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 1か月前、あいつと再会した。あいつと会ったのはあの時別れて以来、10年が経っていた。

 夜遅く、私の家を叩く音が聞こえ、何事だと思い、出てみると、金髪の髪をなびかせた青年がおり、その腕の中には子犬くらいの大きさの銀色の毛並みを持った狼がいた。その狼は至る所に怪我を負っているようで、血塗れになっていた。

 私はその青年のことを知らないが、彼が纏う懐かしい魔力があいつであると分かった。

『本当は貴女に逢いに行くつもりはありませんでしたが、今はそう言っていられる状況ではありませんでしたので』

 あいつはそう言ってくる。私が知っている彼の声はもう声変わりしたのか、低い声になっており、話し方も昔のものと百八十度も変わっていた。

『………一体、何の為に姿を現したと言うんだ?』

 この犬の怪我を治させる為だけにここに来たわけではないだろう、と皮肉で返してやると、

『確かに、この子をしばらくの間、預かってもらいたいと言うこともあるのですが、それよりも、お兄さんが頼みたいことは貴女の弟子ことです』

 あいつからその言葉を聞いた時、私の顔が凍りつく。あの少年に何があったというのだろうか?

『今はその事情を割愛させてもらいますが、彼は今、危ない状態です。魔力切れの上、大量出血を起こしています。傷を塞ぐだけでは彼が死ぬのも時間の問題です』

 あいつは真顔でそんなことを言ってくる。あの少年が死ぬ?

『黒犬が死にそうだというなら、青い鳥はどうした?』

 あの少年の傍には必ずあの少女がいる。おそらく、あの少年が重傷を負ったのはあの少女のボランティア活動の所為のはずだ。だが、普段なら、あいつが重傷になることがあっても、命の別状はなかった。なのに、今回は命の危機を迎えることになっている?

『青い鳥ちゃんなら、エクちゃんが付いています。おそらく、明日の昼頃には王都に着くでしょう。今回だけは彼女に非はありません。巻き込んだのはお兄さん達の方でしたから』

 それを聞いた瞬間、私は彼を殴り飛ばしていた。そんなことをしても意味がないことくらい頭で分かっていたのだが、そうせずにはいられなかった。

 あの少年を瀕死の状態に追い込んだこともだが、こいつが常に生死を分けるような世界に身を投じていたことに憤りを感じていた。

 こいつは自分が死んでも、悲しむ者はいないと思っているのだろうか?

『………貴女には私を怨む権利はあります。ですが、彼を助けたいと思うなら、病院に行ってください。彼は病院にいます。彼を救うことが出来るのは貴女だけです』

 彼はそんなことを言ってくる。今まで吐き出したい言葉を呑みこむ。

『なら、私をそこまで連れて行け。走っていくより、お前の魔法を使った方が早い』

 私がそう言うと、彼は一瞬驚いた表情を浮かべ、魔法陣を展開させて、病院前に座標を合わせる。

 そして、目の前に入口を作り、私は躊躇わず、その中へ入っていく。

 どうか、死なないで欲しいと願いながら………。


***

「貴方達がここまで来た理由はだいたい予想出来ます。ですが、お兄さんは貴方達の味方になることはできませんよ。そもそも、お兄さんの実力では彼の足もとには届きませんからね」

 彼は俺達にソファーに座るように促し、紅茶を二つ入れて、俺達の前に置く。

「貴方にも立場と言うものがあることくらい知っています。貴方が黒龍に刃向かった場合、教会側に裏切り行為と思われてしまうのは確実です。だから、私達は貴方に加担してくれとは言いません」

 こいつは紅茶を呑んでそんなことを言ってくる。

「では、貴方達は何の為にここに来たと言うのですか?」

 彼は興味なさそうにそんなことを尋ねてくる。

「私と貴方で賭けをしませんか?」

 青い鳥がそう言うと、彼は目を見開いて、こいつを見る。

「………賭けですか。お兄さんがそんな無意味なものに乗ると思いますか?」

 賭けと言うものは両方にリスクとリターンがあって、成り立つものですよ、と彼は言ってくる。

 確かに、俺達には賭けをすることによって得るものはあるが、鏡の中の支配者(スローネ)は賭けをしても得るものは何もない。誰だって、そんな賭けをしたがるはずがない。

「なら、こうします。貴方が勝ったら、私は宮廷騎士を辞めます。そして、教会側に身をゆだねます。私を貴方達の部下にするなり、殺すなり、好きにして下さい。そうすれば、黒龍の邪魔をする者は消えるし、貴方達は私と言うカードを切り捨てるなり、使うなり好き勝手できます」

「なっ………」

 流石の俺でも、絶句するしかなかった。

 こいつがここまでする必要も義務も全くない。こいつが文字通り、自分の人生を掛けてまでその賭けに挑むことなどないのだ。なのに、どうして、お前はそこまでする?

