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「うーん」
俺は今、暇を持て余していた。変身はひと段落ついている。素振りは昨日野太刀を研ぎに出したせいで無理。勉強も統一言語をマスターし、地理も頭に叩き込んで一通り終わってしまった。そして……
「勇者様、やはり、情報部は知っていませんでした」
「そうか」
そうしょんぼりするアンの頭をなでる。いざ魔王を倒そうと情報を集めたが、残念なことに、今居場所を把握している魔王はいなかった。なんでも、今俺たちが居るロード大陸の魔王はほぼ掃討し終わっており、居るとしてもこの街の東に広がる未開拓地やこの街を囲むように存在するドワーフ族中心のマローダ王国の南に広がる鎧蟲大森林の中くらいらしい。で、他の大陸の情報は残念なことになかった。ないのも当然なのだろう。ストーデン大陸とエストリア大陸に人類は存在しないし、イドラン大陸は閉鎖的な魔族のゴンドール帝国が支配しているのだ。
「いっそのこと、ストーデン大陸まで行こうか」
などと言ったものの、変身後どれだけ燃料が持つのか分かっていないのでそれも出来ない。アンとニコルもそれが冗談だと分かっているので苦笑いだ。
「こうやってだらだらするのも良いとおもいますけどねー」
ニコルはそう言ってソファにだらける。俺たち三人は、俺の部屋のソファでやることもなくだらけていた。
「ちょっと未開拓地を覗いてみる、とかどうだ」
「魔物がうじゃうじゅしてますよー」
ニコルは言いながら想像してしまったのか、背筋をぶるりと震わす。魔物と言うのは、神魔大戦の折邪神と共にこの世界にやってきた生物群のことだ。強いものに従う性質を持つので、魔王には大勢の魔物が従っているらしい。だが、中にはヒト種もいて、カエルム諸島に居るオニ族は神魔大戦でこちら側についたそうだ。
「対魔王戦の予行には良いだろ」
「……私たちは留守番で良いかしら?」
アンが不安そうに言う。
「まあ、いいだろ」
そう言いながら上体を起こす。
「では、行ってらっしゃーい」
ニコルの言葉を背に、部屋を後にした。
* * *
「ふう」
俺は初めて一人で馬車に乗って演習場まで行き、いつも通り十五分ほど歩いた地点で変身した。これから行く先は戦場だ。その意識が心の底に火をつけ、興奮が体を支配しようとする。が、それをコントロールし、戦うのに必要な最低限の熱だけ持つ。闘争の狂気は必要以上に持てば、自分の身を焼いてしまう。それを良く知っているからだ。
「よし」
サブブースターに点火し、高度を二千メートルまで上げる。そしてメインブースターとエネルギーバリアにまわすエネルギーを増加させ、一気に音の壁を越える。エネルギーが少なくなると低速で飛び続け、エネルギーが貯まると音速を超えるのを繰り返しながら、山脈から五百キロ東の地点へとやってきた。カメラを熱源探知に切り替え、エネルギーバリアを切って木々の少し上まで高度を落とす。木の姿をしていながら温度が三十度あるものが少し前にあるので、アサルトライフルで中ほどを打ち抜く。これが鉄の体でなければ、俺は確かに笑っていただろう。それほどの興奮と共に引き金を引いた。
「Gurooooooooo!!」
すると、悲鳴を上げてその木の姿をした何かは倒れた。カメラは、そいつの体温が冷えていくのを感知している。悲鳴を上げる余裕を与えてしまったのは反省だ。確か、あんな姿の魔物はトレント、と言ったか。
「次は、一撃でしとめる」
そう覚悟し、低速で飛ぶ。
ニコルの言った通り、未開拓地は魔物の宝庫で、撃っても撃っても魔物が尽きることは無かった。木の姿をしたトレントを筆頭に、豚人間といった感じのオーク、風を操るストームタイガー、鷹の翼と上半身にライオンの下半身を持つグリフォン、小さすぎて人型をしていることしか分からないゴブリン。勉強でオーソドックスと言われた魔物は、全てアサルトライフル一発で倒せた。
「つまらん」
八つ当たり気味にゴブリンの巣らしき丘をレーザーキャノンで吹っ飛ばしたりしたが、その余波だけでゴブリンを殺すには十分だったようで、一撃で全滅した。
これでは虐殺と何も変わらない。一気に熱は冷え、やる気が萎える。
「帰るか」
そう言って未開拓地を後にする。
それから一週間ほどは、フェルミの頼みで未開拓地の地図を作りながら魔物を間引くかのように倒し続けた。俺も断ればよかったのに、世話になっているという負い目から引き受けてしまった。それは非常に退屈な作業のくせに神経に負担を強いた。そして、俺の神経は磨耗させられ、動きは精彩を欠いていく。
そんな中、街から千キロ東の地点、あの謎の視線を感じた所で、俺はヤツと出会った。




