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異世界交流はマグカップから  作者: 古典的麦茶
2/5

プリントが舞った話

「…………」

「伊藤孝太郎さん。この度は【異世界文化交流代表権利者】へのご当選おめでとうございます。さっそくですが今後の予定をですね……」

聞きなれぬ、そして怪しさ満載の言葉に彼が黙っていることをよそに、彼女は話をつづけている。


「いや、いやいやちょっとまってまって」

呆気にとられていた孝太郎がようやく口を挟んだ。

「その異世界文化交流ってのはなんなんですか!? っていうかあなたが一体誰なのかも知らないんですけど!」

「ああ、申し遅れました。ワタシこういうものでして」

そう言いながら彼女は名刺をさしだした。とてもシンプルなデザインであるそれには


異世界交流文化部門 アジアニッポン国担当責任者 アレッサンドラ・マエストリ


と書かれていた。


「アレッサンドラ・マエストリ……さん」

名刺を受け取りつつ孝太郎は書かれている名前をつぶやいた。

「はい、 アレッサンドラ・マエストリと言います、サンドラとおよびください」

着物姿の女性、アレッサンドラ・マエストリは微笑みを崩さず答えた。

「じゃあ……サンドラさん。まず聞きたいんだけどさ、この名刺にも書かれている異世界ってなんなんですか?」

名刺をまじまじと見ながら彼は尋ねた。

「異世界ですか? 異世界というのはですね伊藤孝太郎さんの住むこの世界とは異なったところという意味ですね。ワタシにとっては元いた世界をさすのでこちらの世界のほうが異世界なんですけど」

「いや異世界って言葉の意味を聞いてるんじゃなくて……って元いた世界ってのは」

「ええ、ワタシの生まれ故郷は異世界です。こちらの世界では……異世界人になりますかね?」

少し微笑みは崩れた。


「…………」

「ええっと、どうしましたか伊藤孝太郎さん? 」

微笑みはすこしばかりの焦りの表情に変わっている。

「すみません、宗教には興味ないんでお引取りを」

一刻もはやく布団へ戻りたい彼はそう言いながら扉を閉めようとした。

「え、ちょ、まって! まってください! お話聞いてください!ああドアを閉めないで! 」

かなりな焦りの表情のサンドラが止めに入る。

「いやいや、ワタシイセカイシュッシンナンデスヨー、なんてアッパラパーなこと喋る人と話すことはないんで」

扉をはさんでの問答がされると同時に孝太郎が扉を閉めようとするをサンドラも足をはさんで抵抗してくる。

「あ、アッパラパーって……じゃじゃじゃあですよ! 異世界人であること証明しますから! この世界との一番の違い! 目の前で魔法使いますから! 」

多大な焦りの表情ででサンドラが言った。血も顔へのぼってるのか真っ赤である。

「いえ! 手品とかも間に合ってるんで! 」

暖かな布団へ帰還するため孝太郎も言葉と腕に力を入れる。汗まで滲んできている。

「手品じゃありませんってば! じゃあわかりました! ワタシが今できる最高の魔法やるので! 」

扉から離した手を合わせながらサンドラも孝太郎にこたえる。

合した手の右手人差し指には青緑色の石がのった指輪が見える。

「いやだからもういいって言っていってるだろ! いいかげ……」

いい加減にしてくれ、そう彼が言い終わる寸前、サンドラの指輪わずかに光ったと同時に


ブワッ!!!


という音とともに2人のまわりで風が吹き始めた。

しかもそよ風なんでものでない突風である、その突風が2人のいる玄関から孝太郎の部屋を襲いはじめた。

「こ、これでどうですか! 今あるマナの半分つぎ込んだ‘風’です!」

突風が荒れ狂う中彼女は自信ありげに言った。鼻息も少しあらい。

「ま、まってまって!」

今度は孝太郎が焦りの表情をしながら叫んだ。

「コレ止めて! 部屋の中が無茶苦茶に……ああ本棚が! 」

後ろの部屋では突風により文庫本やプリントの類が暴れ、本棚がきしみを上げ始めていた、倒れそうである。

「……また、ですか。この魔法を見ても認めてくれないんですか。コレ以上はどうしたら……負担をかけてでももっと大きい魔法を……」

「いやだから! コレ止めて! 認めるから! あなた異世界人だって認めるからまずコレを止めて!」

彼の愛する布団もめくれ上がった。毛布が舞う。

「!! では異世界人って認めたついでにお話も聞いてもらえますか? 」

ちゃっかり話を聞くことまで約束させようとしているところが、彼女が天然ではあるものの強かであることを示していた。

「わかった! わかったから! 異世界人ってのも認めるし話も聞くからさ! だからまずその魔法ってのを止めてくれえええええ! 」



孝太郎の叫びとともに突風は止み、文庫本とプリントの舞もおさまり、そして彼が愛してやまない暖かみのある布団は部屋の一番奥へたたきつけられていた。

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