24話 勇者の想いとエルフの誘惑
要塞都市ガリウスから数十キロ先のとある大森林――
『グォォォォッッ!』
大気を震わせるほどの咆哮が響き渡る。
咆哮の主はドラゴン族の下級モンスター、レッサードラゴンだ。
下級とはいえ、ランクで表せばAランクという非常に危険なモンスターだ。
そんなモンスターが一、二、三……恐らく二十体以上いるのが確認出来る。
そんなレッサードラゴン達の目の前には、三人の少女が立ち尽くしていた。
「くっ……なんて数なの! レイナ、どうしてコイツらの接近に気づかなかったの!」
「無理言わないでよぉ、私の索敵魔法はドラゴン族の持つドラゴンスキンには反応しないんだもの」
「それに、いつも索敵はレムきゅんがスケルトンラットと死友ノ宝玉でやってたし……」
言い争う三人の少女――少し前、レムをパーティから追放したマイカにレイナ、それにクルエルだ。
三人はこの森に魔族が巣食っているという情報を得て、討伐にやってきた。
そして、魔族を討伐した帰り道に、今も唸り声を上げるレッサードラゴン達に遭遇してしまったのだ。
「く……ッ」
マイカが歯ぎしりする。
彼女の心はレムを追放してからというもの、自業自得ではあるがぽっかりと穴が空いていたような状態になっていた。
そんな中でも救世の旅は続く。
だが、旅路の中でもレムがいないことによって不具合が生じるようになってきた。
愛らしいレムはパーティの癒しとなっていた。
夜の火の番も彼が積極的にやってくれたお陰でマイカたちは疲労を少なくすることが出来た。
レムが作る料理は彼女たちの楽しみの一つだった。
そして何より、マイカたち三人はレムのことを性奴隷にしたいほどに惹かれていた。
そんな彼がパーティを抜けたことで、皆の士気は下がっていた。
そして今日になり、レムがいないことで自分たちは危機に陥っている――その事実にマイカは憤りを感じたのだ。
「撤退よ! この数を相手にするのは今の私達には無理だわ!」
マイカは撤退を指示する。
「わかった……」
「うぅ……レムきゅんがいれば……」
レムがいれば――彼の召喚するスケルトンガードナーを囮にして、マイカ達はレッサードラゴンどもを各個撃破することも可能だっただろう。
マイカは薄々気づいていたことを、ここに来て確信する。
レムは足手まといなんかではなかった、そんな事実に――
考えてみてば、索敵はいつもレムの仕事だった。
マイカ達のように強力な敵を一撃で倒す力はなくとも、パーティの囮や盾役として大事な立ち回もをしていてくれた。
(レム……)
迫りくるレッサードラゴンから逃げながら、マイカは彼の名を胸中で呟く。
自分はプライドが高い。
そのせいで、彼に歪んだ愛情表現でしか好意を伝えることが出来なかった。
もう少し素直に好意を伝えられていれば、結果は変わったのだろうか……。
そんな思いが、彼女の頭の中でグルグルと回る――
◆
レムがアリシアと出会ってひと月が経過した。
あれから二人は迷宮や秘境に赴き数々の冒険をこなして……はおらず、淫蕩という文字がピッタリの日々を暮らしていた。
まず、レムはアリシアの為にもずっと宿屋暮らしのままではいけないと判断し、一軒の借家を借りることにした。
少々古いが中々良い物件だった。
家は二階建てで、一階はダイニングキッチン。
二階には寝室が二つある。
当然ながら、寝室は片方しか使われてない。
寝室のベッドはキングサイズのものを購入した。
これならどんなに激しくても大丈夫だ。
更にベッドの上にはどこから仕入れたのか両面に〝YES〟と書かれた枕が置かれている。
いかにアリシアの〝夜戦〟への意識が高いのかが窺える。
お陰で毎日がベッドでファンタジーだ。
それはさておき。
この家にはそれなりの広さの庭がある。
そしてその庭には簡素な露天風呂がついていた。
この都市の水道技術は高い。
水はいくらでも使うことが出来るし、アリシアの魔法スキルを使えば湯を沸かすことも簡単だ。
不動産屋の話によると、この露天風呂は大分前の宿主が備え付けたものらしい。
簡素な木製の囲いがついているので外から見られる心配もない。
現に今も――
「ふふっ、良いお湯ですね。ご主人様っ」
「う、うん……」
湯船に浸かりながら、同じく湯船に浸かるレムに向かってアリシアが優しい笑顔で笑いかける。
一糸纏わぬ彼女のメロンが湯船に浮かぶ様を見て、レムは目を見張りながら答える。
何度か見た光景だが、今になっても感動を覚える。
時刻は朝だ。
彼らは今日も朝から性の祭典を催し、その汗を流す為に風呂に入ることにしたのだ。
「少しのぼせてきちゃいました。ご主人様、わたしは先に上がって朝ごはんの支度をしていますから、ゆっくりしていてくださいね?」
アリシアはそう言いながら、レムを愛おしげに胸の中に抱擁すると、彼の額にチュッ――と軽い口づけをする。
湯船を上がり体を拭くアリシア。
彼女の薄い褐色の肌が湯に濡れたことで艶かしい輝きを放つ。
相変わらずプロポーションも抜群だ。
さっきハッスルしたばかりだというのに、レムのベヒーモスが再びベヒーモスにしそうになるがなんとか耐える。
「はぁ、困ったな……」
アリシアがバスローブ姿でその場を後にしたのを確認したところで、レムは深々と溜息を吐く。
彼はとある理由で困っていた。
それはこのひと月の間、一度も冒険者として働けていないことが原因だ。
これだけ戦いから遠のけば戦いの勘が鈍ってしまう。
金の方は勇者パーティにいた頃に得た報酬もあり、数年分の余裕はあるが、いつまでも働かないわけにはいかない。
だというのに、アリシアはレムが働こうとすると自分の魅力的な体で彼を誘惑し、それを邪魔するのだ。
レムもレムで、それに毎回屈してしまうので問題ではあるのだが……。
いったいアリシアは何故そんなことをするのか?
その辺りを聞こうとしても、毎回優しい抱擁で誤魔化されてしまう。
「よし、今日こそは問い質すぞ。それで冒険者活動を再開するんだ!」
レムは自分の頬を叩き気合いを入れるとザバァッ! と湯船から上がる。
しっかりと体を拭き、部屋着へと着替えると玄関の扉をバーン! と開け放つ。
「アリシア、話が――なん……だとッ!?」
「あ、お早いお上がりですね、ご主人っ」
話がある……そう言おうとしたところで、レムの瞳が驚愕に見開かれる。
そんなレムなど御構いなしに、アリシアは彼に向かって笑顔向ける。
彼女の格好にレムの目は奪われている。
なんという事でしょう。普段はミニスカメイド服の奴隷エルフが、今は裸エプロンの新妻エルフに大変身しているではなありませんか。
「ふふっ、今日はお米にしますか? パンにしますか? それとも……」
そんなセリフを言いながらアリシアは屈んで胸の谷間を強調する、かと思えば……。
「わ・た・し?」
流れるような動作で、タダでさえ短かったエプロンの裾を上げ、誘うような表情を浮かべる。
レムは今朝も誘惑に屈するのだった。




