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勇者パーティをお払い箱になった霊装騎士は、自由気ままにのんびり(?)生きる  作者: 銀翼のぞみ
一章

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12話 女騎士、再び

「はぁ……すごく大きいです、ご主人様っ!」


 都市の規模、そして景色を見て、アリシアが興奮した声を上げる。暗闇の中に封印され続けていた彼女からすれば、外の景色を見れただけでも感動ものだが、迷宮都市は美しい街並みをしている。アリシアが興奮するのも仕方のないことだろう。


「ア、アリシアさん……少し離れて歩きませんか?」

「えっ…………?」


 そんなアリシアに対し、レムは頬を染めながら少々困った様子で、離れて歩こうと提案する。

 レムが言った途端、興奮した様子から一転。アリシアの表情が悲しそうな色に染まる。


 二人は迷宮から出ると、中年騎士の提案通り、都市の北部にある奴隷市場を目指して歩いていた。


 イービルエルフがこの都市で生活するには、誰かの所有物……つまり奴隷である事が絶対条件だ。

 中年騎士の反応から察するに、イービルエルフに対してそこまで酷い差別意識は感じられない。それどころか、ルールさえ守れば歓迎しているような雰囲気さえ感じることが出来た。

 それを考慮するに、イービルエルフが奴隷でなければならないという決まりは、遠い昔に出来たもので、今も惰性でそれが続いているのだろうという憶測が立つ。


 ルールさえ守れば、そして奴隷という立場にさえ目をつぶれば、アリシアにとって生活しやすい環境と言えるだろう。


 そしてアリシアも自分の身分に興味はなさそう――というより、レムの奴隷になることに喜びを見出している節がある。

 その辺りの事が些か腑に落ちないレムではあるが、今は彼女の身の安全とこれからの生活を優先することにした。

 つまり、当分の間はこの迷宮都市で生活を送ることに決めたのだ。期間はアリシアがひとり立ちできるまでか、はたまた記憶を取り戻すまでか、定かではないが……。


 それはさておき。


 奴隷市場に向かっているのはいいのだが、アリシアは当たり前のようにレムの横に立ち、彼の腕に手を回して密着してきた。

 レムとアリシアには身長差がある。歩くたびに、アリシアのメロンがレムの顔と肩に――むにゅんっむにゅんっ、たぷんったぷんっ……!

 と、暴力的なまでに襲いかかってくるのだ。幼い少女のような容姿をしていても、レムも男だ。さらに彼は思春期を迎えたばかり。

 アリシアのような絶世の美少女に密着されているだけでも心臓が高鳴ってどうしようもないというのに、その上メロンを押し付けられるのだ。

 恥ずかしさ、それに興奮を抑えるのがそろそろ限界なのである。そんなわけで、離れて歩くことを提案したのだ。


「そ、そんな顔しないでください、アリシアさん。もしかしてぼくに気に入られようと、こんなことをしていますか? そうであれば、それは不要です。ぼくはアリシアさんのことを見捨てたりしませんから安心してください!」


 アリシアの悲しそうな顔を見て、レムは彼女のことを気遣い、安心させるための言葉を口にする。


 アリシアはレムの奴隷になることを受け入れる時、彼の命令ならなんでも受け入れると口にした。

 それだけ、彼女を封印から解放したレムに恩義を感じ、心の寄る辺にしている証拠だ。記憶がないことによる不安感が、それを煽っている可能性もある。

 それに、レム本人は自分自身が魅力的な人間だと思っていない。少女のような見た目も、彼からすればコンプレックスだったりする。


 そんなわけで、アリシアがレムに人間的な魅力を見出すことはないだろうと思っての言葉であったのだが、それを聞いたアリシアは……。


「何を言うんですか、ご主人様っ! わたしはそんな考えでご主人様に触れているわけではありません! ご主人様は、わたしを救い出してくれた大切なお方です。それにその綺麗なお顔……。そんなご主人様にわたしは〝メスとして欲情している〟だけです! ご主人様を見ている〝大事なところがキュンキュン〟してきてたまりませんっ、胸くらい押し付けたくなって当然ではありませんか!!」

「………………は??」


 レムが間の抜けた声を上げる。……それって、アリシアさんがぼくのことを異性として――いや、その前になんてこと口走ってやがる!?

