再度、駅へ
返り血を拭いたかったが、今は駅へ向かうことを優先した。
全てが荒野と化した僕の住んでいた町。
建物も道路も何もかもがなくなった。見えるのは、ルーラーがいる駅だけだった。
「千一くん、血、平気?」
「拭いたいけど、近くに水もないし、今は駅へ急ごう」
身体の左半分は返り血で真っ黒になっている。
この荒れ果てた川も近くにないこの場所で、水を手に入れるのは不可能だ。
何も考えず、ただ僕は駅へと一目散に走った。
駅までは約三十分で着いた。敵が一体もいなかったからだ。
駅周辺に着くとルーラーの親玉は東口を向いていた。
つまり、初めて見たときと向いている方向が違うのだ。
「親玉、向き変えているぞ。何でだ?」
「あまり気にしなくても良いと思うよ」
レイはそう言うので、地下通路まで走って、東口へ出ようと考える。
地下通路まで残り数メートルまで来た。
「あそこを通れば東口なんだね、急ごう!」
「ああ」
その直後、僕の視界は完全に黒へと姿を変えた。
気がつくと腕を縛られて、立たされていた。
周りには僕と同じ人間がU字の形で並ばされていた。僕を合わせてざっと五十人くらいか。
どこかで見たことのある人たちだと思ったら、古城で身を寄せ合っていた生き残った人たちだった。
「みんな、どうしてここに・・・?」
「おお、君は助けてくれた少年じゃないか。そうか、君も捕まったのか」
「捕まった? 誰に?」
「無駄話はそこまでにしてもらえないかな。チイチ」
聞き覚えのある声だった。だが、思い出せない。
すぐに声の主が現れる。
「久々だね。まさか本当にあのチビどもを君が倒すなんて思わなかったな。やっぱり君は気に入ったよ。でも、こんなあっけない姿になっちゃったのは正直、笑っちゃうけどね」
ニヤニヤしながら僕の無様な姿をあざ笑う男に怒りが渦巻く。
「チイチ、君はミニルーラーと呼んでいたあのチビどもを倒したことは素直に認めるし、称賛するよ。でも、残念だけど君はここでゲートを開く材料になってもらうよ」
「材料・・・?」
「君は最高の力を持っている。面白いくらいにね。何、殺しはしないよ。チイチの運が悪かったら、足が少しずつなくなっていくだけだよ。ま、最終的には死んじゃうんだけどね」
「は、はあ? 何言ってんだ?」
こんなもの、ただの脅しだ。僕が材料なんかになってたまるか。
「まあ、あくまで信じないならそれで良いよ。言ってしまえば今の君はただの人間だ。あの力の根源である小さな機械がないからね」
指をパチンと鳴らすと、中央からガラスケースに包まれた僕の携帯が出てきた。
「力の根源がないチイチなんてただの人間。チイチ達の言葉で言うと、虫ケラってものだね」
「な、何言ってんだよ!」
「人間って生き物は窮地に立つと考えるのを捨てるんだ。面白いな。安心してよ。さっきも言ったけど、運が悪かったら足がなくなって、腹がなくなって、最後には頭もスライドさせられるだけだから。タイミングよく飛んでいればそんなことないからさ」
パチンと指を鳴らすと、一番端にいた人が次々に叫び始める。
五番目くらいの人から波のようにジャンプし始めた。
すぐに気付く。僕たちの足元に、何故小さな穴があるのか。
隣の人がジャンプした一秒後、僕もジャンプする。目を下にやると僕の想像通り、刃が下を通り過ぎた。
「そう、そうだよ。そうやって飛び続けてゲートに力を与えて行くんだ」
「ヴイバサ・・・すぐに止めろ」
「・・・・やっと僕の名前を呼んでくれたね。忘れたのかと思ったよ」
「止めろ」
「僕の名前を忘れたのかと思ったよ。忘れてたらいやでも」
「止めろって言ってるのが聞こえないのか!!!」
「呑気に叫んでいても良いのかな? また刃が戻ってくるよ」
さっきと反対側の人がジャンプしたのが見えたので僕もすぐにジャンプする。
「あはははは! 滑稽だ! 良いね、すごく惨めで、生きるのに必死なチイチ最高だよ!」
そのまま笑いながらヴイバサは姿を消した。
「くっそ、どうすりゃ良いんだ・・・」
このまま飛び続けていれば、ヴイバサの言う通り、駅前の鼓舞門にあったゲートが開いて地球はあの生き物に支配されてしまうだろう。
これ以上、僕の町を破壊されるのは許せない。
あいつを絶対に、許さない。
直後、僕のポケットにあった音楽機器が音を上げた。
「千一くん? 私だよ。マインドコントロールで剣を出して、縛っているものを斬って。その後はこの中から出て、スマートフォンを持って」
レイの言う通り、僕は右手を剣に変えて、思い切り手首を上に向け、刃を切り離す。
刃は綺麗に僕を縛っていたものを切り裂き、同時に地面に刺さった。
そのまま下を行き来していた刃の動きも止めた。
「よし、出るぞ!」
今まで一度も使ったことのないアタックのアイコンをタップする。
不思議と、どこからか力が湧いてくる。前にある見えない壁に軽く触れると、全て壊れた。
端っこの人以外、全員一歩前へと踏み出した。
僕の周りでは相変わらず救世主だとか神様だとか聞こえているが、無視して、スマートフォンを持って、階段を駆け上がって行った。
つづく
久々の更新です。
U字の~って設定はちょうど一年ほど前に千一と同じ状況に立たされた夢を見たので、そこから取りました。
次か、その次の話で終わらせる予定です。