


 どうにか、と言った感じでグウェンの問いかけに答えるレム。

 客の身内を自分の店で売っていた事実に、グウェンは気まずそうに言葉を漏らす。


「ひっ……!?」


 そんな中、檻に閉じ込められたアンリが、小さな悲鳴のようなものを上げる。

 その視線はレムの背後へと注がれている。


 いったい何事かと振り返るレムとグウェン。

 するとそこには――アメジストヴァイオレットの美しい瞳を細め、まるで能面のような表情をしたアリシアが立っていた。


「シスター……そうですか、この女がご主人様を利用し、裏切ったゴミクズですか」


 底冷えするような声でアリシアが言葉を紡ぐ。

 レムを慰めた夜、アリシアは愛する主人を傷つけたアンリをいつか殺すと心に決めた。

 そんな相手が、まさかこのような形で現れることになるとは……。

 アリシアの心が憎しみで支配される。


「落ち着いて、アリシア。ぼくは大丈夫だから」

「ご主人様……」


 今にも爆発しそうな殺気を放つアリシアに、レムはもの悲しげな笑顔で彼女の手を握る。

 自分の気持ちを踏みにじった相手を前にして尚も優しさを見せるレムに、アリシアは殺気を収める他なかった。


 そんなやりとりを見て、アンリは檻の中で顔を伏せ黙り込む。

 利用し、裏切ったゴミクズ……。

 アリシアのその言葉を聞いて、何も言えなくなってしまったというところだろうか。


「グウェンさん、お願いがあるのですが――」


 沈黙の中、レムが静かにグウェンへと話しかける。





「本当によろしかったのですか、ご主人様?」

「ああ……」


 家へと帰って来たレムとアリシア。

 レムは疲れた様子で椅子に腰掛ける。

 アリシアはいつでもレムの世話を出来るように、その横に立つ。


 そんな二人の前に、気まずげな表情で立ちつくす修道服の奴隷が一人……もちろんアンリだ。


 レムはグウェンに言って、アンリを買い取った。

 アンリは美人な上に、体つきもいい。

 そして何より、元修道女だったというのがマニアに受けるらしく、金貨五十枚を超える額になったが、勇者パーティ時代に手に入れた報酬で、なんと支払うことが出来た。

 レムはどうしてもアンリを手に入れるべきだと思ったのだ。


 その理由とは――


「シスター、これを」

「レ、レムくん、これは……」

「ある程度まとまった金が入っている。それを持ってどこかへ消えてくれ。隷属の魔法も解除する」

「……ッ」



 レムがアンリに手渡したのは金の入った革袋だった。

 そして彼が言った瞬間、彼の左の手の甲に刻まれた隷属の紋章が消え失せた。

 主人が望めば、奴隷契約はいつでも解除可能なのだ。


「ご主人様……」


 悲痛な顔でアリシアがレムの名を口にする。

 彼の考えを理解したからだ。


 自分のことを利用し、裏切ったとは言え、それでも彼にとってはアンリは育ての親であり初恋の相手……。

 そんな彼女が、奴隷として人生を送るという事実に耐えられなかったのだ。


 だが、レムがアンリを憎んでいるのもまた事実。

 なので奴隷契約を解除し、二度と自分の前に現れるなと言ったのだ。

 渡した金は当面の生活費という名の手切れ金のつもりだろう。


「……ッ!? これは――ッ」


 だが次の瞬間、レムの身に予想もできないことが起きた。


 彼の左手の甲が輝きを放ち始めたのだ。

 そして同時に、アンリの隷属の首輪も同じ色の輝くを放つ。

 やがて輝きが収まると――そこには先程消えたはずの隷属の紋章が再び刻まれていた。


「あなた、どういうつもりですか……?」


 奴隷市場の時と同じように、聞いた者を底冷えさせる声でアリシアがアンリを睨みつける。

 アンリは恐怖で震えながらも、こう答えた……。


「レ、レムくん……いえ、レム様の奴隷として、お、お仕えさせて、く、ださい」


 つっかえながらも振り絞るように言葉を紡ぐアンリ。

 それが彼女の望みだった。

 隷属の首輪は、装着者が隷属を望んだ場合、自動的に主従契約を刻む効果も持っている。

 アンリがレムへの隷属を心から望んだため、その効果を発揮したのだ。


「この女……ッ! いったいどういう――」

「落ち着いて、アリシア。……シスターいったいどういうつもり?」


 とうとう怒りを露わにするアリシアをレムは制する。

 困惑しながらもアンリへと問いかける。


「私はレム様を利用し、裏切りました。だからその罪滅ぼしをさせてください……」


 そう言いながら、アンリはその場に跪く。

 その様子に、レムは更に困惑する。

 しばらく前、死友ノ宝玉に映し出された、ネトラ神父と会話を交わしていた彼女と今の彼女とではあまりに差があり過ぎたからだ。

 あれが本当の彼女の姿だとしたら、喜んで渡された金を持って、この場を去っていたはずだ。


「シスター、ぼくのことをどう思ってた?」

「……ッ! う、薄汚い孤児だと思ってました。霊装騎士の力に目覚めた時は、さ、最高の金ヅルになると感じました……。自分の子供だと思ったことなんて、一度も、ありま、せん……」