 可愛い顔して、メスだの欲情などと、とんでもない言葉を口にするアリシアに、レムは戦慄し思わず後ずさる。


 そんな彼に、アリシアは「ふふっ……」と、蠱惑的な表情で小さく笑うと――むにゅん……っ!! 


 レムの頭に腕を回し、そのままメロンダイブさせてしまった。


(あぁ……なんだか甘い匂いがする……。それに頭がボーっとしてきた……)


 迷宮でメロンダイブさせられた時は驚愕するあまり気づかなかったが、アリシアからはなんとも言えない甘い匂いがする。

 そしてその匂いに、レムは言いようのない安心感を覚えた。こんなに安心するのはシスター・アンリに抱擁されて以来――いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 あまりの安心感、それに心地良さに、レムの意識が朦朧としかける……。そんな時であった。


「なぁっ!!?? わ、私のハニーが見知らぬ女に甘えているだと!?」


 朦朧としていたレムの耳に、聞き覚えのある声が聞こえてくる。ゾワリッ!! その声を聞いた瞬間、レムの背筋に得体のしれない感覚が走り抜けた。

 咄嗟にアリシアのメロンから抜け出すレム。そして振り向くと――そこには黒銀の長髪と、同じく黒銀の瞳をもった鎧姿の美女が立っていた。


(げぇぇッ!? 今朝会った変態(ショタコン)だぁぁッ!! っていうか誰がハニーだ!?)


 レムは内心で悪態を吐く。鎧姿の美女――それは、レムがこの迷宮都市に来た時に、彼にとんでもないことをしようとした女騎士、ヤエであった。


「そんなっ……! ご主人様にはもう心に決めた方がいたなんて……!?」


 ヤエがレムのことをハニーと呼んだの聞き、アリシアは「ショックッ!!」といった様子で声を上げる。どうやら、レムとヤエのことを、そういった関係と勘違いしてしまったようだ。


「ご主人様だと……!? 年上のダークエルフ相手に、なんて〝高度なプレイ〟をさせているのだ!? ぜひ私にもお願いしますっ!!」

「黙れ変態」


 ヤエはヤエで、アリシアがレムのことをご主人様と呼んだのを聞き、こちらもとんでもない勘違いをする。

 あまりの変態的な発想力に、レムはゴミのような視線でヤエに向かって冷たく言葉を吐き捨てるのだが……。


 ヤエは「ひゃぁぁぁんッ!? 男の娘からの罵倒たまらないのぉ……っ! ん

っんっ……!!」


 などと、内股になりながら腹の下辺りを押さえて、ビクンビクンッと体を痙攣させる。

 付き合ってられるか。レムはアレしてしまっているヤエに近づくと……パァンッと彼女に頬に軽いビンタを叩き込む。


「〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!??」


 ヤエは頭を仰け反らせ、声にならない声を上げると、その場に倒れこんだ。気を失ったその表情は実に穏やかだった。


「しゅごい……。ビンタだけあんなになってしまうなんて……。ご主人様、わたしにも――」

「黙れ駄エルフ」


 罵倒とビンタだけで召されてしまったヤエの姿を目の当たりにし、アリシアは頬を染めながら、ドキドキした様子でレムに自分もとおねだりするが、それは彼の冷たい一言で却下された。


「やんっ! ご主人様からの罵倒……ちょっと気持ちいいかもですっ♡」

「…………」


 太ももをモジモジさせながらそんなことを口走るアリシア。レムは何も聞かなかったことすると、無言で奴隷市場に向かって歩き始めるのだった。


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