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1話 決別と再会

 ひと月後――


(はぁ……これでよかったのかなぁ……?)


 これで何度目だろうか。

 馬車に揺られながら、レムは心の中で呟いた。

 思い返すのはひと月前の夜のことだ……。





「レム、早くしなさい? 私は気が短いの、知ってるでしょう?」


 ブーツに包まれた脚を差し出しながら、マイカがレムに行動を急かす。


(舐めろだって……? そんなことしたら本当に奴隷じゃないか!)


 マイカのあまりの言い様に、内心憤慨する。


(けど、それを受け入れなければ、ぼくはパーティを追放される……)


 レムは葛藤する。

 奴隷のような真似なんて決してしたくはない。

 その上、彼女たちに奉仕(・・)を強いられることを考えれば……。


 だが、レムにはパーティを抜けたくない理由がある。

 その理由――遠くの地で待ってくれているはずの、とある人(・・・・)のために旅だったレムからすれば、パーティを抜けて一人で帰る事など許されないのだ。


「ふふっ……」


 マイカが小さく笑い声を漏らす。

 レイナとクルエルもクスクスと嘲るように笑う。


 暗い表情でレムが跪いたからだ。

 そのままレムは、マイカのブーツに手をかけると、ゆっくりゆっくり……結ばれた紐を解いてゆく。


「優しく脱がせなさい、力を込め過ぎちゃダメよ?」


 紐を解き終わったところで、マイカが目を細めながら言う。

 レムはそれに従い、彼女の脚を痛めないようにブーツを脱がせる。


 現れたのは白のニーソックスに包まれたスラッと伸びた脚だ。

 足の大きさも小さい、数々の強力なモンスターを屠ってきたとは思えなほどだ。


「くすっ、舐めたかったらニーソの上から舐めてもいいのよ?」

「あはははぁ! ニーソの上から舐めたいなんて、レム君のへんたぁ〜い!」


 クルエルが大声で笑う。

 レイナも腹を抱えながらクツクツと笑いを堪えている。


 当のレムは黙って作業を続ける。

 反論したところで、さらにからかわれる事が分かっているからだ。


 ニーソをスルスルと脱がしていくのだが……。


「ん……っ」


 などと、マイカが艶かしい声をあげ、太ももをもじもじさせるものだから、思うように脱がす事が出来ない。

 その上、彼女が太ももを擦り合わせる旅に、白の下着が見え隠れするものだから、レムは気が気ではない。


「いい子ね……。そのまま舐めなさい」


 ニーソを脱がし、あとは舐めるだけになってしまった。


 マイカの足に顔を近づけるレムの頬が少しだけ染まる。

 意外にも、足という箇所はフェロモンを放つ箇所である。

 彼女のフェロモンに、レムは幼いながらもクラっときてしまったのだ。


「うわぁ……」

「これは、ちょっとマズイ絵面ねぇ……」


 年上少女の足に顔を近づけ、頬を染める幼い少年……。

 なんとも犯罪的な光景に、クルエルとレイナはからかうことを忘れて、声を漏らす。


 二人ともレムのように頬がピンクに染まっている。

 どうやら本格的に興奮してきてしまったようだ。


「ごめん、やっぱりぼく、パーティを抜けるよ……」

「え…………?」


 あとは少しだけ舌を伸ばすだけ。

 そんな状況の中、レムが紡いだ言葉に、マイカが間抜けな声を漏らす。

 レイナとクルエルも意味がわからないといった表情を浮かべている。


「あっそ、じゃあ出て行きなさい――」


 そんな中、ようやくレムの言ったことを理解したらしいマイカが、言葉を発する。


 静かな口調、冷静な顔つき……。

 だが、その顔は先ほどまでとは比べものにならないほどに赤面している。


 レムが下したパーティを抜けるという決断――

 それはつまり、マイカに対し、そういった行為は出来ないという拒否の言葉だ。


 女として拒否された……。

 その事実に、マイカは怒り、そして羞恥に支配された。

