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「はい、四千年ほど前に終結した神魔大戦の折、神々が顕現し力を振るった影響でストーデン大陸の西側は削られた結果今の形になりました。カエルム諸島はその残骸と言われています。そして、当時存在していたと言われている浮遊大陸が落ちた結果出来たのがエストリア大陸で、その影響で海の水位が上昇した結果、ロード大陸とイドラン大陸が分離したそうです。インサニー大洋があるところにあった大陸は神の力と浮遊大陸が落ちた結果消失したとか」
俺はそれを聞いて唖然とする。もうどんな規模の戦争だったのか想像もつかない。
「それは……なんというか、想像もつかないな」
「はい、神魔大戦で滅びた種族も多いそうです。あと、この世界の地面は球体の『惑星』と言われるものなのですが、これは良いですか?」
なぜそんなことをわざわざ聞くのか、理解できない。
「世界は基本的に銀河――恒星――惑星――衛星で構成されているのではないのか?」
「ああ、勇者様はそんな世界から来られたのですね。いえ、過去の勇者様の中には平面世界とか亀の上にある世界から来られた方もいたそうなのです」
亀の上とか、いつの時代だ、と言いそうになったが、寸前で言葉を飲み込む。この世界に魔法と言う不思議なものが存在するように、他の世界にも不思議なものがあってもおかしくないからだ。ならば、そんな世界があってもおかしくはないだろう。
「そうか、で、なんとなくその話の先を聞くのは怖いのだが、何かあったのか?」
そう聞くと、ニコルは一瞬ためたのち、こう言った。
「その神魔大戦の余波で、この星にあった『月』が消失しました」
「はい?」
理解が追いつくのに、一瞬間ができ、理解した瞬間飛び上がりそうになった。確かにこの世界に来てから月は見たことが無かった。スケールが違いすぎる。街ひとつ消し飛んだり島の形が変わったりする戦争なら、俺の世界にもあったから、大陸消失まではなんとか理解出来る。だが、星が消えるなどと言うこそは想像の範疇を超えていた。
「まあ、もともとフリューゲルという種族が浮遊大陸を作るのに使ったそうなので、ボロボロだったみたいですが」
そのニコルの補足も慰めにはならない。そして、俺は思い出した。思い出してしまった。
「確か、魔王は邪神の破片なんだよな?」
「はい」
確か、魔王を放置すると世界が滅びるとちびっ子は言っていたが、こういうことか。そして、神魔大戦から四千年が経つというのに、未だ魔王は残っている。
「ちなみに、ストーデン大陸とエストリア大陸には魔王がうじゃうじゃいるとか」
告げられた言葉は、この世界の破滅を予測させるものだった。おまけに、その言葉から嘘は感じられない。
「……それって、大丈夫なのか?」
なんとか言葉をひり出す。だが、ニコルはやさしくなかった。
「いいえ、このままだとあと千年でこの世界は滅びるそうです」
千年後、俺は間違いなく生きてはいないだろうが、それは慰めにならない。放っておけば滅びるなどと聞いて放っておけるほど、俺は薄情ではない。
「まあ、千年後まで私たちも勇者様も生きてはいないし、生きているとすれば私たちの子孫か長命なエルフ族くらいでしょうから、関係ない話ですけれど」
「そうか、関係ないだろうが、俺の気分は悪くなったぞ」
「あれ?」
ニコルは疑問の声を上げた。
「どうした?」
「いえー、失礼ですけど、勇者様って自分が戦えれば、あとはどうでも良いとか言うタイプだと思っていましたから」
その言葉に、思わず苦笑する。確かに、この世界に来てから俺がやっていたことは戦いの準備以外ないからだ。
「確かに、俺は戦うのが好きだ。戦う以上、負けたくない。負けることは嫌いだ。負けることだけは、絶対に嫌だ。闘争に負けたものには何も残されないからだ。俺はそれをよく知っている。だから、」
ここで言葉を切り、宣言した。
「俺は全ての魔王を滅ぼす」
その言葉に、ニコルは目を見開いた。
「そ、それは不可能です!」
ニコルは立ち上げって叫んだ。
「それはなぜだ?」
「今まで何人勇者が召喚されて、死んでいったと思っているのですか!?」
ニコルは俺の肩を揺らそうとする。が、体格差のせいでうまくいっていない。
「だからどうした」
俺はニコルの腕をつかむ。
「お前は、何とも思わないのか?」
俺は、ニコルの目を見て言う。
「お前は、この世界を愛していないのか?」
俺は、どうかニコルに伝わるように言う。
「俺は、短い間、限られた場所しか知らないが、それでもこの世界が好きだ。そんな世界が滅びるなど、許せない。お前はどうだ?」
ニコルは、何かをこらえるかのように目を閉じた後、開いた。
「そんなの、許せる訳ないじゃないですか!」
ニコルは叫んだ。心の底から、といった感じで。
「なら、協力してくれるか?」
「もちろんです!」
ここに、俺とニコルは魔王を滅ぼすことを誓った。




