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「それで、これをどうすれば良いのだ?」
渡された腕輪には、つなぎ目が見当たらなかった。
「それを、頭の中で『着ける』と念じてください」
「? そんなので良いのか?」
特に嘘を言っている気配も感じられなかったので、『着ける』と念じる。すると、腕輪が一瞬光ったのち、いつの間にか左腕にはまっていた。
「出来ましたね。でも……」
ニコルが何か言いたそうに口をつぐんだ。
「何だ?」
「いやー、警戒心がなさすぎだな、と思いまして」
俺は警戒心が強いほうだと思うので、否定する。
「別に悪い気配を感じなかったから信用したのだが」
「気配、なるほど」
アンは納得したようだが、ニコルは不満げだ。
「そのことについてですが、貴方に『鑑定』の魔法をかけさせてください」
アンはそう頼んできた。また魔法だ。
「そもそもだが、その『魔法』とやらは何なのだ?」
「簡単に説明すると、生物が体内の『マナ』を利用して起こす超常的な現象のことで、神の力の劣化版という説もありますが、分かり……ませんよね」
アンは、俺の目が遠くなっていくことに気付いたようだ。
「まあ、そういう不思議技術と思ってください」
「分かった」
ニコルの説明は分かりやすくて良い。アンは不満げだが。
「気を取り直して、『鑑定』の魔法は貴方が持っている『スキル』の詳細について調べる魔法よ。それで、貴方に授けられたスキルの詳細を調べたいの」
「と言われても俺が与えられたのは『変身』だけなんだが」
「『変身』? またマイナーな……。でもそのスキルで出来ることとかは分からないでしょ」
「まあ、何に変身出来るかしか知らないからな」
確かに、俺は何に変身出来るかは知っていても、その能力(最高時速が何キロか、とか)は知らない。だから、これは俺にとっても都合が良いだろう。
「なら頼む」
「では、『鑑定』!」
アンはそう言ったが、何も起こらない。
「あれ?」
アンが疑問の声を出す。
「どうしたの?」
ニコルが不思議そうに首をかしげる。
「も、もう一回!『鑑定』!」
アンはまたそう言ったが、やはり何も起こらない。
「どうしたんだ?」
不思議に思い、尋ねるとアンは涙目になりながら、
「な、何もないよ!」
と言った。
「『鑑定』!『鑑定』!『鑑定』ぃ!!」
アンはそうやけくそと言った感じで叫んだが、やはり何も起こらない。
「あー、その『鑑定』って言うのはニコルも使えるのか?」
「いえ、私は使えないんですよ」
そう言っている間に、アンはどうしたのか座り込んでしまった。
「な、何で発動しないの……?」
なんだか可哀想だ。
「発動しなかったのか?」
「ち、ちがっ……そうよ。こんなことはあり得ないはずなのに……」
「んー、勇者様って、自分の『能力』とか把握してますか?」
ニコルがなにか思いついたのか、そう尋ねてきた。
「まあうろ覚えではあるが」
「なら、その中に何か魔法を発動させなくする能力ってありましたか?」
そう聞かれたので、頭をフル回転させて考える。しばらく唸ると、ポッと思いついた。
「なあ、魔法は神の力の劣化版という説があるんだよな」
「え、ええ」
そうアンが涙を拭きながら言う。
「で、神の力って神威と言いかえれるな?」
そう尋ねると、二人は何を言っているんだと言う顔で頷く。だが、それで俺は納得した。
「俺は『神威殺し』という能力を持っているから、そのせいではないか?」
そう言うと、二人は絶句したように押し黙った。
「……なるほど。つまり、勇者様は魔法を無効化できる能力を持っている、と。なら、何で翻訳の腕輪や言語強制変更の魔法がかかったのでしょう?」
ニコルの疑問はもっともなものだった。そして、それに対する答えは持っていなかった。
「それは分からん」
そう言うと、しばらく三人は頭を抱えた。
「このことは考えないようにしましょう」
アンが立ち上がりながら言った。俺とニコルはそれに同意する。
「なら、とりあえずは明日そのスキルを把握するために、演習場まで行きましょうか」
ニコルは楽しそうに言った。
「演習場?」
「はい、街外れにある広い荒野です。そこなら、何があっても大丈夫でしょうし」
「……だといいが」
俺はろくでもないことを思い出してげんなりするが、多分ナイトレイヴンに変身するだけならいちいち生命が死滅したり発狂したりはしないだろう。多分。
「不安になること言わないでください」
ニコルは不安げに言う。
「いや、ろくでもないことを思い出しただけだ」
「ろくでもないって……」
余計なひと言はニコルをさらに不安にさせてしまったようだ。
「まあ、大丈夫だろ」
「演習場には街側には『障壁』がはってあるから大丈夫よ」
アンが自慢げに言う。
「なら大丈夫だな」
それで話し合いは終わり、二人は部屋から出て行き、俺も疲れがたまっていたのかすぐに寝た。