 それゆえの赤面だ。


「な……!? マイカ、それでいいのぉ!?」

「そうだよ! ゆくゆくはレム君と〝ズッコンバッ婚〟する予定じゃ――」

「黙りなさいッッ!!」


 レイナとクルエルの言葉に、マイカは激高の声を上げる。


「レム、今日中に出て行きなさい! アンタなんか村に戻って、あの女(・・・)のおっぱいでも吸ってるのがお似合いよ!」


 続いて、レムに向かってまるで子どものような口調でそんなことを言う。


「じゃあ、出て行くよ。救世の旅……頑張ってね」


 淡々と、レムはそう言って部屋を出て行く。

 そしてマイカの言ったとおり、その日のうちに荷物をまとめて、パーティを後にした。


 故郷で待つあの人のためを思えば、マイカたちのおもちゃになってでもパーティに残るべきだったのかもしれない。

 しかし、それは同時にあの人への想いを裏切ることになる。


 それに、レム自身も自分の手で世のために戦いたいという思いがあった。

 だからこそ、パーティを抜けることを決意したのだ。


(まぁ、これしか方法はなかったよね……。足手まといになり始めてたのは事実だし、それにあの人なら、分かってくれるはずだ……)


 レムは自分にそう言い聞かせると、悩みを振り払うように伸びをする。

 ちょうどそんなタイミングで――


「おーい、ボウズ! 村に着いたぞー!」


 御者台から、男の声が聞こえてくる。

 レムの顔がパッと輝く。

 やっと帰って来た。


 彼の育った孤児院のある村――〝アミエーラ村〟に。


「ありがとうございました」

「なーに気にすんな、移動代は十分にもらったからな」


 馬車を降りると、レムは御者に向かって礼を言う。

 御者――腹の膨らんだ中年の男は、陽気な声で応えると、革袋をジャラジャラ鳴らしながら満面の笑みで笑う。


 幸いにも、マイカたちは、決別の際にレムの装備とまとまった金を渡してくれた。

 それを使ってレムは馬車を乗り継ぎ、故郷であるこの村まで戻ってきたわけである。


 通常であれば、馬車待ちで帰ってくるのにもっと時間がかかっていたところではあるが、特別料金をもらえるとなれば、御者たちの食いつきはよかった。

 その上、レムは自分が霊装騎士であることも明かし、道中でモンスターが出た時は守ってやることも確約した。

 護衛の冒険者を集う必要もなかったのが、早く戻って来れた理由の一つだろう。


「ふふっ……二年前と何も変わらないな」


 村の入り口に立ち、景色を見渡したレム。


 オンボロの囲いで覆われた小さな村。

 中には木でできた家々が建ち並び、村の奥の方には二階建ての教会が見える。

 二年前――自分が旅立った時と何も変わらない風景に、レムは安心感を覚えるとともに小さく笑う。


 あいにく、早朝と言うこともあり、外に出ている村人は少なく、レムに気づく者はいない。

 だが、レムにとってそんなことはどうでもよかった。

 教会に行けば、愛しいあの人が自分を迎えてくれるはずだから――


 そう思うと、レムの足は速まる。

 大好きな……自分を育て、母や姉のように接してくれた、あの人が待ってくれている。


 軒の連なる景色を後にし、村の奥へと向かって駆ける。

 途中、家から出てきた老婆に「おや、レムちゃんじゃないかい!?」と、声をかけられるが、レムは笑いかけ手を振るのみだ。


「着いた……」


 改めて、教会の前に立ってその姿を見上げるレム。

 それなりの距離を駆けたが、息は上がっていない。

 元勇者パーティの前衛職、これぐらいで体力を切らすことはないのだ。


「レム……レムくんなの……?」


 建物を見上げていたレムの耳に、不思議そうな声色が聞こえる。


「シスター!」


 声のした……庭の方を見て、レムが歓喜の声を上げる。


 そこには修道服に包まれた、一人の女性が佇んでいた。


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