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 一週間ほどで倦怠感は無くなり、そのことをアンに伝えるといい笑顔で廊下を走って連れ去られ、あれよあれよという間に演習場に連れていかれた。そこには、あらかじめ手配された修道士達が目を爛々と光らせて待ち構えていた。

「あー……お手柔らかに頼む」

 そうとだけ言って修道士達から離れ、変身し、正座する。そこに歓声を上げながら修道士達が群がってくる。はっきり言って怖い。

「ちょ、ちょっと待て」

 そう言って修道士達を制し、意識を胸の辺りに集中する。すると、空気の抜ける音と共に人間で言う水月辺りが開き、座席がせり出てきた。

「……本当にあったよ」

 俺は半ば呆然としながら言う。修道士達は、誰が初めに中に入るかで殴り合いを始めた。修道士の癖に欲望に忠実すぎるだろ、と俺は呆れる。

 開いたのは、コクピットだ。ゲーム中での設定では、機体に人が乗り込むとなっていたのだから、あって当たり前と言えば当たり前だが、変身して動かしているのは俺自身なので、その存在を忘れていた。

 殴り合いは熾烈を極め、それを横目にアンが膝によじ登り座席に座る。

「じゃあ、閉めて」

「……あいつらは良いのか?」

「気にしちゃ駄目」

「そうか」

 そう言って座席を格納する。ようやくそれに気付いた修道士達が駆け寄ってくるが、その頃にはコクピットは閉まっていた。

「操縦桿とかが見当たらないのだけど」

 アンが中で恐ろしいことを言う。

「設定では改造人間の脳と直結させて操縦するからな」

「ふーん」

 そう言いながらアンはメジャーを取り出しコクピットの中を測り、俺はそれを内蔵されているカメラで観察する。

「うーん、全部の計測機器を載せるには狭いね。この椅子外しても大丈夫かしら?」

「腕が千切れてもペナルティだけだったのだから大丈夫だろう」

 アンのなんとなく恐ろしく感じる発言にそう答える。

「一応俺の体なのだから大切に扱って欲しいのだが」

「大丈夫大丈夫、それはもう大切に扱うから」

 そう言ったアンの口元にはよだれが垂れていた。外の修道士達がうるさいので仕方なく約束通りアサルトライフルを渡すと、嬉々として解体しだした。これも損傷に含まれるのだろうか、と思わず遠い目をする。

「ひゃっ! 今の何?」

 少し動いただけだが、コクピットの中は結構揺れたようだ。

「外の連中にアサルトライフルを渡しただけだ」

「そ、そう。もうびっくりさせないでよね」

 アンはそう怒りながらもテキパキと計測していき、緑のメモ帳に書き込んでいく。

「うーん、やっぱり椅子は外す必要がありそうね」

「……なら仕方無いか」

 俺はコクピットを揺らさないように肩を落とす。ペナルティは結構きついのだ。

 外の連中はいちいち奇声を上げながらアサルトライフルを分解していく。俺の愛銃の無残な姿に泣きそうになる。こらカッターを取り出すな切断するなわざと暴発させようとするな。

「……泣きたい」

「泣けば」

 アンは冷たい。冷たいが、計測は順調に行っている。

「とりあえず、規格が違うから帰ったらこれ専用のドライバーとか作らないとね」

「……それで最後は俺を完全に解体するのか」

「……その手があったか」

「冗談だからやめろよ」

 アンに未知の技術を与えてはならない、と心の中にメモする。ついでに修道士達は手遅れとも。

「とりあえず、椅子とか邪魔になるやつはバラして取り出して、その付いていた所のねじ穴とか使って機器を固定すれば良いでしょ」

それなら、多少加速などしても大丈夫だろう。

「なるほど、それで行こうか」

「だから、ネジ一本頂戴」

「……別にいいぞ」

 そう言うとアンは嬉々として外套のポケットの中から鉄の定規らしきものを取り出し、椅子を固定するネジを外す。よだれが垂れているが、それを指摘するのはなぜかはばかられた。

「よし、外れた。長さは……うん大丈夫」

 そう言いながらアンはネジの長さや溝の間隔などをメモしていく。アンの手際はなかなか良く、それはすぐに終わりネジは元の場所に戻った。

「じゃあ出して」

「了解」

 そういってコクピットを開けると、アンはアサルトライフルの残骸の元へかけていく。

 その後、あまりにごねるので結局修道士全員を一回コクピットに乗せ、変身を解除した頃には日が傾きだしていた。昼飯を食べ損ねたが、それ以上に変身を解除したにも関わらずアサルトライフルの残骸が残ったせいで修道士達の騒ぎがヤバイ。ヤバイとしか言いようがない光景に、俺は引く。その修道士達の中にアンが混じっていることに軽く絶望しそうになるが、見なかったことにして演習場を後にする。

 神殿に帰ると、一人置いていかれたニコルがすねていた。途中から合流したアンと二人がかりで必死でなだめ、ニコルの気分か回復する頃には、すっかり夜になってしまい、俺は明日から続くであろうペナルティにため息をはいた。

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