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 枯れ木の化け物と戦ったその晩、ベッドで寝た筈の俺は何故か白い空間にいた。

「またここか」

 見覚えのある空間だ。この世界に来る前、ちびっ子と対話した場所なのだろう。

「そうよ」

 キンキン声が後ろからしてくる。振り返ると、黄色のつなぎにピンクの短い髪のちびっ子がそこにいた。

「で、何の用だ?」

 言いたいことはあるが、とりあえずここに連れて来られた理由を聞かなければ始まらないだろう。

「まずは、初めての対魔王戦、どうだった?」

 そうか、あの化け物は魔王だったのか。ちびっ子の言葉にかえって納得がいった。

「ああ、最高だった」

「それは良かった」

 ちびっ子は嬉しそうにうなずく。

「で、変身の使い勝手はどう?」

「ああ、そのことで質問がある」

 ちょうど良かったので、質問をぶつけることにした。

「変身中の損傷が俺の肉体に反映されていなかったのは、なぜだ?」

 そうなのだ。もぎ取られた左足と右腕は、演習場で変身を解除したとき何も無かったかのようにそこにあった。無くなったはずのものがあるという感覚に一瞬混乱したが、それは馬車に戻るまでに直るような些細なものだった。

「無くなったほうが良かったの?」

 ちびっ子は目を見開いて言う。

「いや、ただ意外に思っただけだ」

「ふーん」

 ちびっ子はそれで納得したのか、うなずく。

「まあ、それは仕様だから、私でも変えられないから安心して」

「そうか」

 ちびっ子は、微妙に安心できない発言をする。

「で、ここに呼んだのは、変身の仕様を変更するためなの」

 ちびっ子は、何かに怯えながら言った。

「……どういうことだ?」

「変身って、一旦変身を解除すると、その変身中の損傷がなかったことになって、すぐに元通りで変身出来るっていう反則じみた仕様だったんだけれど、それじゃ強すぎて世界のパワーバランスがひっくり返るから、変身解除後は変身中に受けた損傷具合に応じて変身出来なくなる時間が出来るよう」

「ちょっと待て」

 気になる発言が飛び出したので、口を挟む。

「連続で変身できたのか、ってそれはどうでも良い。変身と言うスキルは俺に能力を使わさないためのスキルではなかったか?」

「そのことだけど、ペナルティとして変身中に受けた損傷を直すのに貴方の能力から出るエネルギーを使うようにしたから、その間能力は使えな……くはならないけど、弱体化するから大丈夫」

「能力から出るエネルギー?」

 また良く分からない言葉だ。

「まあ、簡単に言うと、この世界に来た結果貴方の能力は完成したの。で、その能力があまりに強すぎるからマナ的なエネルギーが発生してるのね。ここまでは良い?」

「マナ、って魔法の元になる不思議エネルギーだったな」

 全然良くないが、そう言った。

「まあ、そんな認識でも構わないんだけど……。ともかく、貴方の能力の中でも特にヤバイヤツはそのエネルギーを使うものだから、そのエネルギーを消費しちゃうことで使えなくするの。分かった?」

「分かった」

 良く分からんが、うなずいておく。ちびっ子は「コイツ絶対分かってない」という顔をしているが、気にしたら負けだろう。

「ん? なら本来の変身のままなら受けた損傷の修復には何のエネルギーが使われているのだ?」

 湧き上がった疑問を口にする。

「それは秘密」

 そう言ってちびっ子は唇に右手の人差し指を当てる。なんとなくろくでもないものを使う気がしたので、それ以上は追求しない。

「で、用はそれだけか?」

「うん」

「なら、もうひとつ質問良いか?」

「良いけど、何?」

 そう言ってちびっ子は首をかしげる。

「この世界があと千年で滅びる、って言うのはどういうことだ?」

 俺は、僅かな怒りと共にそう言う。

「あああ、そのこと」

 ちびっ子はなんでもないという風に装っているが、声が震えていた。

「貴方が寿命を全うするには十分すぎるのがひとつと、私からすればこの世界が滅びたところでまた創れば良いじゃない、っていうあきらめの感情が大きかったのがひとつ」

 そう言ったちびっ子の目は、あきらめの色に染まっていた。

「なぜそこであきらめる?」

「だって、私は所詮技術神で、火の神とか光の神みたいに武闘派じゃないから、どうしようもないんだもん」

 そう言ってちびっ子はすねたかのように顔を伏せる。

「良かったな、おれはバリバリの武闘派だ」

 そう言うと、ちびっ子は伏せた顔を上げる。

「本当にやるつもりなの?」

「ああ」

 俺がそう言うと、ちびっ子は顔を上げる。

「でも、分かってるの!? それがどんな道か!」

「ああ、分かってるとも」

「私は、これ以上私のせいで誰にも死んでほしくないの!!」

 ちびっ子は、心の底から叫んだ。

「だが、放っておけば全員死ぬんだ。ならば、大を生かすために小が犠牲になるのは仕方ないだろう」

「貴方は小じゃない!」

「いいや、小だ。この状況ではな。それに、俺から闘争を取ると、何も残らないぞ」

 そう言うと、ちびっ子はしばらく押し黙り、髪を掻きあげながら言った。

「あーあーそうでしたね今回の勇者は。そんなこと言うなら戦って死んでしまえ!」

 俺はそれに笑顔で答えた。

「ああ、望むところだ」

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