「………確かに魅力的な提案ではありますが、お兄さん達が貴女を使うことを選択した場合、貴女がお兄さん達の組織を裏切らないと言う保証は?」

 彼はと言うと、一瞬、驚愕の表情を見せたものの、すぐに冷静さを取り戻し、青い鳥にそう尋ねる。

「賭けに負ければ、潔く貴方に従うつもりです。信用できなければ、私を殺すか、私が裏切ることが出来ないような仕組みを作ればいいと思います。貴方のもとには私を脅せるような要素がたくさんあります」

 こいつがそう言いきると、彼は唇を歪ませ、

「………確かにそうですね。貴女を無理矢理従わせようとする方法はいくらでもあります。貴女がそこまでして賭けたいなら、お兄さんも乗りましょう。そのルールはどうするのですか?お兄さんの不利なものは却下です」

「そうですか。では、貴方が決めて下さい。私は賞品を決めました。貴方がルールを決める権利があります」

「………じゃあ、こうしましょう。お兄さんと貴方達が戦って、最後まで勝ち残った人が勝者、と言うことはどうでしょうか?」

「私もそれには異論ありませんが………。その闘い、貴方と彼にしませんか?」

 青い鳥がそう提案すると、彼はきょとんとした表情になる。それはそうだ。二人がかりでも、鏡の中の支配者(スローネ)を倒せるか分からないのに、俺一人では彼相手に勝てるはずがない。

「その代わり、縛りを儲けさせてもらいます」

 青い鳥はそう言って、彼を見る。

「………その縛りとは?」

「勝利条件をそれだけではなく、二つ増やします。私達の場合、一つは制限時間を一時間とし、それで勝負がつかなかった場合。もう一つは貴方が特異能力を使ってしまった場合。貴方の場合、一つ目は彼が召喚獣を使った場合、もう一つは私が介入した場合」

 それを聞いて、鏡の中の支配者(スローネ)は目を見開いていたが、俺も絶句した。

 俺の強みは召喚魔法である。それが使えなかったら、俺の勝率がかなり下がる。

 俺は自分を落ち着かせようと、紅茶を飲もうとすると、青い鳥が俺の分の紅茶を飲み干してしまった。

「あははははは。本当に面白いことを言ってくる子ですね。これでは貴方達の勝率が限りなくゼロに近づくようなものですよ?当日になって、逃げると言うことになりかねませんか?」

 お兄さんはそれでも構いませんが、と彼は言ってくる。

「彼は貴方と違いますし、私は彼女ではありません。自分に保険をかけるよりは賭けに出て、自分たちの幸せを勝ち取ります」

 青い鳥は力強くそんなことを言ってくる。

 こいつがここまで命を張って、俺を助けようとしてくれる。なら、俺もこいつの期待に応えなくてはならない。

「………俺もそれでいいです。どうせ、何もしなければ、俺は引き返すことのできない道に引きずり込まれる運命ですから」

 だから、何もしないでそれを待っているよりは、一縷の望みにかけて、最後の悪あがきをしたほうがいい。

「………そうですか。貴方達の覚悟は分かりました。そこまで言うなら、受けて立ちましょう。ですが、お兄さんに負けても文句は言わないで下さい」

「当たり前です。負けたのは私達が貴方より弱かっただけです。いえ、貴方が背負うものよりも私達の覚悟がなかっただけのことです」

「確かにその通りです。じゃあ、いつにしますか?お兄さんは今日でも構いませんが?」

「………流石に今日はやめておきます。では、明日の夜なんて、どうですか?」

 こいつは眠いのか、目を擦りながら、そう言ってくる。

「お兄さんはそれで構いません。では、場所はどうしますか?」

「………場所は、私が、用意…します」

 こいつは襲ってくる睡魔と闘おうとするが、もう限界のようで、俺の肩にもたれかかる。

「………明日の夜、貴方の元に行きます。その時…までのお楽しみ……と言うことで」

 こいつは早口でそう言ってから、俺の方を見る。

「すみませんが、もう限界です。私はもう寝るので、貴方が聞きたいことがあれば、彼に聞けばいいと思います。で…は、お……やすみ」

 青い鳥は俺の膝を枕代わりにし、おやすみなさい、と言い終わらないうちに、夢の世界に旅立ってしまった。

 夜遅いとは言え、こいつがこんな急に眠くなるとは思えない。なのに、どうして、こいつは眠くなってしまったのだろうか?

