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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
一章

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16話 救われる心

「ガハハハッ! おらボウズ! ジャンジャン飲めッ!」


 宿屋の食堂の席に通されてから少し。レムとアリシアはとある一団に囲まれ、酒を飲まされていた。


 今、レムに酒を勧めているのは軽鎧を着た中年の男――昼間、迷宮の前でレムにイービルエルフの扱いを教えた騎士だ。名を〝ジェシー〟と言うらしい。


「ほら、アリシアももっと飲みなよ!」

「ですですぅ〜!」


 アリシアに酒を勧めるのは二人の女騎士だ。二人ともジェシーとは違い、もっと身軽で露出の多い鎧……いわゆるビキニアーマーを着ている。


 姉御口調で喋っているのが〝ペニー〟で、ぶりっ子口調で同調するのが〝マリエル〟と自己紹介していた。


「ゲヒャヒャヒャッ! レム殿は幼いのに男として素晴らしいのである! これは酒が進むのである!」


 もう一人、機嫌良さそうに笑い声を上げる重鎧を着た大柄な男が一人いる。だが、ただの人ではない。

 顔は爬虫類のようなつくりをしており、肌も同じく爬虫類のような質感をしている。蜥蜴の血を引いた亜人、リザードマンだ。名は〝ラージ〟と言うらしい。

 臀部からは太く逞しい尻尾が生えており、それで器用に酒樽を持ち上げ、そのままグビグビと煽っている。


 レムとアリシアが食事を始めて少し経った頃、仕事上がりの彼らが現れた。どうやら同僚同士で飲みに来たらしい。

 ジェシーはレムの姿を見つけると、彼に声をかけてきた。どうやら、ワケありのそうなレムとアリシアのことを気にかけていたらしい。


 近くの席に腰掛けるジェシーたち。会話が進むと、レムとアリシアの関係をそれとなく聞いてきた。

 レムは奴隷市場でグウェンに説明したのと同じく、迷宮で記憶喪失のアリシアを見つけ、彼女の面倒を見ることにしたと説明した。


「ほほう、可愛い見た目してるのに男気に溢れてるじゃねーか、気に入ったぜ!」


 レムの話を聞き、ジェシーが放った最初の言葉がそれだった。


「ふむ、では二人の生活がうまくいくように祝杯をあげるのである!」

「よっしゃ、今日は飲むよ〜!」

「ですぅッ!」


 ジェシーの言葉に続き、ラージにペニー、それにマリエルもグラスを掲げて声を上げる。

 どうやら、レムの行ったことに感動を覚えたようだ。そのまま「今日は奢りだ!」と言って、レムとアリシアの分まで酒を注文し、今に至る訳である。


 ちなみにだが、この国――〝アウシューラ帝国〟に、酒に関する年齢制限はない。レムもアリシアも法律を犯してはいないのである。


「ふふっ……お酒を飲んだご主人様、可愛いですっ♡」


 ジェシーによって、なかなかの量を飲まされ気持ち良さそうな表情を浮かべるレムに、自分も酒で頬を赤くしながら、アリシアがしなだれかかる。


 レムは気が気ではない。アリシアの大きく覗いた胸の谷間が顔の近くに急接近する。その上、これみがよしに、彼の隣で脚を何度も組み替えるのだ。

 ガーターストッキングに包まれた脚が股下ギリギリまではだけてレムを興奮の渦へと叩き込んでくる。


「おい、ジェシー。その辺にしとけよ? 二人とも完全に出来上がってるじゃないか」


 レムとアリシアの様子を見かねたのか、店主の男が宴会の場に割って入ってくる。


(た、助かった……)


 妖艶なアリシアから解放される口実が出来て、レムはホッと息を吐くのであった。


「すみません、みなさん。ぼくたちはそろそろ……っと!?」

「あんっ! ご主人様ったら大胆です♡」


 そろそろ上に上がります……。そう言って立ち上がろうとしたレムが、よろけて崩れ落ちる。どうやら飲みすぎたようだ。

 そして、崩れ落ちた場所はアリシアの真正面だった。彼女の胸の谷間に、顔面ダイブすることになったレムに向かって、アリシアが艶かしい嬌声を上げる。


「ご主人様、肩をお貸ししますから、上まで頑張りましょうね?」

「うぅ……」


 保護者であるはずのレムが、保護対象であるアリシアに介抱される……。そんな事実にバツの悪そうな表情を浮かべながら、彼女とともに二階へと上がっていく。


 そんな二人の姿を、ペニーとマリエルはニヤニヤとしながら見送り、ジェシーとラージは「「キメちまえぇぇぇッ!」」と叫び声を上げる。


 酒に酔って、意識朧なレムにそんな彼らの様子も気づく由はなかった。





「さぁ、ご主人様。ベッドに腰掛けましょうね?」


 なんとか二階の部屋まで上がってきたレム。アリシアは彼を優しくベッドまでエスコートし、腰掛けさせる。


「すみません、アリシアさん……。迷惑をかけてしまって……」


 虚ろな表情で、アリシアに向かって謝罪を述べるレム。


(はぁんっ! ご主人様、本当に可愛いですっ!)


