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11話 強制メロンダイブ

「…………は?」


 少しの間を置いたところで、レムは間抜けな声を上げる。目の前のイービルエルフの少女に〝ご主人様〟と呼ばれたこと、そして〝やっと逢えた〟という言葉に理解が追いつかないのだ。


「あぁ……わたしのご主人様となる方が、こんなにも愛らしいなんて……」

「え……? ちょっ――うむぅ……!?」


 キョトンとしているレムに対し、イービルエルフの少女は、とろんっとした瞳をして頬を染めると、裸のままだというのに彼を抱擁した。

 レムがくぐもった声を上げる。身長差があるのがいけなかった。レムと少女の身長差は、ちょうど彼女の胸元にレムの顔がくるぐらいの差だ。


 つまり今、レムの顔は少女の胸に挟まれて(・・・・)いるのだ。……お気づきだろうか? そう、挟まれているのだ。

 触れるとか埋めるとかそんなチャチなものではない。少女の胸のボリューム……その恐ろしさの片鱗をレムは顔で味わったのだ。


 少女の――二つの双丘はこれでもかというほどに実っていた。その大きさ……例えるのであれば〝メロン級〟である――


「ぷはぁッ! ちょっ、は、離れて! っていうか服! 服着て下さい……!」

「はぁんっ……! 恥ずかしがるご主人様のお顔、可愛らしいですっ♡」


 突然の〝強制なまメロンダイブ〟に混乱しつつも、レムはなんとか彼女のメロンから脱出し、すぐさまアイテムボックスの外套から自分の衣服を取り出す。

 そんなレムの様子を見て、少女は「たまらないっ!」といった様子で、太ももを擦り合わせモジモジし始める。

 少女の艶かしい動作に、レムのベヒーモスがベヒーモスしそうになってしまうが、なんとか理性でそれを抑え込み、少女に服を着るように促す。


 身長的にもバストのサイズ的にも、彼女には合わないはずの衣服だが、レムの取り出した服には《サイズ》という名の魔法が込められている。

 効果は、ある程度の横縦幅であれば、着用者に合わせて生地を伸縮させるというものである。


「着替え終わりました、ご主人様っ! 服からご主人様のいい匂いがして、なんだかドキドキしちゃいます♡」


 着替えが終わるのを後ろを向いて待っていたレムの耳に、少女機嫌良さそうな声が聞こえてくる。

 レムが振り返ると、着替え終わった少女が、袖口に鼻をあて「スーハー、スーハー」と香りを楽しむ姿が飛び込んできた。


(…………??)


 レムは違和感を覚えた。少女の行動は明らかに変態染みているというのに、何故か不快感を覚えないのだ。

 不思議な感覚に襲われつつも、レムは少女に向かって問いかける。まずは今の状況、そして彼女のことを聞かなければ……。


「えっと……アリシアさん? で合ってるかな? どうしてあなたはこんな場所に封印されていたのですか? それになんで、ぼくのことをご主人様なんて呼ぶんですか?」

「はいっ、わたしの名前はアリシアですっ。それから――えっと……あれ? なんでわたしは封印なんてされていたんでしょう?」


 レムの質問に答えようとしたところで、少女――アリシアの顔が不思議そうなものになる。

 その様子を見て、レムは(うわぁ……)と、内心ため息を吐く。この様子だと、おそらく彼女は記憶喪失の類なのであろう。

 そうなると、今の自分が置かれた状況どころか、彼女の扱い方も定まらない。八方塞がり一歩手前だ。


「とりあえず、覚えていることを聞かせてもらえますか?」

「はいっ、ご主人様。わたしが覚えているのは、アリシアという自分の名前、それから何らかの理由で封印されていたこと、そして、わたしを封印から解き放ってくれた方にお仕えしなければならないということです」


 ダメだ、わけが分からないよ――それがレムの感想だった。そして完全なる八方塞がりだということが確定した。


 さて、どうしたものか……。レムが途方に暮れて、そんなことを思った矢先、彼とアリシアの周りの空間が――ぐにゃりっ、と歪み始めた。


「きゃっ!? ご主人様、恐いです!」

「うむぅッ!?」


 歪みに驚き、アリシアは思わずレムしがみつく。またもや強制メロンダイブさせられ、レムは彼女の豊満なバストの下でくぐもった声を上げる。

 そうこうする内に、この空間に来た時と同じように、歪みは渦となり、やがて奔流となって二人を飲み込んでいく――





「ここは……迷宮の出入り口か……?」


 再び奔流に囚われたレム。奔流から解放されたかと思えば、今度は見覚えのある空間の中に佇んでいた。

 どこまでも続く岩肌。そして、大きな穴とそこから注ぐ明るい光。レムが迷宮に入った時に見た景色と全く同じだ。


(どういうことだ? ぼくがここへ来たのは昼過ぎだ。かなり時間が経ってるし今頃は夕方のはずなのに……)