「…………ッ」


 あまりにおかしいと思い、レムが問いかけると……返ってきたのはそんな答えだった。

 分かっていたこととはいえ、面と向かって言れたことで、レムは無言で瞳に涙を浮かべる。

 やはり、自分の初恋の相手はこのような人間だったのだと――


「ご主人様。この女、嘘をついています」

「……ッ!」

「ど、どういうこと、アリシア!?」


 絶望したレム。

 そして黙り込むアンリ。

 そんな中、アリシアがそんなことを言い出す。


 アンリは伏せていた顔を上げて目を見開き、レムはいったいどういうことだとアリシアに問いかける。


「エルフの勘は鋭いのです。ある程度であれば相手が嘘をついているかどうかを見抜くことができます。そしてこの女からは嘘の臭いがプンプンします。ここは隷属魔法の力を使って真意を聞き出すべきかと」

「そ、そんな……! 私は嘘なんて言ってない! レムくんやめて!」

「…………〝命令する。シスター、本当のことを言うんだ〟」


 アリシアの言葉に、顔を青ざめて抵抗を示すアンリ。

 レムは逡巡の末に隷属魔法を発動した。

 どうしても、彼女の真意が気になったのだ。


「くぅ……やめて! やめてくだ――」


 隷属魔法に抗おうとするアンリ。

 だが、それは無駄だ。

 奴隷はどんなことがあろうと主人の命令には逆らえない。

 虚ろな瞳で、自分の心の内を語り始める。


「私にとって、レムくんは本当の子供同然です。孤児院で暮らす子供たちの誰よりも愛していました。汚いなんて思ったことは一度もありません」

「シス……ター……?」


 アンリの告白に、またもや困惑するレム。

 ネトラとの会話とは真逆のことを言っている。

 では、あれこそが嘘だったということなのか?

 そんな疑問を覚える。


「それだけではありません。いつしか、私はレムくんを異性として意識するようになりました。許されるなら私の初めてを捧げたいとさえ思っています」

「…………は?」


 続けての告白に、レムは今度は間抜けな声を漏らす。

 何やらアリシアは後ろの方で「Oh……」などと、ため息をついている。


(あれ……? でもシスターは神父と出来てたんじゃ……)


 その辺りが気になったので答えるように命令すると――


「ありえません、あの汚い男と交わるなんて死んでも御免です。私が欲しいのレムくんだけです」


 そんな答えが返ってきた。


「……じゃあ聞くけど、なんで孤児院のみんなはあんなに質素な生活を未だに送っていたの?」

「それは……神父と私が報酬を酒や遊びに使っていたからです。神父の甘言に目が眩んでしまいました……。そして、それが教会にバレて、私と神父は奴隷に落ちました」

「……なるほど」


 アンリの告白の数々に、少し彼女への信頼を取り戻しつつあったレムも、それを聞き落胆する。

 結局、子供たちに質素な生活を強いていたのは私利私欲のためだったのいうのは事実だったのだと――

 そして、それはレムに対しての裏切り行為でもある。

 いくら愛されていようと利用していた事実は変わらない。


「あと気になることは……」

「ご主人様、この女がなぜご主人様に仕えたいのか理由を聞いてはどうでしょう?」

「ああ、そうだね。ありがとうアリシア。……そういうわけだ、答えてシスター」

「レムくんを裏切った罪滅ぼしがしたかったからです。愛するレムくんに嫌われたまま仕えることが贖罪になると判断して先ほどは嘘をつきました。……もっと言えば、怒りのあまり、レムくんに殺してもらえるかもとも考えました……」


 レムは黙り込む。

 利用し、裏切ったことに対してもアンリは罪を認め罰を求めていることが分かった。

 更に聞けば、知らない誰かの奴隷として働き、汚されることさえも自分の罰となるので受け入れるつもりでいたことが分かった。

 そんな時にレムが現れ、買い取ってもらった時には贖罪の仕方を決めていたそうだ。


「もういい、命令を解除する」

「うぅ……ごめんなさい、レムくん……」


 命令を解除されたアンリが、力なくその場に崩れる。

 脱力しながらもレムに向かって頭を下ろし、改めて謝罪を口にする。


「ご主人様、今日はお疲れでしょうから、彼女の処分は明日に回して今日のところは休みましょう」

「アリシア……そうだね。シスター、部屋が一つ空いてるから今日のところはそこで寝てもらうね」

「はい……レムくん」


 アリシアに連れられ、アンリが二階の寝室へと上がっていく。

 疲れた様子で、レムはそれは見送るのだった。





「ああ……神よ、贖罪にしてもこれはあんまりです」


 その日の深夜――

 アンリは寝室のベッドの上で神に恨み言を吐いていた。


 となりの部屋からはレムを甘やかし、慰めるアリシアの甘い声が聞こえてきた。

 レムはそれに赤子のように甘えている様子だ。

 それだけ自分は愛するレムを傷つけてしまったのだ。

 そんな思いがアンリの胸を締め付ける。


 そして、どんな経緯があったかは分からないが、レムには自分ではなく、あんなにも美しく愛らしいエルフの少女という相手が出来ていたこともショックだった。

 だが、ここまでなら贖罪として受け入れることが出来た。


 問題は――


「うぅ……こんなの耐えられません……!」


 涙を流し嗚咽を漏らすアンリ。


 数十分前から、隣の部屋からはレムとアリシアの嬌声と、ギシギシという振動が伝わってくるのだ。


 どうやら、慰められている内にレムのベヒーモスに火が点いたようだ。

 とても激しい。


 愛するレムの初めてがもう奪われていた……。

 そんな事実がアンリの胸に突き刺さる。

 これこそが、彼女に対する一番の贖罪なのかもしれない……。


「でもなんで……? レムくんがアリシアさんに取られたと思うと……なんだかドキドキしてきちゃう――」


 ……どうやら目覚めたらしい。


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