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異世界交流はマグカップから  作者: 古典的麦茶
3/5

食事が整う話

彼女が‘風’を止めた後の部屋はなかなかに悲惨であった。

文庫本やプリントなどが放り出されて布団がはがれベッドも剥きだしていた、が幸いにもギシギシと音をたてていた本棚は、一部の本が落ちてはいたもののの倒れるという辞退は免れていた。


「す、すみません片付けの手伝いもできなくて」

そう言ったサンドラの顔はいまだほんのり赤い。

「あなたに認めてもらおうってつい夢中に……」

玄関でのやりとりの後、家の中にはいることのできた彼女は孝太郎とともに部屋の片付けをしようとしたのだが、足元がおぼつかなかったため今では差し出された座椅子に座っていた。


「いやまあ本棚はなんとか無事だったし、プリントや本は元々整理していなかったから、ちょうど片付ける機会だと思うよ……」

落ちていた文庫本を拾いながら孝太郎が答えた。

少年と少女と列車が表紙のものと、飛行帽とゴーグルをつけた少年らしき人物がトランクの上に座っているのが描かれた本2つをもつ。

「でも驚いたよ、さっきのできごとは。突然突風が吹き始めたんだから」

文庫本を本棚に整理し終えた彼はプリント集めに行動を移した。

「ええ、ワタシの持っているマナの半分つぎ込んだ‘風’ですから。こちらの世界に来てから一番大きな規模だったんじゃあないかと思いますよ」

そう言う彼女は驚いたという言葉を聞いたからか、少し自慢気である。


「マナ?」

プリント集めに終始しながら孝太郎が尋ねる。1年前に学生課から配られた資料まで律儀に拾って束にしている。

「ああ、マナっていうのは魔法を扱うのに必要なものでして。ええっとこっちの世界だとエネルギーと言えばいいんですかね」

「なるほど魔法を使うためのエネルギーね。でもって今はそのマナを一気に半分も使ったから……」

プリントの束をそろえて彼は言った。ある程度の片付けは終えたようだ。

「体に負担がかかって今みたいになっちゃったと。むこうの世界でもこんな感じなの? 半分使ったらフラフラーって」

「いやそんなことはないですよ。というかむこうじゃワタシ自身のマナをそのまま魔法には使わないんですよ、自身のマナはあたりの自然にあるマナを利用するのに使うだけで……」

サンドラが魔法の説明をはじめようとした時


ぐぐー。


という音が彼女のお腹から。

「…………」

おさまりそうだったサンドラの赤面が再び強くなった。


「お腹減っている? なにか食べようか 」

「いえいえ、それよりもお話を」


ぐぐぐー。ぐーぐぐぐー。


「……………………」

よりいっそう大きな音が部屋に響き、彼女の赤みがよりいっそう強くなった。若干涙目でもある。

「お話は食べながらでもいいよ、まあ今そんなに食べ物もないから立派なのは出せないけど」

自身も朝食がまだであることを思い出し、孝太郎は食事をとること提案した。

「……お言葉に甘えます」

サンドラは伏し目がちに言った。

「じゃあトーストとお茶でよければ」

立ち上がり孝太郎はキッチンへ向かった。ひとり暮らしの男の部屋のわりに広めのキッチンである。


「そういえば異世界にパンってあるのかな? 」

トースターに冷蔵庫からとりだした食パン4枚を入れながら彼は聞いた、ついでにマーガリンも出しておく。

「異世界にも似たような食べ物はあるので大丈夫ですよ。こちらの世界のパンほど質がいいものは少なめなんですが」

「そうなんだ……。じゃあさ飲みものは? 飲み物の違いとかはどう? 」

孝太郎はかなり興味を示し続けて質問を続けた。

「飲み物も似たものがありますけど飲料水はワタシの国だと少ないですね、ニッポンと同じく豊富な国もあるにはあるんですけど。質はパンと同じくこちらのほうが。食材に関してはおおよそ変わったところはないようなんです、あちらとこちらは。文化や技術は違いが大きいんですけどね。でも一番の違いは……」

「魔法……ですか。あ、お茶はコーヒーと紅茶があるんですけど、どっちがいい? 」

こんがりと焼けたトーストにマーガリンを塗りながら孝太郎は聞いた。

「コーヒーで」

サンドラもキッチンにでてきた。

「こちらの世界にも魔法という概念はあるみたいですがおとぎばなし・空想のものなんですよね。」

「そうそう、錬金術なんてのも昔あったらしいけど科学に……って」

孝太郎が声のするの方に振り向くと、サンドラが服を着物から着替えていることに気がついた。


「? どうかしました?」

「いや、さっき着ていた着物が……」

「ああ先ほどの服ですか。担当地域の伝統的衣装は初訪問時に着ていく規定なんですけど、さっきの服装は動きづらいですから。ついさっき魔法で着替えさせてもらいました」

サンドラは現代的なパンツルックの服装に変わっていた。

「魔法で? 」

インスタントのコーヒーと紅茶をつくり終えて彼は聞いた。

「ええ、簡単な魔法です。先ほどの‘風’とは違ってほとんどマナは使わないんですけどね」

食事を運ぶのを手伝いながらサンドラが答えた、手にはコーヒーと紅茶のマグカップ。

「自身に触れていたりするものに関する魔法はマナの消費が少ないですし使用も簡単なんです。幼い時に初めて習う魔法でもありますね」

「へえ……なるほど。魔法ってのは便利そうだね、今僕が見ている限りは。言葉に不自由がないのも魔法のおかげかな」

トースト2枚がのった皿を両の手に孝太郎が感心している。

「実際はどうかわからないけどね」

そして皿を机へおいて座布団に座った。

「ええ、異世界の言葉が理解できて喋ることもできるのは魔法によってですし、便利な部分もありますけど」

サンドラも2つのマグカップを机においた。

「こちらの世界の科学ほどは発展も進歩もまだしていないです。新幹線……と言いましたか、長距離輸送があれほど快適にかつ短時間なのはワタシの世界では考えられません」

そして彼女も座椅子に座った。


朝食の準備がととのった。

トーストとホットコーヒー|(もしくは紅茶)というこの世界で一番シンプルかつ多く食べられているであろう朝食。



机の上、2つのマグカップから、湯気がたっていた

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