 俺は周りを見ると、視界に空になったカップが二つある。もしかして………、

鏡の中の支配者(スローネ)、あんた、まさか、紅茶に何か盛ったのか?」

 俺は目の前にいる蒼髪の青年を睨みつけると、

「……確かに盛りましたよ。超速効性の眠り薬を。これを飲ませて、話を有耶無耶にしたかったのですが、二杯も飲んで、ここまで耐えきれるとは彼女は本当に規格外の身体をしていますね」

 彼は呆れた様子でこいつを見る。おそらく、こいつは紅茶の中に眠り薬が入っていると知った上で、飲んだのだろう。その意図することは分からない。

「こいつが眠っているのは自業自得だろ。この薬はどれくらいで効果が切れるんだ?」

「1杯で1,2時間持続です。彼女は二杯も飲んだのですから、四時間は起きないでしょう。とは言え、彼女の身体は規格外ですから、もしかしたら、二時間程度で起きてしまうかもしれませんが。それに副作用はないので、心配はいらないでしょう」

 どうやら、明日に支障がないのなら、それで良しとしよう。

「………まあ、貴方では彼女を運ぶことなど不可能ですから。世間話でもしましょうか」

 彼はそう言って、キッチンに行き、二杯分、今度はコーヒーを入れて、俺に差し出す。

 また眠り薬が入っているのではないだろうかと思い、そのコーヒーを眺めていると、

「………今度は入っていませんよ」

 彼は苦笑いを浮かべながら、コーヒーを啜り、

「………そう言えば、貴方はお兄さんや彼女の師匠のことは知っていますか?」

 そんなことを言ってくる。が言う“彼女”は恐らく、赤犬さんで間違いないだろう。

「………いえ、赤犬さんは決して自分のことを話すような人ではありませんでしたから」

 そう、赤犬さんから自分の幼少時代の頃の話や故郷の話を聞いたことがない。俺が尋ねても、いつも、彼女は一瞬悲しそうな表情を浮かべて、話を逸らしてしまう。

「……そうですか。なら、昔話でもしましょうか」

 彼はそう言って、話し始める。

「………むかしむかし、とある町に、男の子と女の子がいました。男の子はいつも町の子供達に苛められ、泣いていました。その時はいつも、女の子が助けに来て、いじめた町の子供達をやっつけていったのです。その男の子にとって、その女の子は正義の味方そのものでした。でも、男の子は守られているばかりではなく、女の子を守りたいと思うようになりました」

 彼の話を聞くと、俺はあの頃を思い出す。反撃することが出来ずに、ビービー泣くしかできなった俺。そして、そんな俺を助けてくれた青い鳥。

 彼の物語の男の子は俺、女の子は青い鳥に似ているのだ。

「そんな時、男の子に転機が訪れました。男の子達が住む町外れに屋敷があり、そこはからくり屋敷という噂がありました。だから、女の子は興味を持ち、そこに行こうと言い出したのです。男の子は初め、乗り気ではありませんでした。ですが、女の子がいれば、何とかなるという気持ちになり、一緒に、その屋敷に忍び込みました。その結果、男の子たちは危うく黒焦げになるところで、この屋敷の主である青年に助けられました」

 女の子がいれば、どうにかなる、そう思った男の子。

 青い鳥がどんな無茶なことを言っても、付き合ってしまう俺。俺がかなりのお人好しだと周りはよくいっているが、実はそうではないと思う。

 あいつ以外の人間が無茶を言った場合、俺はそいつに付いていこうと思うのだろうか?いや、そんなことは思わないはずだ。あいつだからこそ、俺は最後まで付き合ったのだ。

 そう、俺はその男の子のように、あいつがいれば、どうにかなると思っていたのかもしれない。

「その青年は魔法使いで、男の子達にいろいろな魔法を見せてくれました。男の子達は夢中になり、毎日毎日、その青年の元へ通いました。そして、毎日通いつ受けている間に、男の子達は青年に魔法のことを教わるようになり、いつの間にか、青年と男の子達の間には師弟と呼ばれるような関係が芽生えてきました。男の子は魔法を上達させるにつれて、ある感情が芽生え始めました。誰よりも強くなりたい、そして、彼女を守りたい、と」

