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 扉をくぐった先は、真っ白な空間だった。

 心のどこかで、師匠に「だまされてやんの」と言われるのを期待していたので、少し物足りないが、異世界に来たのだという実感が湧いてきた。

「しかし、剣と魔法の世界、というくせに誰もいないのだな」

「失礼ね、ここにいるじゃない!」

 突然、キンキンした声が響いた。俺はそれに驚き、辺りを見回すが、どこにも人の姿は見当たらない。

「下よ! 下!」

 またキンキンした声が響いた。その声につられて視線を下げると、ピンク色の短い髪に黄色のつなぎを着たちびっ子が腰に手を当てて胸をはっていた。

「……えーと、君は誰?」

 とりあえず、しゃがんで視線を合わせて言った。

「子ども扱いするなー!」

 いきなりちびっ子に頬を殴られたが、びくともしない。逆に、ちびっ子が体制を崩してこけそうになるのを受け止める。

「大丈夫か?」

「あ、ありが……ってちがーう!」

 そう言いながらちびっ子は立ち上がり、また腰に手を当てて胸を張るポーズをとった。

「もっと敬いなさい!」

「は、はあ」

 気のない返事をする。なぜこんなところにこんな子供がいるのか気になるが、どうやって聞き出そうか。

「それは私が神だからよ!」

「そうなんだ、すごいね」

 こう言った類の妄想は精神的に幼いヤツがしがちなことだ。だからまともにとりあわず、できるだけ褒めて持ち上げるのが良い、と師匠が言っていた。

「その師匠ってヤツの言葉を信じちゃだめ!」

「!?」

 今、こいつ俺の思考を読まなかったか?

「そうよ! 面倒くさいから読ませてもらったわ」

 こいつは、良くわからないけれどやばい。反射的に立ち上がり背中の袋の上から鞘を押さえ野太刀を抜いてちびっ子の首筋に突きつける。

「ひぃ!?」

「俺の思考を読むな、オーケー?」

「お、オーケー」

 そう答えたちびっ子は怯えてはいたが、嘘をついているようには感じられなかった。

「なら良し」

 そう言って首筋から刃をどけ、鞘に収めて左腰にさす。そうするとちびっ子は睨みつけてきた。

「もう、推薦があったから期待していたのに、想像以上に酷いのが来たわね」

「思考を読むのは失礼だろう?先に礼を失したのはそちらだ」

 そう言うとちびっ子は居心地悪そうな顔をした。

「そ、それは悪かったわ。でも、いきなり野太刀を突きつけることはないでしょ!」

「つい手が滑った」

「うおい!」

 こいつの反応はなんだか面白い。

「お前は良い反応をするな」

「い、いじめないでよ!」

 そう言ったちびっ子は涙目だ。うん、やっぱり面白い。しかし、このままこいつで遊んでも話は進まない。だから、適当に話題を変えることにした。

「そんなことは置いておいて、お前は本当に神なんだな?」

「そんなことって、私的には大問題なんだけど……。そうよ、私は神。正確にはあなたが行くことになる世界の技術神よ」

 そういったちびっ子はどこか自慢げだ。

「嘘を言っているようには見えないな。それで、技術神って何だ?」

「え?」

 分からないところがあったから正直に聞くと、ちびっ子はキョトンとした。

「えっと、へパイストスって知ってる?」

「知らん」

 ちびっ子は恐る恐るといった感じで聞いてきたが、案の定何のことか分からない。

「じゃあ、プロメテウスは?」

「本の題名でそんなのがあったな」

「Oh…」

 そう言ってちびっ子は頭を抱えた。

「ま、まあいいわ。とりあえず、神、って呼ばれる存在自体は知ってるよね?」

「それは当然」

 とはいったもののそんなのもいるだろうな、程度の認識なのだが。

「まあ、その神って呼ばれる存在のうち、技術に該当して、なおかつ武術に該当しないものを司っている存在のことかな」

「司る、ってことは技術、てものを支配しているという認識で良いか?」

 そう尋ねると、ちびっ子は困ったような顔でこう言った。

「まあ、そんな神も他の世界には多いのだけれどね……。私は、技術という概念そのものなの。つまり、技術を存在させて、さらに発展させるのが仕事かな?」

「これから俺が行く世界の他の神も似たようなものか?」

「そうよ」

「そうなのか」

 ここまでの会話で、それぞれの世界ごとで神という存在の定義が大きくことなっており、この世界の神はそれぞれが司っている概念のものを存在させている存在らしいことが分かった。頭がパンクしそうだ。

「まあ、自分の存在主体の概念以外を取り合っていたりするから、実際のところもっとややこしいのだけどね」

「???」

 ちびっ子は小声でつぶやいたが、しっかりと聞き取れてしまった。そのせいで頭が混乱する。

「ああ、気にしなくていいよ」

 気にしなくて良い、ということは考えなくて良いのだろう。なのでこのことについての思考をやめる。

「分かった」


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