21
その日も、いつも通り地図を作りながら適当に魔物を間引くだけの簡単なお仕事になるはずだった。
「退屈だ」
そのつぶやきは、誰に聞かれることもなく、森に響いた。筈だった。
突然、眼下からツタの群れが伸びてくる・
「なっ!?」
俺は、混乱しながらエネルギーバリアを起動し高度を上げる。熱源反応に不審なものは映らなかった。だのになぜ? 疑問が頭を埋める。そんな俺を地面に落とそうとしているのか、ツタの群れは一度空高く伸びたかと思うと上から襲い掛かってくる。俺は逃げるように何度かローリングしながら一旦高度を少し下げた後メインブースターをふかして急激に高度を上げる。が左に大きく姿勢を崩して転がるかのように回転する。
「な、何が……」
左足が、なくなっていた。混乱しながら下をみると、ツタの群れとは別に地面から伸びる一本のツタが、左足らしき鉄の塊を締めつぶしていた。そうだ、ここは戦場だった。戦場だったんだ。
その瞬間、言いようのない高揚感と例えようのない爽快感に頭がどうにかなりそうになる。こいつは、敵だ。何か分からないが、俺を攻撃してきた、間違いようのない敵だ。打ち倒すべき存在だ。戦いだ。闘争だ。戦争だ。待ちに待った戦争だ。さっきまでのおままごとなんかじゃない、楽しい楽しい戦争だ。
「ふふふ……ふははは…………あっはっはははっはははははははははあっ!!」
アドレナリンで脳が沸騰する。ドーパミンで視界が揺れる。
「潰す!!」
その官能に任せたままアサルトライフルとミサイルをばらまく。その暴力にツタの群れは蹂躙され、一瞬で視界から消えうせる。
「Gugyaooooooooooo!?」
ツタの主であったであろう巨大な枯れ木のような何かが地面を割ってあらわれる。そうか、痛いか。それは良い事だ。まだ生きている証拠だ。それは
「まだまだ戦える証拠だろおおおオオオオオオオオ!!」
レーザーキャノンを口のように開いているところに叩き込む。苦悶の形をとっていた口らしきそこは一瞬で半分ほどまで抉り取られる。必殺の筈のレーザーキャノンがあまり効かなかったことに、驚きよりも歓喜を感じる。そうしている間に、メキメキと音を立てながらえぐりとられた場所が再生する。
「そうだ、そう来なければ楽しくないよなぁ、お前も、俺も」
枯れ木の化け物は怯えるように地面からツタを繰り出してくる。俺は化け物を中心に円を描くように飛びながら迫り来るツタの群れをアサルトライフルで吹き飛ばし、再生したところをまた拭き飛ばしてやろうとミサイルを放つ。
「!?」
命中し、暴力を振るう筈だったミサイルは、半透明な蒼白い壁に阻まれて離れた所で爆発した。あの光は、
「魔法か!?」
「Gurororoooooooo!」
返事するかのように叫んだ化け物は、さらにツタを繰り出す。それをまとめてミサイルで吹き飛ばしながら、アサルトライフルを叩き込む。が、それはやはり蒼白く光る壁に防がれ、かん高い音を立てた。だが、これは予想通りだ。
俺の武装がまともに効かないと判断したのか、化け物は笑いながら四方からツタを繰り出してくる。
「っこの野郎!!」
反射的にエネルギーシールドの出力を限界以上に上げる。限界を超えたシールドはその発生装置から生じている力場に従って外側に向かって膨張し、大爆発を起こした。それに巻き込まれたツタは焼け焦げながら四散し、空いた空間に従って上へと飛ぶ。
「Gurroro!?」
まさか全てのツタを吹き飛ばされると思っていなかったのか、化け物は驚きの声をあげる。俺は内心冷や汗をかきながらレーザーキャノンをその口に叩き込む。さっきシールドを爆破させたのは緊急的な手段に過ぎなく、これから一分ほどの間エネルギーシールドは使えなくなった。そのせいで空気抵抗は大きくなり、馬鹿みたいな速度を出すと機体が分解する。正直、手詰まりだった。だがだからと言ってあきらめる俺ではない。
レーザーキャノンは蒼白い壁を完全に砕いて幹に大穴を空けた。その穴を再生しつつある化け物にゆっくりと渦を描くように近付く。化け物はさっきの爆発を警戒してか、あまりツタを繰り出してこない。その数の少なくなったツタをアサルトライフルで吹き飛ばしながら、さらに近付く。
「Gurooooo」
化け物は危機感を感じたのか、急激に迫るツタを増やす。俺は進行方向を化け物に真っ直ぐに変えて、つっこんで行く。前から来るツタをアサルトライフルで吹き飛ばす。この距離でエネルギーシールド無しにミサイルを撃つのは自殺行為なので、使えない。
「っつ!!」
アサルトライフルを撃っていた右腕が、後ろから来ていたツタにちぎり取られる。化け物は勝ち誇ったように笑い、俺の目の前に蒼白く光る壁が現れる。だが、この距離なら
「十分だ!」
俺は叫びながらレーザーキャノンの砲身を展開する。展開した砲身は壁にぶつかりそうな距離でその必殺の一撃を放つ。壁からはね返って来る熱に砲身は溶けながらも、壁を粉砕した。化け物は、砕け散る壁の向こうで阿呆みたいな顔をさらしながら、口に大穴を空けていた。
「シッ!!」
それまで一度も使われていなかったレーザーブレードは、ぐれることなく己の責務を果たし、根元から幹を切り倒した。俺はそれに巻き込まれないよう上空へと逃げる。ようやくあれから一分経ったのか、エネルギーシールドが起動する。ほっと一息つきながら、さらに高度を上げようとすると、驚くべき光景が目に入った。
「なにっ!?」
化け物が、また地面から生えてきていた。切り倒せば倒せると思い込んでいた。だが、よく考えれば木が切り倒されただけでは死なないのは、当たり前のことではないか。
「次は、勝つ」
俺は自分の考えの足りなさを後悔しながら、街へと帰還した。