―強くなって、あいつの力になれるようになりたい―

 かつて、俺が抱いていた気持ちが蘇る。俺が魔法を学びたいと思ったのはそれがきっかけだったと思う。だから、俺は自分の雀の涙程度のお小遣いを使って、王都へ行き、魔法の本がたくさんあると言われている国立図書館に向かい、そして、そこで赤犬さんに出会った。

 だから、俺は男の子に気持ちがよく分かる。自分を守ってくれた女の子を今度は自分が守りたかったその気持ち………。

「そんなある日、男の子達は魔法使いにとって、難関と言われる試験に見事受かりました。男の子は女の子と一緒に試験が受かり、喜んでいました。その試験は年に一人受かればいい方だと言われていたものだから、それに二人一緒に受かると言うのは奇跡に近いものです。ですが、偶然、男の子は見てしまいました。もしかしたら、それが悪夢の始まりだったのかもしれません。白フードを被った男と師匠である青年が話しているところを………。彼らはこんなことを話していました。白フードの男が仕えている主が女の子を欲している、と。女の子を宮廷魔法使いにしたい、と」

 俺はそれを聞いて、全身に冷水をかけられたような感覚に陥る。

 白フードの男は恐らく、黒龍さんである。どうして、黒龍さんが男の子の師匠に接触したのだろうか?

 話がおかしい。宮廷魔法使いになったのは女の子ではなく、男の子、つまり、鏡の中の支配者(スローネ)だ。だが、王の欲していたのは女の子、つまり、赤犬さんだと言っている。話が矛盾している。

「そう言われた青年は困った表情をしていました。その時、男の子の頭は真っ白になりました。女の子は本当に遠い人間になってしまう。でも、宮廷魔法使いになれば、あの女の子は裕福な暮らしが出来る。それなら、黙って祝福してあげるのがいいのではないか、と。でも、男の子は聞いてはいけないことを聞いてしまった。青年はこう言ったのです。『貴方は私の弟子に壊れろと言いたいのですか?』と。宮廷魔法使いは表では華やかに振舞っているが、裏では危険因子を排除しなければならない。それをあの子にやらされろと言うのか、と。今度こそ、男の子は信じられなかった。あの正義感が強い女の子がそんなことが出来るはずがない。あの女の子をあの男に渡せば、確実に、あの女の子は壊されてしまう。男の子は無意識的に魔法陣を描いており、その男に向けて、魔法を発動させていた。白フードの男は魔法を避け、男の子を殺す気で魔法を発動させた。その時、青年は男の子を守ろうとして、魔法を展開させようとしましたが、間に合いませんでした。男の子は恐怖で動くこともできませんでした。男の子はもう駄目だ、と思った瞬間、奇跡が起きました。白フードの男の魔法があったはずなのに、痛くありませんでした。男の子が恐る恐る目を開けてみると、いつの間にか、魔法が消えていたのです。それには青年も白フードの男も何が起きたのか分からなかったようです。すると、白フードの男は男の子に近づき、こう囁きました。『お前が宮廷魔法使いになるのなら、女の子は助けてやる』と。男の子は何が起きたのか分かりませんでしたが、迷わずに頷きました。それで、女の子が助かるのなら、それでいい、と。ですが、男の子がいざ、宮廷魔法使いになると、男の子に待っていたのは地獄でした。同じ宮廷魔法使い達によるいじめ、リンチ………。男の子はやめたくて、仕方がありませんでした。ですが、自分がやめれば、あの女の子が入れられてしまいます。だから、男の子はどんな仕打ちも耐えていきました。男の子が宮廷魔法使いになり、一年が経ちました。その時、男の子は思いもよらぬ形で、女の子に再開することになりました。女の子が宮廷魔法使いになっていたのです。万が一、王に女の子が試験を受けても、受からないように再三お願いしたのにもかかわらず、王は願いを叶えてくれませんでした。その事実に、男の子は頭が真っ白になりました。女の子には宮廷魔法使いにはなって欲しくはなかった。なのに、こうなってしまったのか。その頃の男の子は情緒不安定でしたが、その日を境に、壊れて行きました。自分が何をしているのか、何をしたいのか分かりませんでした。男の子の行動は異常としか言いようがないものになっていきました。そして、男の子は最大の過ちを犯すことになりました。男の子は自分の師匠を殺すことになってしまいました」

 俺はその言葉に絶句するしかなかった。

 この男の子は女の子の為に生きてきた。だが、女の子を守りきることができなかった。その事実は男の子にとって、重くのしかかるものだったのは窺い知れる。その上、自分が尊敬する師匠を自分の手で殺してしまった男の子は自分を恨みきれないのではないのだろうか?