 迷宮の外から注ぐ光は決して夕陽から放たれる色ではない。その事実に、「まさかあの歪みは場所だけでなく時間にも干渉しているのでは……?」などと、レムは疑問に思うが、それは途中でやめにする。


 なぜなら、彼の隣で「あぁ……陽の光――やっと見ることが出来ました……」と、アメジストヴァイオレットの瞳に、涙を溢れさせながらアリシアが声を震わせていたからだ。


「アリシアさん、外に出ましょう」

「……! はいっ、ご主人様……っ!」


 封印されていた理由は分からない。彼女の正体すらも分からない。だが、涙を流すアリシアに邪悪なものは感じられない。

 レムは自然と彼女に手を差し伸べ、迷宮の外へと、ともに歩いていくのだった。





「はぁ……っ、外の空気いったいどれくらいぶりでしょうか……!」


 手を繋ぎ二人揃って迷宮から出てきたところで、アリシアは胸いっぱいに空気を吸い込んで感嘆の声を漏らす。

 陽の光が彼女の髪と瞳を照らす。髪は白銀に輝き、瞳は幻想的な色を放つ。あまりの美しさに、レムは見惚れてしまう。


「お、ずいぶん出てくるのが早いなボウズ。もうゴブリンの討伐は終わったのか? っていうか、そのダークエルフの嬢ちゃんは誰だ……?」


 アリシアの姿に見惚れているレムの耳に、そんな声が聞こえてくる。声のする方向を見ると、そこには鎧を着込んだ中年の男性騎士が立っていた。レムが迷宮に訪れた時に辺りで警備を行なっていた騎士だ。


(この口ぶり……。やっぱりあの歪みは時間にも干渉していたみたいだな……)


 レムが迷宮に入って数時間経っているというのに沈まぬ太陽、そして出てくるのが早いという騎士の言葉……。やはり、時間の流れに矛盾が起きている。

 だが、それを気にしたところでどうにもならない。それらの事象と一番関係ありそうなアリシアは記憶喪失なのだから……。


 それよりも、レムには確認しなければならないことがある。それはアリシアの今後の扱いについてだ。

 それにはこの都市がどういった風潮があるのか確認する必要がある。レムは騎士に向かって問いかける。


「彼女についてなんですが……。この都市において、イービルエルフはどんな扱いを受けていますか?」

「なにっ? ってことは……そこの嬢ちゃんはダークエルフじゃなくてイービルエルフなのか? もしボウズの連れなら、まずは奴隷市場でボウズの奴隷として登録しなきゃならねーな。それがこの都市のルールだ。それさえ済めば、この都市はエルフ族には友好的だから問題はねぇさ」

「なるほど、形式的なものなんですね……」

「そういうこった。迷宮の中でどうやって知り合ったか知らねーが、ギルドに行く前にまずは奴隷契約を済ませておくんだな」


 今のアリシアは長袖の服を着ているので、一見するとただのダークエルフだ。そのまま隠しておくのもアリと思うかもしれないが、何かの拍子に彼女がイービル・エルフであるとバレてしまうかもしれない。


 そうなった時、この地のイービルエルフに対する風の当たり次第では、アリシアは酷い目に遭うかもしれない。そうならない為に、レムは初めから彼女の正体を明かし、騎士に相談したのだ。


(どうしたものかなぁ……)


 騎士に礼を言い、その場を離れて少し――レムは下唇に指をあてながら、アリシアについて考えを巡らせる。


 レムはアリシアの面倒を見るつもりだ。結果的にとはいえ彼女の封印を解き放ってしまったのも理由だし、何より記憶喪失の少女を放っておくことなど、正義感の強いレムに出来るはずもない。

 それに……彼女自身もレムの腕に手を回し、絶対に離れません! と、意思表示をしている始末だ。


「ご主人様、悩まないで下さい。ご主人様の奴隷であれば、わたしは喜んでなりますよ?」


 レムがアリシアを形だけとはいえ奴隷とすることに、悩んでいるということをアリシアは気づいたようだ。

 レムに向かって優しく笑いかけると、彼の腕に回した手の力を少し強めてそんな意志を告げる。


「アリシアさん……分かりました。形だけですが、ぼくの奴隷になってもらいます」

「ふふっ、形だけなんて……。わたしはご主人様のためならどんな命令も受け入れますっ♡」


 奴隷にすると言われているのに、アリシアは随分と嬉しそうな表情で、それを受け入れるのだった。

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