 アリシアは、レムのそんな様子に、股――否、胸をキュンキュンとさせる。そして、思わず彼の小さな体を、優しい抱擁で包み込んだ。

 アリシアの体温、それに柔らかさ、そして彼女特有の甘い匂い……。レムは何とも言えない安心感を覚える。


 そんなレムの口から――


「……めて……」


 静かに、掠れた声がこぼれた。


「ご主人……様?」


 どうしたのかと胸の中に顔を埋めたレムの表情を窺うアリシア。彼女は驚きを覚える。

 なぜなら、レムの愛らしい瞳から大粒な涙が溢れ、その顔に辛そうな表情を浮かべていたからだ。


「や……めて、アリシアさん……。離れてく、ださい……」


 嗚咽を漏らしながら、やっとといった様子で言葉を紡ぐレム。彼は思い出してしまったのだ。

 自分の最愛であったシスター・アンリの優しい抱擁を。そして、彼女に裏切られた悲しい事実を――


 普段のレムであれば、人前で泣くなんてことはまずしない。しかし、今は酒が入り、感情のコントロールが上手く出来ないのだ。

 アリシアは悪くない。それはレム自身も分かっている。だが、彼女の優しい抱擁で安心することを心が拒んでしまう。


「ご主人様は……わたしのことが嫌いなのですか……?」

「ち、違っ――アリシアさんのことは嫌いじゃない! でも、シスターみたいにぼくのことを捨てるんじゃないかって……」


(シスター? 捨てる? ご主人様は何を言って……)


 酔った上に辛い記憶で意識が混濁したレムの言葉に、アリシアは疑問を覚える。それと同時に、彼を離してはダメだと彼女の本能が警鐘を鳴らす。


 今、自分の主人である少年から離れれば、その場は解決するだろう。だが、それは彼が涙を流した根本的な原因の解決にはならない。

 このままレムの抱える問題を放置すれば、彼はずっと心に傷を負ったまま、この先も時を過ごすことになるだろう。


 自分を封印から解き放ってくれたレム。そんな彼が傷ついたままにするなんて、アリシアは許せなかった。


 だからこそ――


「ご主人様、わたしはご主人様を捨てたりなんかしません。だから話してくれませんか? そのシスターという人物のこと、それに捨てられたということも……」


 アリシアはレムの頭を優しく撫でながら、慈しむような声色でそんな風に問いかけた。


 レムの体がビクッと震える。その後すぐに、安心したかのような表情を浮かべる――かと思えば、視線を左右させ、どうすべきか迷ったような顔をする。


 美しいアリシア、自分の生きる意味アリシア、そんなアリシアが自分のことを気にかけ、こんなにも優しくしてくれる……。

 保護対象である彼女の前で、弱音を吐かないと誓っていたレムの心が揺らぐ。今までの辛い経験を彼女に打ち明け、甘えてしまいたいと……。


 だが、こうも思う。そんなことを話してしまえば、ガッカリされて彼女にまで捨てられてしまうのではないかと……。


「ご主人様、わたしに隷属の紋章の力を使って〝決して裏切るな〟と命令してください。それならご主人様も安心できますよね?」

「……ッ!」


 アリシアの言葉に、レムの体が再び震える。アリシアはレムの心境をなんとなくではあるが察した。

 そして、彼の心を癒すために、自分を隷属魔法の力で縛ることで、信用させようというつもりなのだ。


「しないよ、そんなこと……」


 アリアの言葉を聞き、彼女のことを信用したのか、涙を流しながら、レムはそう答える。そして、ポツリポツリと自分のことを語り始めた。

 自分が孤児であること、勇者とともに救世の旅に出ていたこと、そして勇者のマイカ、それに育ての親であるアンリに捨てられてしまったこと……。


 ――捨てた……? こんなに愛らしいご主人様を?


 ――裏切った……? 世界の為に戦った、この正義感溢れる少年を?


 ――許せないッ! もしそんな存在がいるのなら、この手で殺してやるッ!


 アリシアの中に、凄まじいほどの憎悪が駆け巡る。だが、それも一瞬だ。今は傷ついた幼い主人の心を癒さなければ……。


「大丈夫です、ご主人様。わたしはご主人様を捨てたりしません。裏切るなんてもってのほかです。だから安心してください」

「ふぁ……」


 アリシアはレムのことを強く抱きしめると、さらに彼の頭を愛おしげに撫でながら、言葉を紡ぐ。


 レムは安心しきった表情を浮かべ、彼女の胸の中、眠りについてゆく――


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