 もし俺が赤犬さんを殺してしまったら、どうなるのだろうか?おそらく、俺は生きていくことが出来るだろうか?

「男の子は守りたいものを守りきることのできない上、青年と女の子の人生を狂わせてしまったどうしようもない人間なのです」

 彼は話し終えたのか、俺の方を見る。

「………これがかつて“蒼狐”と言われた魔法使いのお話です。貴方はこの魔法使いをどう思いますか?可哀想な奴ですか?自業自得な奴ですか?どうしようもない奴ですか?」

 俺は彼を責めることができるほど、立派な人間ではない。一歩間違えれば、俺も彼と同じ道を歩む可能性だってある。

 もしこの賭けで負ければ、俺は確実にそうなるだろう。

「………それは男の子が弱かったからじゃないのか」

 俺がそう言うと、彼は驚愕の表情を浮かべる。

「別に、能力的とか、実力的に弱いと言っているのではなく、彼は精神的に弱かった。彼は優しかったから、弱かった。弱いのなら、弱いなりの方法があったと思う。自分自身でどうにかしようとするのではなく、女の子に頼って、二人でどうにかするべきだったのじゃないのか?少なくとも、女の子は男の子に頼られたかったんだと思う。だから、女の子は宮廷魔法使いになったのだと思う」

 どっちかが守る、守られるのではなく、一緒に協力すれば、一人一人ではどうにもならなくても、乗り越えることが出来る。

 それがあいつと一緒に行動して学んだことである。

 あいつの趣味に初めて付き合わされた時、何故か嬉しかった。俺のことを頼ってくれたことがとても嬉しかった。

 実は、女の子は男の子に頼って欲しかったのかもしれない。だから、女の子は男の子の進んだ道に行った。それが間違いだったと知らず………。

 だから、男の子が悪いとも、女の子が悪いとも言えない。彼らは互いを必要とするべきだったのだ。そうすれば、別々の道に進むことはなく、一緒の道を進むことが出来たかもしれないのに………。

「俺はあいつのことを信頼している。そして、あいつは俺のことを信頼してくれている」

 そうでなければ、あいつが自分の人生を懸けるようなことはしない。だから、俺は城の中に蔓延るこのシステムをぶち壊し、俺自身の自由を勝ち取らなければならない。

 それがこいつの信頼に対する礼儀だと思うから。

「だから、俺はこいつに感謝している。こいつがどんな想いで、来たのかは知らないが、こいつに会えて本当に良かったと思う。ありがとう」

 俺はそれだけ言うと、青い鳥の頭をペシッと叩く。すると、彼は驚いた様子を見せていたが、

「…………感謝の言葉を述べた後に頭を叩くなんて、ルール違反です」

 こいつは眠気眼を擦りながら、そんなことを言ってくる。

「起きたなら、寝たふりなんてしないで起きやがれ。重いんだよ」

 俺がそう悪態を吐く。

「女性にそう言うことはよくありません。女の子は体重を気にするものなんです」

「なら、毎日、筋トレをするのはやめろ。お前は知っているか?脂肪より筋肉の方が重いと言うことを」

「ムウ。そんなことを言うのは酷いです」

 こいつはしょげているような様子を見せる。

「………驚きですね。まだ一時間しか経っていないというのに………。貴女の身体は一体どうなっているのですか?」

 鏡の中の支配者(スローネ)は苦笑いを浮かべる。

「私が知りたいくらいです。まあ、私の身体のことはどうでもいいです。それよりも、明日の夜、忘れないで下さい」

 こいつはそんなことを言い、扉を開け、

「では、また明日」

 部屋からいなくなった。俺も青い鳥の後を追おうとすると、

「お兄さんは時々貴方達が羨ましいと思います。もしお兄さん達が貴方達のような関係が作れたら、こんなことになることはなかったのかもしれませんね」

 そんな呟きが聞こえてきた。

 その時、俺は彼の本音を垣間見たような気がした。

感想、誤字・脱字等がありましたら、よろしくお願いします。

次回投稿予定は9月15日です。

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